A6 飛ばぬスズメを見る夜

パタンとスズメは息絶えた。

老夫婦がカウンターに置き忘れたiPhoneを取りに再度来店したのだ。彼らにスズメの生き生きとした姿を見られてはならなかった。老夫は目頭に小さな水溜まりを作り、グッとそのシワだらけの口元をへの字に曲げた。

真冬の気配がカウンターを走り抜ける。

「わるい、気づかなかった。スマホね、スマホ。」

リョウさんの暖かい言霊は真冬の気配に体温を奪われる。

「リョウさん。あまりね、細かい話はしないけどね。僕はしばらくここへは来ないよ。世話になった。」

老夫は水溜まりを弾けさせ、私たちに朽ちた大木のような背中をさいごに見せてから、店を後にした。扉は丁寧に閉められた。老婦は真冬の店外で身を震わせ泣き叫んでいた。


「ユキさん、行こう。外に出よう。リョウさん、お会計!」


「スズメを助けに行くんだね。」

「そう言うことになるかもしれない。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る