C1 小人
いつからか、深い森に住む小人……。記憶の始まりは昼の木漏れ日。多数の葉の揺らぎ。緑と土の湿った香り。大木は横たわり、肘を突いて一休みしている。自分は誰から生まれたのか、自分は何を生むのか、ふたつの問いを行ったり来たり。横たわる大木に腰をかけ、2本の足を揺らしながら考えた。ある種の唐突な記憶喪失にも似た感覚。
私はいつ生まれたのか、昔にも一度生まれたような気もする。その頃の森は……もっとガヤガヤと、毛虫や鳥が話しかけてきたり、洞窟がいきなりに現れたり、賑やかだったような。しかし、それは記憶と言うよりは印象に過ぎない。
森をずっずっと歩いていると、誰かに「久しぶり」と大きな意志で語り掛けられたような気もした。私はやはり過去に一度…生まれていたのだろうか。
この森にはいったい私以外に誰がいるのだろうか。生きた木々と土、空気、水。当たり前にそこにある。しかし私以外に誰がいるのか。地面の凹凸は空気や水の流動によるものではあろうが、木々の幹は艶やかで他のものの気配はないし、物音といえば私自身の慣れない鼓動のみ。
私は気付かない、大きな意志の実在に。
あなたは気付いているだろうか、私の小さな存在に。
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