B1 こんにちは、想像の世界。

街が嫌いだ。

どうにも、流行りの話題が突風になり駆け抜け、雑言がこびり付いた部屋で息をし、愚の念の溜めが家具や電灯の裏から覗いているような場所では生きていけない。


森は好きだ。

森に在る情報は品が良い。手抜きがない。限られた種類の情報ではあるが、どこまで拡大してみてもその表面は滑らかで、肌触りが良い。多様な植物の遺伝情報や空気や水の流動……人為的に組まれたプログラムはいつまでもその精巧さに追いつくことができない。


小人は、大樹を住処とし、川の水を飲み、木の実を潰して食事とする。小人は私が思い浮かべた仮想ではあるが、当たり前の顔をして森に住んでいる。また、その森さえも私の仮想ではあるが、その遺伝情報は相変わらず品が良いし、空気も澄んでいる。


私はその仮想の小人と出会い、言葉を交わした。


「私を産んでくれてありがとう。お礼を贈るよ、遠慮はしないで。」


声は波形を持たず、意味のみが、想像の世界より伝達される。


「ところで、この森に郵便局はあるのかな?」


「森の奥の"水の溜まり"へいってごらん。その傍にポストを建てておいたよ。贈り物を楽しみにしているね」


私はうつろに部屋を見下ろし、静かに眠りについた。

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