こんにちは、想像の世界。

モリハウス

A1 こんにちは、現実の世界。

 スパゲティの茹で上がりを目前に退屈していた。

 眼球を突き刺すガス火の光線は、眼底を通り過ぎる頃には躍動する力を失っていた。コンロの上部に設置された換気扇は、空気の排出に一所懸命になっているのみで、その回転運動によるバタフライエフェクトについて考えているわけもなかった。電気であれ、地球の自転であれ、地球上全ての外的刺激が同様のような有様である。私の脳波は一切の乱れを許さない。

 何に思考を預けようか、と足掻く。私は耐えきれず、アメリカンスピリットに着火。喉が焼き切れるほどの執拗な腹膜の膨らみが葉を灰に変換する。室内に侵入する太陽光を外界へ押し出すために、半ば強引に腹膜を収縮させ、ビル風“風”な風音を立て煙を吐き出す。光は揺らぎ、またすぐ平らに戻る。ふた吸い、み吸いとし、同方向へ煙を投げたあたりで、キッチンタイマーが悲鳴をあげた。どうも、時の終わりを告げる電流は機械にとっても機嫌のいいものでは無いらしい。退屈の時間は別れの挨拶もせず消えた。その突然な消失は非常に腹立たしく、怒りが警告のように窓から吹き込んでくるようである。目前に完成した食物を胃の底に投げ落とすまで、街はひっそりと無音を保った。

 これが現実なのだから、休日というものは嫌だ。食べ残した即席ソースは、流動した麺表面を荒々しく写し取り、白い平皿に唯一無二の模様を作り出す。僕はその立体的なソースの縁の際立ちを一度確認し、蛇口を大胆に開ける!固形化したソースがバラバラとほどけて、流しを滑ってゆく。

 不機嫌なノックが時間を区切る。

「郵便局です。」

 端的で低い女性の声。何か届く予定であったか。いや、無い。しかし、当然のようにドアはノックされ、ゴンゴンゴンと三回音を鳴らした。

「送り先に名前の記入はありませんが、届け先はこちらで良かったでしょうか。」

「わかりませんが、受け取ります。」

10cm方の白い紙箱。やけに軽く、冷えていて底はうっすら湿り気を帯びていた。

送り先には確かに記名がないし、その筆跡に見覚えはなかった。

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