第二回企画会議

Plan Doの後はCheck-Actそれと Practice

ここ数年とは打って変わって、厳しい寒さを見せる12月30日。

PDP#1 Alien's cellが公開されてから約1か月。

逆転のための一手を打ったものの、ジャパリプロは相も変わらず電話ではなく閑古鳥が鳴く有様である。代表であるジャイアントペンギンはパイプ椅子に腰かけ―もはや滑り落ちる寸前のような体勢で天を仰いでいた。


「おはようございまー…何してるんですか?」


「何って…見ての通りさ。」


「いや、わかりませんけど…。」


「…。」


「…お茶でも淹れましょうか?」


「ああ、うん。」


脊髄反射のような返事だ。こちらを向こうとする素振りすらもない。


「先輩いま頭働いてます?」


「もちろん。絶賛稼働中だよ。」


「そうは見えないんですが…。」


「そんなことより早くお茶を淹れて欲しいんだけど。反省会ができないから。」


「なるほどそれでそんな感じだったんですね。今すぐ準備します。」


お茶を淹れ終わり、二人は会議室へと移動した。


「それじゃあ、結論から言わせてもらうけど…。」


「はい…。」


今回の企画の結果は新人も理解はしていた。していたが、改めて上司から言われるとなると思わず唾をのんでしまう。


「…今回の企画、反省点が何個もあるよ。」


「…は、はい。」


しかし、その言葉は思いのほか柔らかく拍子抜けしてしまう。先輩なりの配慮だろうか。


「まず一つ目だけど、確実に制作期間が短すぎるね。今更だけど。」


「今更過ぎませんか?」


映画の制作といえば、最低でも月単位、長いものならば数年を費やすものもある。しかし今回の「Alien's cell」は制作期間約2週間、撮影に至っては1週間未満という突貫かつ無謀なものだった。


「あれは寿命を縮めるよ。自分で演じてみて痛感したね。心配だからしばらくPPPとマーゲイはパークでバカンスさせることにしたよ。私も反省会が終わったら一度パークに帰るよ。」


「是非そうしてください。僕も自分で書いた脚本とはいえモブ役が多くて大変でした。」


「それは『PPP以外は出さない』って言ってたのに無駄にモブを生み出した君の自業自得じゃない?」


「おっしゃる通りです。」


物語の進行上、どうしても必要なモブが発生した。当初はCGでごまかそうともしたが、セリフがあるものも多く、一つ一つに口の動きなども合わせていたようでは到底間に合わず、担当のマーゲイもパンクしてしまうということで、ほとんどのモブを新人が演じていた。


「まあ君もゆっくり休むといいよ。なんでも『お正月』ってのは大事なんだろう?」


「はい。ありがとうございます。」


「そのためにも早く反省会を終わらせよう。次の反省点なんだけど。」


「はい。」


「役名についてだね。これは完全に失念していたんだけど。」


「役名…ですか?何かまずかったですかね。」


「いや、別に悪いわけじゃないんだ。むしろ映画で普段のPPPとは関わりのない物語を演じる以上は普通なんだけどね。ただ…そうだな…、例えば、特段演技がうまいわけではない新人俳優がドラマに出ていたとして、君はその俳優の名前と演じていた役名、どちらを先に覚えるかな?」


「それは…物語に集中するとすれば役名ですかね…。何か有名な団体に所属してれば逆かもしれないですけど。」


「そう。そこなんだよ。ましてまだ売れてない彼女たちだけで構成された作品ともなれば、まず見ることも躊躇ってしまうだろう。そして見たとしても、特段演じ方が上手くない以上、意識は物語に流れる。そうなれば、彼女たちの名前を知ってもらうのは難しいだろうね。」


「ジェーンちゃ…さんは個人で練習されてはいますが、コウテイさんたちは完全に素人ですからね…。」


「そこはまあ練習も必要だね。で、役名なんだけど、今後は全部本人の名前を使ってほしい。」


「本人の名前ですか?」


「そう。そうすれば役名から本人につなげるプロセスがなくなって、より覚えてもらいやすくなると思うんだ。それに、さっき君が言っていたように有名な団体…PPPやパークのことを使いやすくなって、それらを知っている人からの拡散も狙える。」


「なるほど…!!」


アイドルやアーティストが俳優として活動を始めると、出演する作品のことを知らなくても「見てみよう」と思うファンは少なくはない。逆に、そういったアイドルやアーティストを主役に抜擢したり、作品自体の売り文句にすることも今となっては普通になってきている。実際、それで数字も取れているのだろう。


「このプロジェクトの趣旨である『PPPの輪を広げる』とは反対のことかもしれないけど、それでも新規の人を取り込むには多少起爆剤が必要だからね。」


「背に腹は代えられない、ってことですね。」


「うん。…っと、お茶も冷めてしまったし、とりあえず大きな反省点は共有できたから、この辺でお開きにしようか。」


「あ、そうですね。いろいろと教えていただいてありがとうございました。本来は自分でもこういう反省ができなきゃいけないですよね。」


「いやいや、気にしないでいいよ。そのための新人研修だし、何より同じ会社の仲間じゃないか。」


「先輩…。」


「…それでも申し訳ないと思うのなら、この休みの間に次の企画のことも考えてみてくれない?これが大まかな内容なんだけど。」


そう言って、小脇に抱えていたバインダーから書類を1枚とり、差し出してきた。


「…見なかったことにしていいですか?」


「いいけど、そしたら私たちは日本から引き上げる。もちろん君とはここでサヨナラってことになるね。」


「ですよね…。」


書類を取り出した時点である程度予想はしていたが、それに書かれていたのはやはり「PDP#2」についてだった。


「それじゃあ、よろしく!」


新人がしぶしぶながら書類をカバンにしまったことを確認すると、先輩はそそくさと帰り支度を済ませて事務所を出て行ってしまった。




帰り道。平地ということもありなかなか雪が降ることはないが、朝晩は耳が切れそうなほどに寒かった。


新人はコンビニのコーヒーを片手に、中身を確認せずにカバンにしまったPDPの書類を取り出した。


「えっと…タイトル、『Fとは打って変わって、厳しい寒さを見せる12月30日。

PDP#1 Alien's cellが公開されてから約1か月。

逆転のための一手を打ったものの、ジャパリプロは相も変わらず電話ではなく閑古鳥が鳴く有様である。代表であるジャイアントペンギンはパイプ椅子に腰かけ―もはや滑り落ちる寸前のような体勢で天を仰いでいた。


「おはようございまー…何してるんですか?」


「何って…見ての通りさ。」


「いや、わかりませんけど…。」


「…。」


「…お茶でも淹れましょうか?」


「ああ、うん。」


脊髄反射のような返事だ。こちらを向こうとする素振りすらもない。


「先輩いま頭働いてます?」


「もちろん。絶賛稼働中だよ。」


「そうは見えないんですが…。」


「そんなことより早くお茶を淹れて欲しいんだけど。反省会ができないから。」


「なるほどそれでそんな感じだったんですね。今すぐ準備します。」


お茶を淹れ終わり、二人は会議室へと移動した。


「それじゃあ、結論から言わせてもらうけど…。」


「はい…。」


今回の企画の結果は新人も理解はしていた。していたが、改めて上司から言われるとなると思わず唾をのんでしまう。


「…今回の企画、反省点が何個もあるよ。」


「…は、はい。」


しかし、その言葉は思いのほか柔らかく拍子抜けしてしまう。先輩なりの配慮だろうか。


「まず一つ目だけど、確実に制作期間が短すぎるね。今更だけど。」


「今更過ぎませんか?」


映画の制作といえば、最低でも月単位、長いものならば数年を費やすものもある。しかし今回の「Alien's cell」は制作期間約2週間、撮影に至っては1週間未満という突貫かつ無謀なものだった。


「あれは寿命を縮めるよ。自分で演じてみて痛感したね。心配だからしばらくPPPとマーゲイはパークでバカンスさせることにしたよ。私も反省会が終わったら一度パークに帰るよ。」


「是非そうしてください。僕も自分で書いた脚本とはいえモブ役が多くて大変でした。」


「それは『PPP以外は出さない』って言ってたのに無駄にモブを生み出した君の自業自得じゃない?」


「おっしゃる通りです。」


物語の進行上、どうしても必要なモブが発生した。当初はCGでごまかそうともしたが、セリフがあるものも多く、一つ一つに口の動きなども合わせていたようでは到底間に合わず、担当のマーゲイもパンクしてしまうということで、ほとんどのモブを新人が演じていた。


「まあ君もゆっくり休むといいよ。なんでも『お正月』ってのは大事なんだろう?」


「はい。ありがとうございます。」


「そのためにも早く反省会を終わらせよう。次の反省点なんだけど。」


「はい。」


「役名についてだね。これは完全に失念していたんだけど。」


「役名…ですか?何かまずかったですかね。」


「いや、別に悪いわけじゃないんだ。むしろ映画で普段のPPPとは関わりのない物語を演じる以上は普通なんだけどね。ただ…そうだな…、例えば、特段演技がうまいわけではない新人俳優がドラマに出ていたとして、君はその俳優の名前と演じていた役名、どちらを先に覚えるかな?」


「それは…物語に集中するとすれば役名ですかね…。何か有名な団体に所属してれば逆かもしれないですけど。」


「そう。そこなんだよ。ましてまだ売れてない彼女たちだけで構成された作品ともなれば、まず見ることも躊躇ってしまうだろう。そして見たとしても、特段演じ方が上手くない以上、意識は物語に流れる。そうなれば、彼女たちの名前を知ってもらうのは難しいだろうね。」


「ジェーンちゃ…さんは個人で練習されてはいますが、コウテイさんたちは完全に素人ですからね…。」


「そこはまあ練習も必要だね。で、役名なんだけど、今後は全部本人の名前を使ってほしい。」


「本人の名前ですか?」


「そう。そうすれば役名から本人につなげるプロセスがなくなって、より覚えてもらいやすくなると思うんだ。それに、さっき君が言っていたように有名な団体…PPPやパークのことを使いやすくなって、それらを知っている人からの拡散も狙える。」


「なるほど…!!」


アイドルやアーティストが俳優として活動を始めると、出演する作品のことを知らなくても「見てみよう」と思うファンは少なくはない。逆に、そういったアイドルやアーティストを主役に抜擢したり、作品自体の売り文句にすることも今となっては普通になってきている。実際、それで数字も取れているのだろう。


「このプロジェクトの趣旨である『PPPの輪を広げる』とは反対のことかもしれないけど、それでも新規の人を取り込むには多少起爆剤が必要だからね。」


「背に腹は代えられない、ってことですね。」


「うん。…っと、お茶も冷めてしまったし、とりあえず大きな反省点は共有できたから、この辺でお開きにしようか。」


「あ、そうですね。いろいろと教えていただいてありがとうございました。本来は自分でもこういう反省ができなきゃいけないですよね。」


「いやいや、気にしないでいいよ。そのための新人研修だし、何より同じ会社の仲間じゃないか。」


「先輩…。」


「…それでも申し訳ないと思うのなら、この休みの間に次の企画のことも考えてみてくれない?これが大まかな内容なんだけど。」


そう言って、小脇に抱えていたバインダーから書類を1枚とり、差し出してきた。


「…見なかったことにしていいですか?」


「いいけど、そしたら私たちは日本から引き上げる。もちろん君とはここでサヨナラってことになるね。」


「ですよね…。」


書類を取り出した時点である程度予想はしていたが、それに書かれていたのはやはり「PDP#2」についてだった。


「それじゃあ、よろしく!」


新人がしぶしぶながら書類をカバンにしまったことを確認すると、先輩はそそくさと帰り支度を済ませて事務所を出て行ってしまった。




帰り道。平地ということもありなかなか雪が降ることはないが、朝晩は耳が切れそうなほどに寒かった。


新人はコンビニのコーヒーを片手に、中身を確認せずにカバンにしまったPDPの書類を取り出した。


「えっと…タイトル、『Full Magic』?…主役はフルルさん…へぇ…魔法少女もの…は!?魔法しょ…!」


危うく街中で「魔法少女」と叫ぶところだったが、我に返りギリギリこらえる。


「…いやいや、ていうか、新人研修っていう割にはまた脚本やることになってるし。それに、どうしてこう…内容が攻めてるんだ…?」




「もしもし、先輩、何個か確認してもいいですか?」


年明けには、まだまだかかりそうだ。

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