チャプター2 プロジェクトI.P.

「エイリアンは、あの星は、まだ生きています。」


英雄フラン・タクトが発した言葉に、カメラのフラッシュすら沈黙した。


「星の核破壊から五か月。エイリアンは我々に害をなしてはいません。しかし、今後もそのようにとはいかないでしょう。現に彼らは…」


『緊急連絡!緊急連絡!』


フランが次の言葉を発しようとしたとき、非常ベルがけたたましく鳴り響いた。


『南西方面より所属不明の機影が接近中…!!、訂正します!戦闘機型エイリアン3機!!繰り返します!!戦闘機型エイリアン3機が南西方面より接近中!!』


沈黙していた会場が、フランが発したことを裏付けるような状況に再びざわつき始める。


リベラ達も、すぐにでも出動しようと立ち上がっていた。


「サヤカ、メイ!」


「ああ、行こう!」


「待て、武器はどうするんだ。」


「護衛用の機体を借ります!それで…」


「落ち着け…」


「え…?」


「落ち着いていただきたい!!!」


声を荒らげ、フランが混乱していた場を制する。


「…失礼。ですが、ご心配には及びません。」


「隊長、しかしエイリアンは…」


「リベラ、君は量産型の武装で戦闘機型をどうするつもりだ?観測ミスで爆撃機型だった場合の対処は?一機でも取り逃がせば大惨事の状況で、性能差のある相手を確実に仕留められる保証は?」


「それは…」


「だとしたら?」


「?」


来賓席にいたいかにも偉そうな人物からヤジが飛ぶ。


「そこまで分かっているのにどうして落ち着いていられるのか、説明したまえ!!」


「…。」


「無いのか!?気休めかね!?どうなんだ!フラン小隊長!!」


「…はぁ。よろしいでしょう。ご心配なさらずとも、準備は整っております。あなた方は今まで通りその席に座って窓の外を眺めながらふんぞり返っていればいい。」


「なんだ貴様!!母国の上官に向かってその態度は!!」


「母国?上官?3か月前に…いえ、今は人間同士で争っている場合ではありませんね。サヤカ。」


「はい。」


フランが胸ポケットから小さな端末を取り出し、フランに投げ渡した。


「それが鍵だ。裏門側に準備してある。」


「了解!」


サヤカが会場から出ていくのを確認し、フランは視線を戻した。


「ではご説明させていただきましょう。私がこの5か月準備してきた…」




「『プロジェクトI.P.』について。」



――――――――――――――――――――――――――――――――


「これは…!」


裏門を出たサヤカは驚愕した。


現行の対エイリアン機動装甲といえば、せいぜい3m程度のものだ。しかし、今サヤカの目の前にあるものは見上げるほど大きく―10mほどだろうか。

さらに言えば、操作効率の観点から人型が当たり前になっているのだが、目の前のそれはある種要塞のような出立だった。


「これで、動けるのか…?」


見た目が見た目なだけに、現行のものとの差が気になってしまう。


「…いや、迷っている場合じゃないな。隊長にも何か考えがあるはず。」


『ああ、その通りだ。』


「!?」


フランから渡された端末が急に鳴り出す。

声の主はフランだった。


『聞こえたみたいだな。とりあえず、早く乗ってくれ。』


フランのその声に反応したかのように、コクピットであろうところからワイヤーが下りてくる。



『サヤカ、申し訳ない。本来はこんな形にするつもりはなかったんだが…緊急時だがこの機会を逃すのは惜しい。今回の戦闘をその機体のデモンストレーションにさせてくれ。』


「デモンストレーション?」


『ああ。各国のお偉いさんへの新兵器のお披露目も兼ねてね。』


「…了解。」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「この『プロジェクトI.P.』は全3機で構成されます。そのうちの1機が、あの機体…、『IP-01 エンペラー』です。」


リベラに託したカメラからの映像を流しながら、フランは淡々と説明を続ける。


「サヤカ、聞こえているな?」


『はい。』


「基本的な操縦は汎用型と大差ない。ただ…右手側にあるレバーがその機体の主要装備だ。」


サヤカが操縦を開始したのか、その機体―エンペラーは肩に抱えた大型のライフルを構えた。


「こちらは超長距離用に開発した2連ライフルです。…サヤカ、目標は二時方向。観測はできているか?」


『はい。問題なく。』


「では…、撃ち方始め!!」


フランの号令の直後、会場全体を轟音が包み込む。

その後、2発目、3発目と続けて打ち込んだ。


「通信手、状況は?」


「…偵察部隊より、…殲滅完了です。」


「まだ200㎞も先だったんだぞ!?」


「仮に届いたとして装甲を抜けないだろう!」


「大体、あんなものどうやって量産を?」


「ご説明!!」


喧騒を断ち切ったのは、またしてもフランの声だった。


「…いたしましょう。」




「このプロジェクトI.P.は、現行の対エイリアン機動装甲とは違い、量産は行いません。先ほど申し上げた通り、全部で3機の機動装甲で完結します。」


「対抗策を量産できないだと!?それではまたあの長い戦いをやり直すのと同じじゃないか!!」


「対抗策…いえ、このプロジェクトを対抗などと甘い表現で納めないでいただきたい。これは『決戦用』の兵器です。」


「フラン小隊長でしたかな?私は米国で主に外交を担当するものですが。」


「これはこれは、ご足労いただきありがとうございます。」


「いえ、それでですがね?これほどの…決戦兵器をあなた方が所有するとなると、こちらとしてはエイリアンの問題が片付いた後が心配になりますね。」


「その通りだ!」


「戦後といわず、戦時中に横槍を刺されない保証がどこにある!!」


再三の喧騒。しかしフランは、やはり落ち着いて話を続けた。


「はぁ、こんな状況ですら人間同士で争い合うとは、本当に愚かです。…失礼。御心配には及びませんよ。私―フラン・“タクト”は…」




「3か月前に、所属していたドイツ軍を退役、国籍も抹消しております。まして、私の部隊も、この機体も、プロジェクトも、どの国に対しても融通するつもりはございませんので。」

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