第2話 言葉と倉庫と初恋と片想いと小麦ちゃんの馬鹿っぷり
開け、ゴマ!
などと我が姉が叫んだ。
場所は家。目の前には、倉庫となっている小さな部屋。そこに俺たち二人は立っていた。
今朝方、小豆が「倉庫でアタシのパンツさがしてほしいんだが」と眼をすりすりしながら言ってきて、現在に至っていた。
というか、なぜパンツ。疑問に思い聞いてみれば、「さっき見たらパンツが全部なくなっていてな。あ、パンツ穿いてるからな、ちゃんと」
いやそれ、下着泥棒じゃん。警察呼びなよ。
「そう思って電話したさ、さっきな。そしたら、『ああ、お気の毒さまで。それで・・・・・・何色のパンツ盗まれたか教えてもらえませんか。ついでに、今穿いているパンツの色も是非』って言ってきてなあ。速攻切った」
「犯人、そいつじゃね?」
警察に下着泥棒いんのかよ・・・・・・。
「切る寸前、『グヘヘ』って笑ってた」
「完全に犯人じゃねえか!?」
そんなことがあり、どうやら倉庫部屋にパンツが数十枚置いてあるそうだ。
そのパンツ、父さんからのプレゼントらしい。
「学生時代な、なぜかパンツばっか寄越してくんの」
やべえやつじゃん。
「馬鹿だよな」
そうだな、我が父親は馬鹿だ。
「ブラも寄越せよな」
そこじゃねえ! お前も大概馬鹿だな!?
「いやぁ、ブラ欲しかったな。そしたら、ブラに金かけなくてよかったんだが」
ちょうど胸が成長期にあってすぐにきつくなったんだよ、と赤裸々──ではなく、笑いながら言った。
我が母親ながら、俺とは全然似てねえな。
「昼まで寝てるわ」と言って小豆は、自室に戻っていた。寝巻姿、まじいいな。
探すの手伝えと小麦ちゃんに言って部屋前まで来たものの・・・・・・開けようとしたら、なぜか開かない。内開きのドアだから、物が突っ掛かって開かなくなっているのだろう。
そうしたら、小麦ちゃんが叫んだのだ。
「開け、ゴマ!」
そんな言葉で開いたら、便利すぎだろ。自動ドアの代わりになるじゃないか。
「小麦ちゃん。バカなことはおよしなさい」
「ねーねー、麦ちゃん。このドア開かないよっ」
そりゃ開くわけないわな。ドアノブを使って開けるタイプのドアですから。
「じゃあ、『開け、ゴマ!』で開くドアに変えようよ」
「小麦ちゃん、『開け、ゴマ!』で開くドアは、この世界には存在しないんだよ」
「嘘だ!」
なぜそこで「嘘だ!」という言葉が出てくるのかが不思議でならない。
はぁ・・・・・・なんで俺の好きな人がこの人なんだろう。
我が姉、小麦ちゃんが、俺の片想い中の相手なのだ。
義理の姉というわけではない。正真正銘の実の姉だ。
俺の一つ上の姉。母親に似て美人である。
このことは、母親である小豆以外知らない・・・・・・というか、なぜか小豆は俺の好きな人が小麦ちゃんだということを知っていた。
ちなみに俺の初恋相手は、小豆である。故に、〝母さん〟や〝お袋〟などではなく、〝小豆〟と呼んでいる。なぜだろう、我が母親なのに我が母親とは思えないのだ。若く見えるからだろうか、同い年か少し年の離れた女友達──のような感じだ。
父親は、父親。特になんもない。普通の──いや、変人の父親だ。一年間でどのくらい髭が伸びるのかという実験をするほどだ。その髭でよく会社行けたな。
「麦ちゃあん」
「なんだよ、泣きそうな声してって泣いてる!?」
姉が、泣いていた。鼻水も垂らして、顔がぐしゃぐしゃだ。ガチ泣きじゃねえか。誰だ、姿見えないけど小麦ちゃんを泣かせたやつは!
「やっぱりドア開かないぃぃっ・・・・・・ぐすんっ」
まだやってたのか!
「嫌われたのかな、ドアに」
「ドアに自我はねえよ」
「えっ・・・・・・?」
「いやなに『こいつ何を言っているんだろう?』って顔してんだよ。ないだろ、自我」
「空気には?」
「いや、なぜそこで空気がでてきたのかはわからないが、空気にも自我はありません」
「はっはっはー。そんなまさか」
どんだけ認めたくないんだ・・・・・・。
オレンジジュースとアップルジュース 羽九入 燈 @katuragawa
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