オレンジジュースとアップルジュース

羽九入 燈

第1話 オレンジジュースとアップルジュースと黒酢とグレープジュースとコーヒーと地球消滅

 オレンジジュースは、百パーセントのものでなくてはならないと思う。それは、アップルジュースも然り。

 甘いオレンジジュースよりも酸味があるほうが好みだ。

 アップルジュースには酸味はないので、我が姉は「黒酢いれたらどうなるかな」とふと思い付いて今現在、キッチンで格闘中である。

「やめとけやめとけ。不味くなるだろ、それ」

「うーん、でもね、飲む黒酢ってのがあるじゃない? それって、アップル味もあるんだよ。だったら、黒酢いれてもいいんじゃないかな?」

 まあ、確かにそう考えるとアリかもしれないが・・・・・・不安だ。

 飲む黒酢は美味しいし、健康にいいと聞くが、自作する人はいるのだろうか。

「そもそも、オレンジの酸味と黒酢の酸味とでは、酸味の種類が違うだろ」

「あ、ほんとだ」

 気付くの遅いよ。

 まあ、試したくなるのはわからなくもない。

 小さい頃、よくファミレスでいろんなジュースを混ぜていたことを思い出した。烏龍茶に炭酸は駄目。やっぱり、そのままが一番だと思う。

「じゃあ、やめようかなー」

 言って、黒酢をマグカップに注ぎだした。

 いや、それ飲む気なのか!?

「あっ、やば、間違えちゃった」

 間違えただけかよ! ほんとに飲むかと思ったじゃえねか! 

 我が姉は、天然とアホの子が入っている。

「ねーねー、麦ちゃん麦ちゃん」

 黒酢どうするんだよ、捨てる気か。

「なんだなんだ小麦ちゃん小麦ちゃん」

「グレープジュースここにいれたらどうなるかなっ」

 マグカップを持ってぐーっ! と突き出して俺に見せてきた。

 いやだから、なぜ黒酢を入れたがる。

 本当に入れようとしていた小麦ちゃんを止め、コーヒーを淹れにキッチンへ向かう。

「あら、コーヒーがない」

 インスタントコーヒーがいつも置いてあるはずの場所になかった。

「お母さんが朝に飲んで空にしてたよー」

 珍しい。我が母親は、滅多にコーヒーを飲まないのだが・・・・・・もしや、仕事で嫌なことがあったな? 今晩は、エビチリにしてやろう。

 と、ぴろりん、とスマートフォンが鳴った。

「えっと・・・・・・小豆?」

 我が母親からのメッセージだった。仕事中はメッセージ寄越さないのに。今晩はエビチリ二種類にしてやろう。


《エビチリ》すまん、コーヒー飲んだから消滅した


 消滅したって・・・・・・違う言い方あるだろ。なぜそのチョイス。


《ウィート》いや、別にいいけど。俺のってわけじゃないし

《エビチリ》おう、まあ、そうだが。一応、お前が買ったやつだし

《ウィート》じゃあ、小遣い上げてくれ

《エビチリ》三十円か?

《ウィート》三十万の間違いではないのか

《エビチリ》破産させる気かキサマ

《ウィート》怖いです、母上

《エビチリ》じゃ、仕事戻る。帰りコーヒー買ってく

《ウィート》ありがとう。そして、がんばりたまえ

《エビチリ》なんでアタシに余計な仕事まわしてくるんだ!?

《ウィート》今晩は、エビチリ二種類大盛にしてやろう

《エビチリ》やる気でたわ


 さて、エビチリ用のエビがあったかどうか。あとで探さねばならない。

「おろ、母さんから? どうしたの」

 スマートフォンを見ていると、小麦ちゃんが後ろから覆い被さってスマホを覗いてきた。顔近いよ。

「コーヒー消滅したって」

「それ意味わかんない。消滅するのは地球だよ」

 ・・・・・・お前のほうが意味わからんよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る