第2話 訪問
読むのには時間がかかった。最初は一枚。
でも段々と読む量が増え、最後は徹夜していた。読み終えるまで一月かかっていた。
稲田スミ、さん。
詳しい年齢は自分でも解らないそうで、手紙の書き出し時点では90歳を超えているとのこと。
息子さんが一人、いた。
今は天涯孤独で、早いうちからコツコツ貯めていたお金で、自ら老人ホームに入った。
確かなのはこれくらいだろうか。
書かれた内容を詳しく知りたくなった。
本人に会ってみたくなった。
なけなしの金を集めて、住所わ頼りに”あおぞら老人ホーム“に向かった。
スマホもない時代。携帯電話の地図機能がやっと普及し始めた頃だ。
在来線と新幹線をのりついで最寄り駅にたどり着くと、そこからは歩き。
迷子の心配があったが、駅に着いたら思い出した。
自分は、ここに来たことがある。
そして老人ホームを知っている。
久々の田舎。自分の町は街灯が多く、非常に明るくて、道を狭めている。
しかしここには街灯が少なくて、夜道では非常に安心感を与える存在だ。だからか、道の途中にある街灯も邪魔には思わない。いや、そう感じるのは、自分が街中で育ったせいだろうか。
背の低い草の生えている道を歩き、水のはられた田んぼの畔を歩いた。
前回来た時は、迷子になった。そこで、たまたま稲田スミさんの家に行ったのだ。道を訊くために声をかけたのだ。
快く迎えてくれて、汗だくの自分にスイカをくれて、飲み物のも持たせてくれた。話を沢山した。
そんな人を、自分は忘れていた。
老人ホームに着いた。 田舎だからか、それとも自分が若いからか、簡単に通された。案内されるまま進む。
出会えたのは認知症が進んだ稲田スミさんだった。
安部さんはすぐにやって来た。
その時には、若い男性が珍しいからか、自力で移動できるご老人達が集まって来ていた。
安部さんが色々と話し、説明をすると、劇団員だということがバレて、本の朗読をさせられた。
キチンと聴かせられたのかどうか解らないが、それで満足されたのか、皆素直に職員さん達の指示にしたがっていた。
ようやく、稲田スミさんの前に立った。
話は聴けた。けれど支離滅裂の時があったり、話が繋がって無かったり。
一日で終わらず、老人ホームな泊まって。帰宅して、手紙や電話で話をして…安部さんの協力を得て、納得いく話になったのは半年後。
いや、納得しなくてはいけなかった。
稲田スミさんは、呆気なく亡くなってしまった。
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