第13話 不穏な気配
『妙だな……こちら
「こちら、シズク。大丈夫。現在、探査モードで稼働中。どうぞ」
ヨシュアからの通信にシズクは改めて、《アジュールダイバー》のモードをチェック。確かに探査モードになっていることを確かめた。
現在の3・3の任務は戦闘行動では無く、偵察および情報収集だった。
このためシズクやセレスティーナ、そしてカルディナの《アジュールダイバー》も戦闘に関しては自衛のみであとは情報収集に特化したセッティングへと変更されている。
作戦のステージ1を本格的に稼働させる前に、念のためにとセレスティーナが打ちだした計画に従い、3・3のメインスタッフによって事前探査を行っている。
日程は順調に消化されており、
このまま順調に進めば今日が最後になる予定だったのだが……ここに来て無視出来ない要素が現れたらしい。
『こちらセレスティーナ。ヨシュア、信頼性を欠いている……というのはどういう意味だ?』
シズクとヨシュアの会話にセレスティーナが割り込んできた。
大規模な作戦の成功率に直結する、事前偵察だけにやはり気負いがあるのだろう。
その声は心なしか、緊張しているようにシズクには聞こえた。
『こちら
「空っぽ?」
『ああ。アピスの巣の形跡はあるんだが……肝心のアピスがまったく探知できていない。これだけの規模の巣なら、この距離でも熱源探知に引っかかるはずだ。実際、昨日まではちゃんと探知できていた』
『それは……奇妙だな』
セレスティーナの言葉にシズクも首をかしげた。
たしかにヨシュアの言うとおりで、アピスも一体や二体ならば熱源探知は困難だが、それが数千数万という集団であれば話は別だ。
単純な熱源探知だけでも十分に引っかかるし、ましてや情報収集用にチューニングされた2人の《アジュールダイバー》に引っかからないわけがない。
仮に機材の故障だとすると、今度は巣の規模を探知出来たことが説明出来ない。
こちらは超音波によるエコー探査が主なので、どうしても解像度も荒くなるし熱源などのようなはっきりしたものではないので、むしろ精度は熱源探査よりも低下する。
「こちらシズク。サーモだけの故障ってことは?」
『2機まとめて、サーモだけがおかしくなったって? いや、そっちの方が不自然だよ。ああ、ちょっと待ってくれ。アリーが言いたいことがあるそうだ――』
ガサガサとノイズが走り、アリアナの抑揚の無い声に変わった。珍しく、少し興奮しているのか、情感の無い声質は同じだが口調がやや速い。
『今、昨日までのデータとつきあわせてみた。結論から言うと故障の可能性は無い。アピス以外の熱源は拾っているから。なので、この世界樹に限っては――本当に空巣だと判断する。捕捉情報として、この探査空域に限っては斥候アピスの姿もまだ発見されていない――だそうだ』
「つまり、抜け殻?」
『そうなるね。どうする、隊長? もう少し調査してみるかい? ぶっちゃけ、いないにこしたことはないんで空巣なら空巣で計画にはまったく問題ないわけだけど』
ヨシュアの言葉に少し沈黙が続いた。
その沈黙の意味するところ――セレスティーナの考えを追ううちに、シズクは無視出来ないもう一つの可能性に気がついた。
脳裏にフラッシュバックのように思い浮かんだのは幼樹の村の避難所で
士の最後の記憶。
少し震える手で、セレスティーナに専用回線を開く。
「……セレス。ちょっといいか?」
『シズクか。この回線を使ってきたということは……シズクもそう感じたわけか』
「ああ。まさか……とは思うんだけど。セレス、アイツら……アピスも襲うと思うか?」
シズクの問いに対するセレスティーナの答えは、少し歯切れが悪かった。
『……わからん。あのようなアピスは見たことが無かったからな。ただ、ありえない話では無いと思う。だが、それなら少数とは言え探査に引っかかるのではないか? 世界樹が完全に空というのは、それはそれでどうにも
確かにセレスティーナの言うように、
どちらにせよ、現状の情報だけでは足りないということだけは確かだった。
「セレス。俺が見てくるか?」
《
そう判断してのシズクの言葉だったが、セレスティーナの答えは拒否。それも強烈な否定だった。
『駄目だ! それは認めん。シズクは……待機だ』
「セレス?」
思いがけない拒絶に思わず尋ね返す。その声で少し冷静になったのか、セレスティーナが呼吸を整える音が聞こえてきた。
『すまん。大きな声を出してしまって。だが、万が一アレが出てくれば……シズクを今の時点で失うことは出来ん。お前も作戦の……要なのだからな』
どこか言い訳めいた声。
よくよく考えれば、私的ではない状況では初めて聞く声だった。
「それはそうだけど……確認しないわけにはいかないだろう。
『それはそうだが……単独では危険すぎる――私も一緒に行こう。それならば安全性が格段に上昇するはずだ』
「いや、それこそ駄目だって」
幼樹の村と違い、セレスティーナこそ作戦の要だ。
彼女の副官としても、セレスティーナを前に出すわけにはいかない。
『おいおいおい。さっきから、何を個人回線でイチャついてんだよ。帰ってからやれ、帰ってから』
どうにも妙な感じになってしまった空気を吹き飛ばすかのように、焦れたカルディナが2人の会話に割り込んできた。
「だから、俺とセレスはそんなじゃないって」
『だったら、オープンでやれオープンで。で、何を話してたんだ?』
さすがにここまで来ては話さないわけにはいかないだろう。それはセレスティーナも同じ考えだったようで、意を決したように
『……以前、少し話をしたと思うが。アピスの変種についての話だ。私にしてもシズクにしても確たる情報を持っていないからな。2人で考えを確認していただけだ』
『ああ。赤いアピスってヤツか。もしかして、巣が空なのはそいつらが他のアピスを食っちまったからって、そういう話か?』
『かもしれん、という話だ。ただ、そもそも変異種が他のアピスをエサにするかどうかさえも
『だったら、見に行きゃいいだろうが……ああ、それで
身も
『だったら、アタシが見に行ってやるよ。なら、問題ねーだろ』
『……いや、やはり駄目だ。単独行では危険すぎるし、情報収集になるかさえわからん。気がついたら、首を落とされてる可能性すらある』
完全な不意打ちを食らえば、死んだという実感もないまま、死に戻っている可能性さえある。
「なら、俺とコーディーで行くのはどうだ? ツーマンセルなら不意打ちは防げるだろうし、もし居たら戦わずにすぐに逃げ出せば危険は少ないはずだし」
『……それはそうだろうが』
まだ、決心のつかないセレスティーナにシズクはさらに付け加える。
「機動力はまだしも、最高速度はこっちの方が上なんだ。逃げ切れないってことはないって」
『ああ、心配すんな。シズクはちゃんとアタシが守ってやっからよ。どの道、どっかでリスクを背負わなきゃ話になんねーんだ』
セレスティーナが許可を出したのは、それから10分近くも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます