第15話 2人の戦技会 後編
『よし。勝負あり、だ。両名共、見事だった。では第二回の試技に移る。両名とも所定の位置へ』
「くっそ。逃げ切れる、と思ったんだけどな……」
『いや、ちょっと焦ったわよ。シズク……アンタ、いつ
「毎晩、ちょっとづつ、な」
『そんな余裕を残してたなんて、不覚だったわ』
ブツブツと言うセレスティーナの文句を聞き流しながら、シズクは所定位置に移動すると再び
次は全力試技になるので、データ解析にだけ専念させておく。どうせ勝ち目はないので、今回は捨てて次の試技で勝負だ。
とはいうものの、シズクの《
『それでは全力試技を開始する。状況は初回と同じ。ただし、今回は5秒後に従騎士長は追撃を開始』
『時間をあけるのは、あれか? それだけ機動性に差がある、ということか?』
『みればわかります。準備はいいか? では、シズク機。発進せよ!』
「了解!」
今度はランダム起動も何も考えずに
まるで定規で線を引いたような無駄もブレも無い軌道に少ないギャラリーから感嘆の声が飛んだ。
『いい制御するじゃねえか。これも
『主任。引き抜きはお断りです……よし、従騎士長。追撃を開始せよ』
次の勝負は一瞬で片がついた。
もちろん、シズクの敗北。
気がつけば、ピタリと背中に密着されて完全に捕獲されていた。
もう勝負も何もあったものではない。圧倒的な力の差、だった。
『えっと、主任?』
『……データは採れたか?』
『多分。自信ないですけど。っていうか、アレなんなんですか! UFOか何かじゃないんですか! なんで
初回の試技に比べて、圧倒的な差に軽くパニックに陥ったような声が聞こえてくる。
それほどまでに非常識なセレスティーナの
『これは……想像以上ですな』
責任者として観戦していたヘスの声が聞こえてくる。こと、《
『セレスティーナの祖、アトハール・エクルース・クランモールの生み出した最高傑作ですもの。彼女が生きていたのはいまから500年ほど前になると聞きますが、
『お上手ですな。心いたしましょう』
イリエナの言葉を聞きながら、シズクは待機状態にもかかわらず猛烈なリソースを食っている
たった2戦のフィードバックがどれだけのものになるかはわからないが、何も無いよりはマシなはずだ。
『それでは最終試技を始める。これは模擬戦の形式ではあるが、あくまでも試技であるため制限を設ける。まず、従騎士長は異世界人と最悪共有しても構わない
『もしかして、サービスか?』
『こちらとしても騎士団の戦力の底上げは喉から手が出るほど欲しいということです。ただし、選択権はあくまでも従騎士長にある。彼女が何も出せないと決めたら、それまでです』
事前に聞いていたとはいえ、やっぱりサービス過剰だなと思わずにはいられない。もしかすると、これを餌に地球側と何か交渉を考えているのだろうか。
いずれにせよ、それは雲の上の話でシズクには関係の無い話だった。
そんなことよりも、セレスティーナにどうやれば一矢報いることがことが出来るのか。
そちらの方がよっぽど重要だ。
「さて、いよいよ後がないな。んで、セレス。どこまで見せるつもりなんだ?」
『全てだ。見せられるものはな』
「……セレス? そっちでやるってことは全部封印か?」
聞き慣れた声は無印セレスティーナのものだった。いつのまにか融合を解除していたらしい。ということはスペシャルな
少し拍子抜けしたところで、思わぬ答えが返ってきた。
『いや。実はな、今日のために何度も再臨を願い《融合》を繰り返したせいだろうがな、祖の
「それは……おめでとうでいいんだよな」
『無論だ。といっても、全体から見ればほんのわずかでしかないが。祖の
へえっとシズクは知らず手に汗を握っている自分に気がついた。
「ってことは、お互い手加減抜きだな」
『ああ。お前と私なら、こっちの方が良いだろう。手加減して変なわだかまりが残るのはゴメンだ。それよりは恨みっこ無しで全力を出し合うのが私とお前らしい。違うか?』
「そうかもな。いや、そうなんだろうな」
たしかにセレスティーナの言うとおりだ。
へんに遠慮するのは自分たちらしくない。
それは確かだ。
だが、そうなると
これは対融合セレスティーナ用の秘密兵器のつもりで使ってきただけに余計にそんな気がする。
しかし、そんなシズクの気持ちを見透かしたようにセレスティーナはあっさりと言ってのけた。
『そうだ。お前の使ってる妙な《
「……気づいてたのか?」
『当たり前だ。融合してる時にも言っただろう。シズク、お前は自分で思っているよりもずっとわかりやすいぞ。後ろめたいことがあれば、すぐに態度に出る。なぜ、その《
さすがに自分以外の天才少女の力を借りてるからです、とは言えずにシズクは適当にごまかした。
いずれにせよ、そういうことならば、遠慮は無用。
今の自分に出せるものは全て出す、ということだ。お互いに。
『……2人とも話はついたか? 言っておくがな。試技だぞ、試技。熱くなって我を忘れるなよ?』
「了解っす」
『承知しております。が、他ならぬ副長殿がそれを言うというのは』
くすくすと笑いを堪えながら言うセレスティーナに
『私だから言うのだ。言っておくが、その野蛮人は頭に血が上ったら何をしでかすか
『心いたします。それでは合図を』
「こっちもいつでもOKです」
副長の声と共に最後の試技が始まった。
2人にとって忘れがたい、それは至福の一時となったのだった。
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