外伝39インターミッション:ゴンザレス、教師になる2
俺の名はアレス。
よくいるチンケな詐欺師だ。
いま俺はエルフ女と一緒にある建物の中にいる。
それがどこかというと……。
「ゴンザレス先生ー、お願いしまーす」
「えぇ〜、誰だよこいつ?」
「エルフィーナせんせー、彼氏?」
「ウッソ、マジかよ。俺、エルフィーナせんせー狙ってたのに」
とりあえず、そこのエルフ女狙ってる坊主、処刑な?
ここはシュトレーゼンの学校。
そう、一度は王宮に帰った俺たちだったが、シュトレーゼン王家との使節団にくっついてまた再びこの地にやって来たのだ。
「それはともかく、どうしてこうなってるんだ?」
「なによ? なんでって……あんたが言い出したんでしょ。シュトレーゼンで教師するって」
いや、そのなぁ〜、俺もしたくはなかったんだけど。
ほら、あのシュトレーゼン出身のスなんとかいう新人大臣がさぁー。
「あの新人大臣がどうしたのよ? よく働いてくれてるじゃないの」
そうそう、その大臣が俺に小遣いくれるんだけどさ、その都度、窓の外を見ながら遠い目をして言うんだ。
『シュトレーゼンの民も陛下のような方に教師として教えてもらえれば、どれほど幸せか』とかなんとか。
「まず、それって袖の下とか賄賂とかいうもんじゃないの? でもそれで頼んでくるのがそれって変よね。頼まれたから、あんたが教師するとかならないんじゃない?」
いや、そうなんだけどさぁ〜。
俺も言ったんだよ?
俺って詐欺師だから教師なんて出来ねぇよって。
「……詐欺師だから教師できない以前にあんた王様だから。そもそも大臣が王様のあんたに言うのも間違ってるけど」
そうだろ?
だけどさぁ〜、そう言いながら小遣いだけは定期的にくれるんだよ。流石に俺も申し訳ないかなぁ〜って。
エルフ女が定期的に色んな学校に臨時教師として行ってるとか行ってたから、まあ、一回ぐらい顔を立てとこうかなぁーなんて。
……小遣いくれるし。
「呆れた。そんなんで教師とかちゃんとできるの?」
エルフ女がジト目で俺を見てくるが、美女女教師エルフ女のジト目だと思うと悪くない。
後でベッドに連れ込もう。
しかし、経緯はどうあれ、教育は国家の
どんな国でありたいか、どんな人材のいる国でありたいか、その国をどうしていきたいか、もっといえば国そのものをあらゆる苦難から守るためには教育を受けた人材が必要不可欠なのだ。
20年、30年先にその子供たちが国を支え維持するのだが、その知識の土台はこの教育に全てかかっている。
それは即座に効果が見えるわけでもない。
長い時間をかけて
その教育は個人の努力や根性でどうにかなるものではないのだ。
組織として国として確固たる意志と使命を持ち合わせていないといけない。
それなのに、いまのシュトレーゼンは教える側の努力と根性のみに依存して、それらを決めるはずの者たちはその苦悩を度外視する。
だが、それはどの世界も同じなのかもしれない。
上に立つ者が下の現状から目を背け、好き勝手をすれば、そのツケは下の者が一方的に支払う。
その歪みはいつの世にも起こりうるし、それは人の持つ
そんな話をしてやると、エルフ女は目を丸くして言った。
「……ごめん、働かせ過ぎたわ。12時超えたら帰っていいわよ?」
エルフ女は俺の代わりに残った仕事をおそらく明け方までやるつもりのようだ。
俺は感動で涙を浮かべる。
「ありがとな……って12時って次の日に入ってるよね?」
シュトレーゼンの仕事ってこんなのばかりなの?
奴隷時代の生活と同じで、追い詰められすぎて妙なやりがいを感じてしまうほどだ。
もちろん、コレを押し付けたヤツらは楽しそうに酒飲んだり遊んだりしていると思うと、なにもかもぶち壊したくなる。
悪いやつほどよく眠る。
そんな言葉がシュトレーゼンにはあるそうだ。
えっと……この国、大丈夫?
もう俺の国の一部になるらしいけど。
へへ……、意味わかんね、誰の国って?
「それもういいから、手を動かす! 子供たちのテストの丸つけ残ってるんだから」
「へいへい……、おっ、この子テストの裏の落書き上手いな、100点あげよう」
解答用紙は白紙だけど。
絵を必要とした部署の誰かに教育させてもいいかもな。
この子は……『この作者の気持ちを答えよ』という問題に対して解答が。
『この人とは違う存在であり、人は真の意味において人と人が分かりあうことはできない。そもそも漢字においても人という漢字を人が支え合うとお題目を通してみるか、それとも短い方が明らかに長い方を支えて、長い方はそれを当然として楽をしている社会の縮図からみられる構造を考えれば自ずと答え歯導かれよう。短い方が忖度するのが悪いのか、そのように誘導する長い方が悪いのか、その答えは各々に委ねられる。ゆえにこの作者の心を想像したとき、その人が社会通念上どのように思うかを推測し、罠にかけることで人は容易にその罠にかかる、注意されよ、詐欺師はすでにあなたの目の前に立っていることだろう』
詐欺師は教壇の前に立っているからな。
よくぞ見抜いた。
詐欺には十分注意するようにコメントしておいた。
でもそのほかの解答は真っ白だ。
どう考えても、この解答に全てを賭けている。
『
よし、0点だ。
俺の正体に気づかれてはいけないからな!
代わりに国の幹部候補生養成への推薦状を書いてやろう。
なお、俺とエルフ女以外ではこういう子たちは長所を伸ばせず排他されることだろう。
これがシュトレーゼンの歪みか……。
俺は遠い目でその答案用紙に大きく花丸をつけた。
「いや、違うでしょ」
とりあえず、臨時教育をここまで働かせるのっておかしくない?
お役所アルアルらしいけど。
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