外伝37:世界最強ランクNo.0真実の物語8
およそ10年前。
世界をぶち壊して、フハハハと高笑いしてみたいのは分からなくもない。
そうかと言って、実際にそれをやるために大量の人の涙と死体の上でそれを行える精神ってのはちょっとどうかと思う。
では逆に不幸な可愛い女の子に手を差し伸べて不幸からの逆転幸福のカタルシスを与える。
なぁ〜んて、そんな路線はどう?
これで御涙頂戴してお金を稼げるかな?
まあ、無理だな。
あ〜、ダメだ、気分が乗らねぇ。
早いところイイ稼ぎ方見つけねぇとなぁ〜。
あ、どうもゴンザレスです。
多分、10歳。
まあ、年齢なんてどうでもいいな。
コルランのスラムから脱出して、現在、商人たち相手にアレスと名乗ってます。
どうしてこうなったって?
アレだよ、アレ。
……どれだよって感じだよな。
本の物語という運命の出逢いに心を動かされ、俺はコルランのスラムから抜け出したのは良いが、子供の身なりでは食い物にされるのが関の山。
世知辛いのが世の中で、スラムで生まれたガキはいつまでもスラム民とかいう腐ったシステム。
そのままスラムで暮らしたところで腹一杯にもならねぇし、可愛い子ちゃんに囲まれることもねぇ。
子供の割に可愛い子ちゃんを囲みたい欲求はあるのよ?
早熟なのよ、わたくし。
でも好みは年上の色気のあるお姉様、坊や〜お姉さんと遊ぼうと言われてみたいのよ。
「おい、坊主。
本当に任せて大丈夫なのかよ?」
「当然だよ、その代わりに目的のモノを手に入れたら報酬たんまり頼むよ?
この世界は信用が大事、だからね?」
ニンマリとその商人に笑みを見せる。
どうして俺が商人とこんな話をしているかと言えば、単純明快、金がないのだ。
ゆくゆくは貴族の屋敷にあるような豪華なソファーでごろ寝して、S級美女に囲まれるという大きくてぶっちゃけ不可能な夢を持っているが、それはともかく現在進行形で金がない。
ま、生まれて3歳でそんなことはあり得ねぇと自覚したが、夢を守るのは自由だ。
おっ、今、俺の中で何かが閃きそうになった。
そうか、夢を見させる代わりにお金を貰うってのはアリだな。
メモ用紙買う金が勿体ねぇから、必死に頭のメモにチェックだ。
俺がいま居る場所は元レイド皇国の皇都だった街だ。
この街は……この街に限らずレイド皇国は急なエストリア王国の急襲により滅びた。
そんな訳で街は混乱しており、親をなくした子供たちやらも食事もなく彷徨っている。
当然、俺も同じ子供であり仕事などない。
そんな訳で俺はとある仕事をすることにした。
この街で飢えた避難民に美味しい食事と避難先を用意すると伝えて、親切な商人のところに連れて行く仕事だ。
無論、詐欺だ。
世の中がそんな甘いものなら、そもそもスラム自体がない。
そんな甘い世界があるなら真っ先に俺が飛びこむ。
「あんた現在進行形で飛び込んでないじゃない?
嫁どころか国で甘やかそうとしてるのに逃げてるじゃない」
エルフ女さん?
回想に割り込んでこないで?
「は〜い」
俺は奴隷商人たちにこんな話を持ちかけた。
売れそうな人を見つけて連れてくるから仲介料を弾んでくれ、と。
大人が声を掛けて売れそうな子供を引っ掛けるよりも、同じ子供相手の方が子供への警戒感が薄れる。
もちろん、奴隷商人たちにこんな話を持ちかけたところで上手くいくことはそうそうない。
売れそうな子供を連れて来たところで、一緒に捕まって売りに出されてしまうだろう。
そんなわけで商売で訪れたであろう奴隷商人たちをよく観察し、ある特定の奴隷商人に声を掛けた。
そしてこちらからの提案をした後に、ニッと笑ってこう告げる。
「……とまあ、俺の言い分はコレだけど。
お兄さんたち、ここで商売するの慣れてないでしょ?」
するとお兄さんたちは面白いように動揺してくれる。
そう、俺が声を掛けた奴隷商人はこの辺りの者ではない。
訛りや口調、本で見た雰囲気では帝国の方から出稼ぎに来た感じだ。
これで相手は勝手に勘違いしてくれる。
つまり、俺はこの地域の裏の世界の誰かの使いで、出稼ぎの奴隷商人が商売するなら、それなりの裏の『案内人』を通して行えというメッセージだと。
もちろん計算違いは起こりうるので、そこには十分注意だ。
そもそも、こんな回りくどい仕掛けをしなければならないのは、俺が子供であるということ他に大きな理由がある。
俺、この地域の子供じゃないしー。
コルランのスラムの出なので、この地域には縁もゆかりもないのである。
そうとはいえ、そんなことは当然知らない奴隷商人たちは知らない土地で手探りで『商品』を探すよりも、仲介者がいた方が見つけやすいのも確かだ。
なので俺の誘いに乗ったというわけだ。
結果から言うと、俺は見事に仕事を果たした。
汚い身なりに偽装した明らかに肌艶の良い少女を、まんまと騙して奴隷商人に引き渡すことに成功をするのであった。
……それがメリッサ・レイド、このレイド皇国の最後の遺児であることに気付かずに。
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