外伝34:世界最強ランクNo.0真実の物語5

 ※これは詐欺師の物語です。

 脳みそを空っぽにしてお楽しみ下さい。

 byエルフィーナ




「援軍の到着が1ヶ月後だと!?

 王都は本気でそのようなことを申したというのか!」


 サルビア大要塞司令官ドラムス・デンナー侯爵はそう言って椅子を蹴り上げた。


 ドラムスの激昂をその身に浴びて、初めは高圧的な態度でそう告げた王都からの使者は、当初の態度すら翻し跪いて震え上がる。


「し、しかしグローリー宰相閣下以下、全精力を持って取り込んでおりますが、何分王都より距離もある上、急なことゆえ……それに!」


 使者は言い訳を並べ立てようとして、ハッとあることを思い出した。


「サルビア大要塞には世界ランクNo.5グリュー・バルト殿とNo.6アルマンド・アルマジロ殿の両名も居られるではないですか!」


 世界ランクNo.5とNo.6。

 エストリアが誇る国1番の強者。

 傲慢で我儘で、今も前線基地でありながら、取っ替え引っ替え部屋に女を連れ込み、酒を浴びるほど飲んでいる。


 ヤツらはこういう事態のために『飼っている』のだ。


 だがそれこそがドラムス・デンナーの逆鱗であった。

 常に前線サルビア大要塞にあって、その威風は歴戦のそれ。


 そのドラムスをして、今回のコルランの侵攻は恐れを抱くものであったのだ。


「貴様らは世界ランクNo.1を見ておらぬから、そんなことが言えるのだ!

 アレを前にすれば万の兵すらなんの障壁にもならん!

 不沈のサルビア大要塞とてただの紙で作った城にしかならぬわ!!」


 そう世界ランクNo.1。

 ドラムスは1年前、外交の使者の共としてコルランに行ったことがあった。


 そこで示威行為も兼ねて、世界ランクNo.1と5000の兵との軍事訓練を見せられた。

 ドラムスは大戦こそ経験はないものの、小競り合いや盗賊退治、時には魔物退治の指揮を執り歴戦の雄であった。


 その彼をして……いいや経験を積んだ将だからこそ目で見たものが信じられなかった。


 人って、空を飛ぶんだよ?

 そう、物理的に。


 わざとか? そう思うほど5000の兵は空を飛んだ。

 ただ1人の男、世界ランクNo.1ハムウェイによって。


 さらに槍を使った演舞では、演習場から見えていた大きな山に城が入りそうなほどの巨大な穴を開けて見せた。


 そんな芸当はNo.5、No.6であっても不可能だ。


 その時の光が弾けるサマをドラムスが閃光のようだと言ったことから、彼は閃光のハムウェイと呼ばれるようになった。


 ドラムスはそれを見てから、エストリア国の国務大臣ケーリー侯爵が提唱した勇者召喚を積極的に支持した。


 如何なる手段を用いても、アレを防がなければならない。

 ドラムスは愛国心ゆえにそう思っていた。


 召喚された勇者は確かに強者ではあったが、せいぜいナンバーズに匹敵する程度の力しかない、線の細い少年だった。


 そのことにドラムスが落胆したのはついこの間のことだ。


 結局、ろくな対抗策もないまま、アレが万の軍と共にやって来る。


 サルビア大要塞が陥落する。

 ドラムスには容易く想像がついた。


 しかも、コルラン侵攻の報が届いて備蓄を確認したら、少なくない数の食糧や武器がサルビア大要塞からコルランに流れていたことが判明した。


 それは本当に致命的だった。

 万に一つの方法として、No.5、No.6両名でなんとかNo.1を足止めして籠城して援軍を待つことすら叶わないのだ。


 もっともドラムスはそれを王都の使者に伝えることはない。


 それはまさしくドラムスの管理不届きのせいで、コルラン侵攻の報が来るまでドラムス自身も酒を飲み、狩りをして女を抱き、好き勝手をして過ごしていたがための結果だからだ。


 そんなことがバレたら、処刑まっしぐらである。


 自分の責任であるそれは置いておいて、ドラムスはなんとかこの危機を脱しなければならない。


 ドラムスの八つ当たりを正面に受けた王都の使者は自らの心の安寧のために、思い出したかのように隣の領地にいる小娘のことを口にする。


「そ、そうだ!

 流れてきたウラハラ国のNo.8の小娘をぶつけて時間稼ぎをしてはいかがでしょう!」







「……なあ、グローリーの本。

 色々詰め込みすぎじゃね?」


 この後、さらなる軍記物の様相を示していくが、結果はカストロ公爵(?)がNo.1を策で足止めし、食糧を燃やしてコルランを追い返し、奇跡の大逆転をやらかす訳だが……。


「ねえ? 前にイリスから聞いたんだけど、このサルビア大要塞の備蓄をコルランに売ったの、あんたらしいね?」


 なんのことかな、エルフ女さん。

 そのような大それた真似、わたくしのようなチンケな詐欺師に出来るはずがないでしょう!?


「あ、カストロ公爵と認めないところからやり直し?」


 カストロ公爵様とは、誰のことでしょう?

 そんな雲の上の人とは関わり合いがありませんな。


「……あんた、今、世界を支配した国の本城で暮らしてて、よくそんなことを言えるわね」


 お、おかしいわね……、なんでこうなったのかしら?


「日頃の行いでしょ?」


 詐欺師は犯罪です。

 とんでもないことになるので皆さん気をつけましょう。





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