外伝35:世界最強ランクNo.0真実の物語6

「次はいよいよ帝国編ですね!」

 メリッサが珍しく興奮気味にそう言った。

 拍手までし出すとレイナたちも一緒にマネをして拍手し出す。


 はぁ〜、グローリーの本、どれぐらいあるんだ?

「全百遍、大ベストセラーよ」

 エルフ女が興味なさそうにページをペラペラ。


「俺が書いた真実の物語は売れないのに……」

「アレって発禁処分にされてたわよ?

 偉大なる王を貶す不届きな本だからって」


 な・ん・で!

 本人が事実を書いた本が発禁処分で、グローリーが書いた嘘八百の話が大ベストセラーなんだ!


「民衆は真実なんてどうでもいいのよ。

 物語としてどちらを求めているか、よ」


 物語としても風刺も効いてて、詐欺師の話の方が面白いと思うんだがなぁ〜。


「そういうのは、流行るから面白いのであって、面白いから流行る訳じゃないわよ。

 大体、敬愛する王が詐欺師なんて信じたい奴居ないわよ」


 エルフ女め、分かったような口をきくじゃないか。

 ふん! 我が文章の良さも分からぬ蒙昧なる者どもばかりだ、くやちー。


 そこにバクレースが同意して頷く。

「うんうん、分かります分かります。

 文学芸術をなんて思っているのだ、と思いますよねぇ。


 ……でも私は芸術的に優れているよりも売れたい(ボソッ)」


 ムキー!

 言うてはならんことを!!

 読む側からすれば、面白い作品を読みたいんだー!

 売れるだけの作品しかなかったら、つまんなくて絶望するしかないだろうが!


「いや、あんたどっちの味方よ……」

 もちろん、俺の味方。


 お金は大事だし、でも面白い本が読みたい。

 人は矛盾する生き物なのだ。


「そうね、ハーレムしたいとか豪遊したいと口で言いながら、その立場になったら徹底的に拒否するあんたが言うなら尚更ね」


 ななな、なんばいいよっとね、エルフ女さん。

 そげんこと言う輩ばいるっとね?


「動揺し過ぎて口調がおかしいわよ?」


 そこでピタッと無表情になって、エルフ女は俺の顔を覗き込みようにジッと見てから、可愛く首を傾げる。


 この女も顔が良いんだよなぁ〜。


「実際、なんでそんなに否定する訳?

 もう好きなようにしちゃえば良くない?」


 俺はため息を吐く。

 それも良いんだがなぁ〜。


「王が色と欲に溺れたら未来はないぞ?

 現実としては、な〜んにもしない王の方がどれだけ有り難いか」


 な〜んにもしない王なら、他の全員が頑張るからなんとでもなるが、色と欲にまみれた王はその頑張っている全員の足を引っ張る。


 分かるか?

 もっとも権力を持っている奴が全力で全員の足を引っ張るんだ。

 どんな優れた国でも、あっという間に傾く。

 それが多くの国の滅び方だ。


 いっそ王など居ない方が、と言いたいところだが、それはそれで権力を得て上に上り詰めた誰かが色と欲にまみれてしまえば一緒なのだ。


「そんな訳で俺は逃がせて?」

「ダメ。

 もっともらしいこと言って、逃げようとしてるだけじゃない。

 絶対ダメ。

 そもそも働け」


 街に出たら詐欺して働いてるよ?


「街で詐欺をすることを働くとは言わない!

 ……っていうか、分かってるなら色や欲にまみれずちゃんと働け!!

 そんでもって私らの相手をもっとしろ!」


 お前らの相手してたら色まみれてじゃね?

 人数多過ぎて、他に何も出来ないぞ。


 ハーレムっていうのはつまるところ、そういう世継ぎ作りのシステムだよなぁ。


「今、あんた何もしてないじゃん」

「……し、してるぞ?

 詐欺とか」

 俺は挙動不審気味に目を逸らす。


「王が! 詐欺とかするんじゃないわよーーーーーーーーーーーー!!!!!」




「ずがーーーーん!!!!」




 どこかで雷鳴が起きた。

 いやまあ、バクレースが言っただけだが、そんな気にさせられた。

 振り返るとバクレースが立ち上がりワナワナと震えている。


 優れた名優は見る人に、そこに雷鳴が起きているかのように見せるほどの……、まあ、いいや。


「どうしたのよ、バクレース」

 エルフ女が突然、立ち上がりワナワナと震えるバクレースを心配そうに見る。


「エルフィーナ、いつものです」

 メリッサが穏やかな口調で、子供たちを構いながらそう言ってくる。


「あー、なるほど、いつものね」

 そう言って、エルフ女も顔を本に戻して我関せずの構え。


 バクレースと1対1にされた俺は仕方なく奇行をするバクレースに近付くと、後退りされた。


 そして恐る恐るバクレースは俺に尋ねた。

「アレスさん……、もしかしてアレス王、なんですか?」


 間髪入れずに俺は答えた。


「チガウヨ」

「いや、そこはもう認めなさいよ」


 エルフ女がツッコミを入れるが無視だ無視。


 それを聞いてバクレースは……。

「良かったぁ〜、そうですよねー、王様がシュトレーゼンでボロアパートで家賃払って詐欺したりしないですもんねぇー!


 グローリー丞相様が書いたアレス皇王物語と全く違いますもんねー、はー良かった。

 あっ! エルフィーナさん続き続き」


「バクレース、子鹿のように震えてるわよ?

 現実は直視しなさいよ」


「信じない、信じない、アレスさんは詐欺師。

 私は騙されてアレスさんの女にされただけ。

 アレス皇王なんて知らない、知らないから」


 青白い顔でブツブツと両手を祈るように組み、目がどこかにイッテイルバクレース。


 そんなバクレースの肩を叩くと、バクレースはビクッと反応する。


 そして俺は親指を立てて、言ってやった。


「ただの詐欺だから、気にすんな!」

 ニカッと俺にしては珍しい爽やかな笑みで。


 そんな俺の誤魔化しもむなしく。

 目に涙すら浮かべていたバクレースはついに絶叫した。


「そんな詐欺あるかぁァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 仕方ねぇだろう、あるんだから。

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