外伝33:世界最強ランクNo.0真実の物語4

「んで、イリスにカストロ公爵領をプレゼントしたと言う訳よ」


 エルフ女はそれをさっくりと言った。


「ほへー、そっちのアレス様はやることが凄いですねぇ〜。

 その頃、こっちのアレスさんはどうしてたんですか?」


 え? 小娘と貴族を詐欺にかけて最強と呼ばれた勇者を女にしてましたが?


「……サイテイ」


 もはやクズを見る目で俺を見てくるバクレース。

 うん、何も間違っていないから何も言えねぇ。


「この辺りは私も知らないわねぇ、まだ出会ってないから」

 エルフ女がペラペラと本をめくりながら、そう呟く。


「え? あ……そうか、この城に住ませてもらってますもんね、エルフィーナさんもアレス王のことご存知なのですよね」


「そりゃ、そうよ。

 嫁だし」

 エルフ女は顔も上げずに本に視線を向けたままそう言った。


「え!?」

 バクレースが俺を見る。


 エ、エルフ女さん?


「あっ、言っちゃいけなかった?」

 エルフ女がしれっとそう返す。


 ダメかダメじゃないかと言われれば、ダメな訳じゃないが、ダメなんじゃないかなぁー?


 それだとエルフ女が王の嫁で、さらに俺の嫁という多夫一婦制だね!

 あり得ないものではないけど、王が複数の旦那の1人っていうのは流石に無いよね!


 バクレースはわざわざ立ち上がり、ふらふら〜と二、三歩下がる。


「ふ、不倫!?

 しかも王の嫁と?

 秘密のシュトレーゼン旅行?」


 とんでもない人物ですね、その人。

 王の嫁と不倫して、不倫旅行して、しれっとその不倫相手のお家(城)に帰って来てる。


 嫁も間男も2人共々、クズオブクズの名を欲しいままにしている。


 うん、ここまでぶっちゃけられて気付かないものかなぁ〜。


 まあ、世界統一した王様が、詐欺師をしながらお家賃払って、嫁と一緒に国元にもおらずシュトレーゼンで庶民暮らししてるなんて、想像するわけもないし信じる訳もないよね〜。


 俺が言われても間違いなく信じないわ。


 あっちの俺が本当の俺で、今、ここに居るわたくしは夢の中の住人よ。


 寝て起きたら夢から覚めないかしら?

 でもS級美女たちは手放さずで。


「これ以上ないぐらい、あんたが現実逃避しているのが分かるわ」


 心を読まないでエルフ女!


「いや、ほんとあんたのソレって今更だから。

 まあ、私は別に城出て行っても良いんだけどねぇ〜。

 それじゃあ困る娘の方が多いでしょ?」


 セレンとかシュナとかはお姫様育ちだから、城を出て暮らすって訳にもいかないしなぁ〜。

 レナもまだ子供だし。

 それにレイナちゃんたち子供のことも置いていくわけにはいかないしなぁ〜。


「一緒に城を出る!?

 まさかの寝取り済み!?

 なんて爛れた関係なの!?」


 すでにバクレースは目のハイライトがおかしいことに。

 背後で雷が鳴り響く幻覚まで見える。


 俺の目がおかしいのか、それとも真の名演は見えないものまで見えるようにするのか!


 きっと後者だ。

 俺の目がおかしい訳ではない!

 きっとそうだ!!


「じゃ、下らない冗談はさておき、レイナが待ちくたびれて暴れそうだから続き行くわよ〜?」


「なんだ、冗談か。

 もう〜エルフィーナさんも、怖い冗談を言うんだから。


 危うく私が嫁になった相手が世界最強の世界ランクNo.0で、世界を統一したアレス皇王その人かと思ったじゃない。


 はっはっは、いくらなんでもそれは無いわね。

 うん、ナイナイ」


 バクレースちゃん、何か自分に言い聞かせてませんか?

 うんうん、きっとないよ。

 君は詐欺師に騙されただけだよ?


 その詐欺師がちょっとアレでソレとかいうおかしな肩書きがあるだけで。


 それもきっと詐欺だよ?

 だって俺が1番、そんなことを信じてないもの。


「最強勇者と呼ばれたキョウ・クジョウを無手かつ無傷という圧倒的な力を見せ付けたNo.0アレス。


 彼はそのカストロ公爵領でも、その圧倒的な力を世界に見せつける日がついに来たのである。


 そう、世に言うコルラン動乱。

 大国同士の大戦の始まりであった」


 微妙に真実を織り交ぜつつ、結果は大嘘の世界最強その名はランクNo.0のお話を、エルフ女は続けていくのであった。

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