外伝32:世界最強ランクNo.0真実の物語3

「イリス妃はあまりの威光の強さに、元王女という身分さえ忘れひざまづいた」


 エルフ女は本の続きを読み出す。


 嘘だぞ、それ。

 あいつ、いきなり俺に切り掛かりやがったからな!

 親切にも宝石を頂いたから、そのまま撒いてやろうと……おっとっと。






「力が欲しいなら、まずは示せ」

 はるか高みにおられるその方はそう告げる。





 俺が高みに居たんならイリスに一切声なんて掛けねぇよ、危ない。

 そのまま酒池肉林の豪遊の日々を過ごしているさ。


「うっさいわね!

 話が進まないじゃない!

 大体、あんた酒池肉林しないじゃない。

 何度も言うけど、そういう立場よ!

 したいならすれば良いじゃない、なんでしないのよ!」


 エルフ女が本片手にこれ以上ないほどにジト目で見てくる。


 拝啓、元勇者のキョウちゃん。

 元気に女の子してますか?


 貴女の師匠のエルフ女さんが、俺に酒池肉林を勧めてきます。

 摩訶不思議です。


 エルフ女さんはわたくしのお嫁さんの1人です。

 そのお嫁さんから酒池肉林を勧められることがまたこの不可思議な現象に、むにゃむにゃ。


「え? だって、酒池肉林って何か怖いじゃん?

 普通の感性してたら本気でしようなんて思わない、よね?」


「自らを詐欺師と言い張るヤツが普通を語るな」


 いやいや、何度も言うけど詐欺師は常識的だから。

 常識に則って詐欺を働くんだからな?


「詐欺はとりあえず置いといて、あんた酒池肉林したいんじゃないの?

 いつもヒモ最高とか美女に囲まれたいとか言ってるじゃない」


 そりゃまあ、願望としてはそうなんだけど、実際、そうなったら……非常識過ぎて怖いでしょ?


 そこでメリッサが不思議そうに首を傾げる。


「……こう言っては何ですが、私たちに囲まれてる時点でご主人様は手遅れじゃないですか?」


 エエー!? そ、そんなバカな!

 そして俺は思わず周りを見回す。


 メリッサにエルフ女にバクレース、俺の嫁の一部だけでも揃いも揃って美女でありやがる。


 し、知ってるか……これにまだ10人以上の美女の嫁が居るって言うんだぜ?


 ヘヘヘ……信じられねぇ、あり得ない恐怖で震えが出るぜ?


「……あんた、何で震えてるのよ?

 その嫁の大半、自分で口説いたんだからね?」


 だってよ〜?

 口説いたらS級美女が堕ちるなんて誰が思うんだよ?


 そんなの存在しない女神様にあり得ない力を与えられて、ウキウキ出来てしまうそんな精神のヤツだけだ。


「また微妙な例えを……。

 もう良いわ、とにかく続き読むわよ?

 え〜っと……」





 イリス妃はそこでNo.0からの試練を与えられる。


 何と帝国の黒き獣世界ランクNo.8との一騎打ち!

 白熱するバトル!

 えい! やあ! たあ!

 それを静かに最強の瞳が見つめる。





「確かに見てただけだけど、最強の瞳って何? ねえ?

 それと、えいやあたあって他に何かバトルの言い方なかったか?

 カキンカキンとかでも……変わらないか」





 そしてついにイリス妃は試練を乗り越え、主人である世界最強No.0アレス王の前にひざまづく。





「もしも〜し、No.0様の名前がアレスさんになってるけど?

 No.0って謎な人物って前置きしてたよな!?」


「うっさいわね、さっきから。

 No.0をアレスからゴンザレスに書き換えるように言ってあげようかしら?」


 やめてやめてエルフ女さん。

 ひどい風評被害だわ。


 さっきからアレス王の御息女のレイナちゃんが首を傾げているわよ!

「ゴンれー、世界最強No.0なのー?」

「ち、違っ」


「そうよ。

 ゴンれー世界最強なのよ」


 俺が必死に否定しようとすると、エルフ女が笑顔でレイナちゃんの頭を撫でながらそれを肯定する。


 やめてー!

 わたくしに恐ろしい肩書きを付けないでー!


 エルフ女はジト目をこれ以上ないぐらいジト目にしながら言う。


「よく言うわよ、最初っから自分でNo.0だと名乗り出したくせに。

 あんた以外に世界ランクNo.0を名乗った奴は、あんたがぶちのめした偽No.0しか居ないんだから、どう転んでもあんたが本物でしょ!」


 あれは詐欺!

 詐欺なんだからぁぁぁああああ!!!


 そこでバクレースが目を丸くして。


「え? アレスさんってゴンザレスって名前なんですか?

 ゴンザレス……へぇ〜、ゴンザレス……野性味溢れる名前、ですよね?」


 余計なお世話だ。

 ゴンザレスで野性味とか溢れたりしない、しないったらしない。


 バクレースは俺を無視して、エルフ女におずおずと話しかける。


「……ところで、ずっと思ってたんですけどエルフィーナさんってアレスさんの奥さん、ですよね?」

「そうよ」


 バクレースは首を傾げる。


「……アレスさんって何人奥さん居るんですか?」

「貴女を入れて17人よ」

「アレスさんの仕事って……」


 間髪入れずに俺が答える。

「詐欺師だ」


「……へぇ〜」

 バクレースはこれ以上ないぐらい、冷たい目をした。


 仕方ないじゃない!

 事実なんだからぁぁぁあああ!!!

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