外伝31:世界最強ランクNo.0真実の物語2

 物語はこう始まる。


 なにぶん、伝説とも言われるお方の謎めいた全てを知ることは叶わない。

 それでも私は私の持てる全てを持って、かのお方の真実を語ろう。


 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、ランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 だが、我々は知っている。

 その名に相応しき尊いあのお方のことを。

 我が唯一の主にして、世界を救い、世界を統べるあのお方。


 そう統一皇王アレスその人を。


 始まりはそう、何から話そう。

 そうだ、あれが良い。


 アレス王が初めてカストロ公爵を名乗り、私たちの前にその存在を見せたあのお話を。





 後にアレス王の妃の1人に選ばれる現世界ランクNo.1イリス・ウラハラは絶望の中に居た。


「私も最早、これまでね……」


 かつての帝国はご存知のように、世界に覇をとなえる専制君主の国であった。


 その野心の前にイリス・ウラハラ第1王女の祖国ウラハラ国も、帝国の大軍の前になすすべもなく滅びた。


 世界ランクNo.10にまで上り詰めた彼女も、それよりも上位のNo.8帝国の黒き獣オーレンの部隊に追い込まれ、旧エストリアの国境の街フェルマータにてその旅を終えようとしていた。


 そこに……。


 銀色の髪を持つ神々しいまでの尊さを兼ね備えたお方が、忽然とイリス妃の前に姿を見せた。


「力が欲しいか」


 イリス妃はあまりの神々しさに、世界ランクNo.10の身の上がこのお方の前では如何に矮小か……「ちょっと待った、ちょっと待った、ちょっと待てぇぇええええい!」






「何よ?」

 グローリーが書いた本を声に出して、レイナたちに読み聞かせていたエルフ女は憮然とする。


「いや、な?

 おかしくない?

 誰のお話、それって?」


「誰って……統一皇王アレスのお話なんでしょ?」

「いやいやいやいや……、だから誰だよ、それ」


 エルフ女は真っ直ぐに俺を指差す。


 俺は後ろを振り向く。

 後ろには寝そべって饅頭をパクついて、最新の演劇本を読んで我が世の春を謳歌するバクレースの姿。


 バクレースは俺が避けたせいでエルフ女の指差しを真っ直ぐに受けた状態だ。


「バクレース姉ちゃんが、統一皇王アレス父様なの〜!?」


 レイナから性別も超越した疑問を投げかけられ、バクレースは目を丸くする。


「へ!? 私!?

 私、統一皇王アレス様なの!?」


 そんな訳あるかい!


 あんまりに寝ぼけたことを言うので、俺はバクレースに現実を教えておく。


「そんなに食っちゃ寝してるとすぐ太るぞ?」


 俺も食っちゃ寝することはあるが、基本的に王宮で贅沢三昧出来てしまう現状が怖くて仕方ないので、逃げまくるため太る余裕はない。


 日々如何に脱走して、この有り得ない王宮生活から抜け出すかが大事なのだ!


「あんた、贅沢したいのかしたくないのかどっちなのよ?」


 おっとエルフ女!

 いつものように俺の心を読むな。

 そんな芸当が出来るのは、メリッサだけで十分だ!


「いやもう、あんたの考えてることがバレバレなのよ」


 詐欺師として致命的だわ……。


「バクレースさんは、ご主人様の嫁の1人になった以上、美しさにおいても鍛えて頂かないといけませんから、私たちの方でしごきますから大丈夫ですよ」


 ニコニコとメリッサが有無を言わせぬ気配でそう言ったので、バクレースが震え上がり俺の後ろに隠れる。


 やめろ!

 それは更なる悪夢の始まりになるから!

 やめてー!!

 離してー!?


「次、読むわよ〜?」

 メリッサからの圧が強くなる前に、救世主エルフ女がそう言った。


 九死に一生を得た瞬間であった……と思ったら、俺のすぐそばにいつのまにかメリッサが接近して、俺の耳元に口を寄せる。


「……後でお仕置きですから」


 あふん!

 怖いけど吐息が! 吐息がー!


 あとなんで俺!?

 俺、なんにも悪くないからね!?


「嫁の責任はご主人様の責任。

 なので私の責任もご主人様にお願いしますね?」


 ニコニコ、ニコニコと怖〜い威圧を放ってよく分からない言い方をするメリッサ。


 要するに相手をしろ、と。


「……はい」


 俺は命が惜しいので、ただ頷くのみである。


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