外伝29:シュトレーゼンの後日談②
「あんた、それ先に言いなさいよ。
そしたらこの娘も逃げなかったでしょうに」
海老反り状態のまま、口を半開きのまま丸メガネをずり落とした残念な姿で固まったバクレース。
流石に哀れと思ったか、密偵ちゃんが再度縄を解く。
縄を解かれ呆然としながらも、バクレースは俺に尋ねる。
「なんで私がそんなことになるんです!?
やっぱり犯罪者組織に薬を渡してたから?」
「いんや?
むしろ逆だよ。
良かったのか悪かったのか、犯罪者組織がバクレースを秘匿してたから今までお前が無事だったんだよ」
ひどく簡単な話だ。
世界ランクナンバーズほどではないが、チート持ちの戦士を並べたらシュトレーゼン王国ぐらいアッと言う間に潰せてしまう。
他の犯罪組織なども今度こそ、それを本格的に利用しようと動き出す。
ならばシュトレーゼン王国は王国を守るために、バクレースを放置するわけにはいかないし、存在自体が王家そのものを揺るがすことにもなりかねない。
よって毒殺なり処分の可能性が非常に高いのだ。
そもそも、王家がなんで危険特定指定ポンコツ娘のバクレースを今まで野放しにしていたのかサッパリ分からんが?
「私は第一王女だけど庶子の生まれだから。
ほら、よくある2番目以降の子が王妃の子で疎まれているっていうアレですよ。
そんな薬を作れる能力があるとバレたら、暗殺まっしぐらっぽいじゃないですか!
そんな環境が物語だけじゃなくて本当にあるんですよ!
お陰で創作活動に臨場感溢れる演出が出来るようになりました!」
あら、
それと暗殺されそうってことは分かってたのね?
わたくし、感動しましたわよ!
そうです! 物語を作るのよ!
わたくしが部屋を借りなくなった後に作った作品をお見せなさいな!
そもそもあの日はそれを見ようと貴女のところを訪ねたのでしてよ?
「いやぁ〜……、薬作るのに忙しくて……」
ぬぅあんですって〜!?
つ、ま、り、新作はないってことザマスか!
「……あんた、なんでそんな言い方なのよ」
呆れたようにエルフ女が横からツッコミ。
イリスたちは苦笑いで何も言わず待っている。
だまらっしゃい、エルフ女さん!
わたくしは今、バクレース先生とお話しをしているのでしてよ!
バクレースは怒られるのを警戒してか、モジモジとしながら上目遣いで俺を見る。
グッ……、丸メガネがずり落ちて綺麗な目が俺を貫く。
自覚があるんだかないんだか分かんないけど美人なのよ、この娘。
「……そこは〜、え〜っとぉ〜。
いやだって、薬売っても1ケ月の稼ぎが月銀貨10枚だし〜。
ハングリー精神で作品を〜とか言っても集中出来ないし……。
アレスさんの後、誰も部屋借りてくれないしで……」
そりゃあまあ、あんなにボロ屋じゃなぁ。
それに不動産投資は簡単に儲かるとか言いがちだが、維持費やなんやらで金が掛かるし、キッチリ支払ってくれるヤツらばかりじゃねぇしで結構大変だと思うぞ?
「うう……、始まりの初期投資だけで後はずっと家賃収入で左うちわって聞いたのに。
アレスさんが部屋を借りるまで誰も部屋借りてくれなかったし。
20人が住める物件を私1人で借りているようなもので、無駄過ぎたし……」
まあ、不動産に限らず投資というものは合法であっても正しい知識と経験、それに良いツテがないと結果自体は詐欺に遭うのと変わらないからなぁ〜。
基本は金持ちだけが出来る儲け方なのよ。
金は高い所に流れる!
ゴンザレスの教えだ、心に刻め!!!!
「そういえば建物の借金残ったままなんですけど、どうなるんですか?」
バクレースは俺に尋ねるが、俺が知る訳がない。
密偵ちゃんを見ると。
侍女姿の密偵ちゃんは頷く。
「バクレース様の借金はすでにこちらで支払っております。
よって返済の必要はありません。
どうしても返済がしたければお館様への返済になりますが……おそらく不要かと」
「そうね、不要でしょうね……」
痛ましいものを見るようにイリスもカレンもバクレースを見つめる。
「何?
なんで? 借金が無くなるのがなんでそんな痛ましいものを見るみたいに……、ま、まさか、処刑!?
いやぁー!
私は生きるわ!! 生きるのよー!!!」
そうやって逃げようとするバクレースの首根っこをエルフ女が掴む。
なぜだろう、バクレースがかつて生きるのに必死だった俺のように叫ぶ姿に、目頭が熱くなるのは……。
「はいはい、殺されないから。
ちょっと嫁入りしちゃうだけよ?
大丈夫、それはそれでなってしまえば幸せだから」
バクレースがエルフ女に尋ねる。
「嫁入り?
誰に?」
全員の目が俺に向く。
いやぁ〜、誰の嫁になるんだろうねぇー?
それって俺に拒否権ってあるの?
何、この確定してますって空気。
当人の俺とバクレースだけがこの空気に取り残されているんだけど?
「何、嫌なの?」
「嫌ではないけど、俺は詐欺師だけど無理矢理って好かないのよねぇ〜」
エルフ女の問いかけにそう答える。
「大丈夫、自分の意思で普通に堕ちるから」
4人の俺の嫁がうんうんと頷く。
「いやぁー!?
私、堕ちない! 絶対に堕ちないからぁー!!」
イリスは喚くバクレースの肩をポンっと叩き、見惚れるほどの笑顔で。
「堕ちますから」
「いやぁァァァアアアアーーーーー!?」
そうして俺たちはシュトレーゼンを後にした。
その後、船旅が終わる頃には何故か俺の嫁は1人追加となっていた。
……堕ちるの早いな、おい。
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