外伝28:シュトレーゼンの後日談①
「あの〜、なんですかねぇ。
この光の集団は〜?」
ロープでグルグル巻きの状態のバクレースを連れて、俺は本屋を訪れていた。
シュトレーゼン土産に絵本を買ってエストリア元王都に帰るのだ。
本は非常に高価なものだが今回は大丈夫。
なんとイリスが全額払ってくれるそうだ。
わぁお、ヒモ男バンザイ!
イリスはそれを俺の金だとか言ってたけど、ゴンザレスそんなお金知らないわ……。
本を買える大金なんて持ってないわよ……(声震え)
「あの〜、無視しないで欲しいんですけど、アレスさん?」
「あん?」
ロープグルグル巻きは色気も何もないが、仮にこれがバクレース自ら縛られていると考えれば変態的と言えなくもない。
バクレースはシュトレーゼン王家の家出娘だ。
ちなみに長女。
つまり第一王女。
何やってんの?
「いえ!? これ、アレスさんが縛ったんでしょ!」
ああ、そうだった、そうだった、ついノリってヤツでやっちまった。
やっちまったけど、ごめんな?
「やられた後で謝られてもー!
……って縛られただけですけど、あれ?
なんで私縛られてるんでしたっけ?
そりゃあ、犯罪者組織の人に薬を売ったのは悪かったかもしれませんけど……」
あの薬自体はチートを与えるけど副作用らしい副作用はないしなぁ。
それ自体がとやかくというわけではないんだが。
「じゃあ、解放してくれても良いのでは?
こんな光の存在に囲まれていては、(部屋の隅の)影に生きる私は溶けてしまいます」
バクレースは周囲に居る華やかなS級美女集団であるエルフ女、カレン、イリス、密偵ちゃん、さらに少し遠巻きにどこかで見たような女騎士と兵隊さんを見回し、ガクガクブルブルと震えている。
堂々としておきなさい!
俺なんて詐欺師なのに周辺囲まれて逃げられなくて、とっくに諦めの境地にいるというのに。
悟りが開けそうだ。
立派な教祖様になれそうですって俺は元女神教の最大派閥の教祖だったわ、はっはっは、やっちまってたな!
はっはっは、はぁ〜……、なんでこうなったんだっけ?
「アレスさん、詐欺師だったんですか!?
私をどうするつもりですか!?」
あん? そりゃもう頂くのさ、もきゅもきゅと。
「いやぁ〜! 食べられるー!?」
俺の頭をぽこっとエルフ女が殴る。
「あんた、そのぐらいにしときなさいよ。
怯えてるじゃないの。
ほら、早く本選んで。
船の出港、あんたの本待ちなんだから」
お、俺の都合で船の出航を待たせるとか、そ、そんな恐ろしいこと……。
「そういうの、もういいから早くしなさい」
へ〜い、いくら経験しても自分の立場に慣れねぇんだよなぁ……。
「あの〜?
結局、私、なんでグルグル巻きで連れてこられたんでしょうか?」
ついにバクレースは今の状況に耐えきれなくなったのか、エルフ女に尋ねた。
エルフ女は俺を見て一言。
「なんでよ?」
あれ?
分かってなかったの?
カレンが頬に手を当てて首を傾げる。
「お仲間が増えたってことで良いんですよね?
アレスさん」
あれ? カレンまで。
「メリッサお姉様には連絡を先に送りましたよ?
これでシュトレーゼン王家とも繋がりが出来ましたね」
「へっ?」
バクレースは俺の方を見るが、俺は必死に首を横に振る。
バクレースは涙目になって訴える。
「い、頂くって性的にってことだったんですかー!?」
「違っわないけど、違う!」
え? あれ? 一緒?
いやいや、合意が無いのは俺はノーセンキューなのだ!
でもオーケーなら遠慮なく頂くよ!
「何やってんのよ、アレス。
早く本買って出発しようよー?
あと、そろそろこの娘の縄も解くよ?」
そう言ってエルフ女は俺の返事も待たずに縄を切ると、バクレースは迷うことなく逃げ出した。
その動きはまるで凄腕の密偵!
それを素早く密偵ちゃんがロープを投げてグルグル巻きに。
バクレースのグルグル巻き寿司一丁上がり!
……流石、本職。
「おいおい、エルフ女。
逃すなよ……」
「なんでよ?
本気で嫁にする気なの?」
それは本人の気持ち次第。
磨けば光る素材だから俺はオーケー。
「はぁ……、いーから事情言いなさいよ。
この娘も困ってるじゃないのよ」
「はーなーせー」
ビチビチと跳ねるイキの良いバクレースだ。
仕方ないので、いい加減説明しておく。
「シュトレーゼンにこのまま居たら、バクレースは殺されるか、永久に監禁されるか、まあ、ロクなことにはならないからな。
こっちで保護する」
「へ!?」
いきなり不穏な話を聞いて、海老反りの状態でバクレースは固まる。
器用ね?
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