外伝27:シュトレーゼンの女神と詐欺師④
「……やっぱカレンの変装(笑)が美人過ぎたせいで、犯罪グループに魔薬捜査官と看破られて、魔薬ではなく本物のチートが得られるお薬をつかまされたか?」
「えー!? 貴族社会ではあんな格好していたら地味でハブかれますよ!!」
S級美女は隠してもS級美女である。
あんな眼鏡と髪型だけで騙されるのは、物語の中か、世間知らずの坊やたちだけだ。
まあ、そもそも突入時にはカレンは変装(笑)をしてなかったから関係ないし、本丸まで攻め込まれておいて偽物のわけがないな。
「でも意外だね。アレスさん、ああいう犯罪系寛容だと思ってたけど。
わざわざシュトレーゼンの王家と協力してまで潰しに行くとは思わなかった」
「魔薬だけはなぁ〜、あれだけは駄目だぁ」
魔薬にハマると本を読むことすらできなくなってしまう。
未来の読者や作者の可能性を潰すなんざ、許しちゃおけねぇ。
「ふふふ、そういうことにしとく」
カレンは妖しげに笑う。
ほんとよ?
それが全てだかんね?
「はいはい」
お願い、信じて?
「信じたら詐欺に騙されるでしょ?」
ええ、まあ、その通りです。
コンコンと窓がノックされて、開けると密偵ちゃんが入って来た。
「お館様〜! 占いの館の人間はほぼ全て捕まえることが出来ました!
どうもアレでチートを貰った人にチートを無くした後に、さらにお薬を求める人に魔薬を飲ませて、さらに稼いだ金を全て搾り取っていたみたいですよ」
成る程、人は安易に手に入れた快楽(チート)を失った時の方が、より強烈に快楽(幻想)を求めるものだ。
しかも初回のチート薬は魔薬ではない本物。
なかなかしっぽが掴めない訳だ。
今回、アジトに入り込み、強制的に突っ込めたので魔薬を隠す間もなく回収出来たために無事解決出来たということだ。
「チートをタダでくれるなんて美味い話はないもんさ」
「アレスさんが言うと実感湧きますね」
そりゃそうだ、美味い話で乗せる詐欺師だからね。
それから数日後、俺は元大家でくたびれた羽織りにボサボサの金髪で、意味があるんだかないんだか分からない丸いメガネをかけた女性バクレース『先生』のところへ新作が出来ていないかと訪問する。
カレンの変装と似たようなもので、身なりを整えればかなりの美人になるであろうバクレース。
劇団詐欺で使っていた建物の大家だった女だ。
当然、今は借りていない。
だが脚本家としての先生の作品を読者として、こうして時々チェックしているのだ。
ここでエルフ女と一緒に演劇詐欺をしたのが遠い昔のようだ。
「バクレース先生、新作は出来ましたか?」
建物の扉を開けると、あのスラムでの酔っ払いのオッチャンが金貨1枚で例のBマークの付いた薬を受け取っていた。
「あっ」
「あっ」
カレンが素早く動き、酔っ払いオッチャン捕まえ、あっという間に連絡したシュトレーゼンの役人に引き渡された。
オッチャン逃げおおせてたんだ……。
そういえば密偵ちゃんも『ほぼ全て』捕まえたと言っていたね。
なんでも薬は普通にバクレースが10個金貨1枚で売ってたそうな。
「いやぁ〜、アレスさんが出て行っちゃって家賃収入が無くなったので、代わりに私特製の薬を売っていたんです。
これでも私、シュトレーゼンで古来より続く女神の神子の一族で、昔から不思議な力を与える薬を作れたんですよ!
すっごく手間も労力も材料費もかかりますけど!」
それを10個で金貨1枚で売って、犯罪者グループがそれを1個金貨1000枚で売っていた、と。
俺は親切丁寧にお間抜け大家のバクレース先生にそれを教えてあげた。
「へ!?」
それを聞かされてバクレースは丸メガネをずり落としガクガクと動揺する。
これを売って土地に掛かる税金を納めていたそうだ。
それで大半は税金に消え、金貨10枚で儲けは銀貨10枚程度だったとか。
さらにさらに作るのに特殊な錬金術で1ヶ月ほど掛かるうえに材料も高価。
そのせいで執筆も止まっているらしい。
何やってんの?
バクレースはこんなに大変だったんですよ、と泣きながら税金の支払い証明書まで見せてくれた。
いっそこんな土地なんか手放せばいいのに、ボロすぎて誰も引き取り手がなかったようだ。
古い家って売れなくて、資産どころか負債みたいなところあるよなぁ。
なお、その税金の内容を計算してあげると、随分過剰に税金を支払っていた。
役人たちはお役所仕事というか、税金を過剰に取ってるのに調べもしなかったのだ。
役所って、税金が不足すると徹底的に調べるくせに、多めに払うと申告するまで黙ってるよな。
あとバクレースはさらりと言いやがったが、シュトレーゼンで古来より続く女神の神子の一族とはごくごく普通にシュトレーゼン王家のことである。
とりあえず……、噂の女神って。
「お前かぁぁあああああ!!!」
女神は意外とあなたのすぐそばにいるかも知れません。
……って、居るか!!
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