外伝26:シュトレーゼンの女神と詐欺師③

 俺が連れて行かれた場所は、スラムの中にひっそり佇む占い館。


 うーん、雰囲気ある館だなぁ。


 中に入れと案内されて、オッチャンは中には入らず外で待機。


 妙な煙が漂う怪しげな雰囲気。

 占いは雰囲気が大事だけど、これはやりすぎ。


 まあ、正常な判断力を奪う香が焚かれておりますなぁ〜。


 中の住人に案内され奥の奥に入ると、ベールを被って顔の見えない美女オーラを演出した女が、玉座のような椅子に座ってお出迎え。

 ちょっと福福ふくふくしいお身体をされております。

 贅沢の象徴ね!


 周りをずらっと使用人のような、宗教のお付きの人のような、そんな輩が並んでる。


 きしょっ!


「よく来ましたね、ここで貴方は転生の儀を迎えます」


 生まれ変わりがどうたらこうたら。

 使命がどうたらこうたら。


 要するにチートの力を与えるから、後でお金を持ってきてね?

 とりあえず金貨1000枚ほど。


 後払いだけど、事実上お金でチート……ズルいと言われるほどの才能をくれる、と。


 実際にチート男のイセカが金貨1000枚をエルフ女の帽子のために、せっせと稼いでいたから不可能ではない金額。


 そして渡されるBの文字のついた丸いお薬。

 結局、薬でチートを付けるんだな……。


 魔薬で幻覚を見せるんじゃないの?

 金でそんな才能が付くならいっそ良心的だが、魔薬らしく依存性があるんだろうなぁ。


 そうでなくても一度得た才能を失うのは、一度得た大金を失うのと同様に人には耐えられないものかもしれない。


 人の欲は恐ろしいってね。


 それを受け取り、1枚の紙にサインしろって。

 おそらく魔法による制約の付いた契約書だろう。

 金の支払い云々カンヌン。

 要するに何時までに金貨1000枚払うように、と。


 サインした名前よりも、サインをしたということで発動するものだろうな。

 つまり偽名でも発動すると思われる。


 奴隷にしたりとかする条項がないのは、後でチート能力で反撃されたら面倒だからだろう。


 チート男イセカの例から見ても、かなり応用が効く能力みたいだしな。

 この薬を飲めば期間限定でチート能力が付いて、多分、依存性のほかにも強烈な副作用もあるだろうな。


 常識的な判断力が無くなるとか。

 やっぱり魔薬と一緒ってことかなぁ?


「もうそろそろ捕まえて良いですか?」

 ふいに室内にS級美女が現れる。

 まあ、カレンなんだけど。


 室内に居た福福しい女と周りの者、つまり俺以外の全員がギョッとした顔を浮かべる。


 良いも悪いも、もう捕まえに来てるじゃん。


「ああ、良いよ。

 この薬も『本物』だ。

 シュトレーゼンの役人には徹底的に調査するように言っておいて」

 俺はカレンにそう答える。


「な、なんだね! あんた達は!?」

 福福しい女が慌てて立ち上がる。

 ベールで隠して雰囲気を作っていたが、素顔が見えた。

 人の悪そうなオバチャンだった。


 人格が顔に出るのね。


 俺はそれには応えず軽く手を振って、室内に大挙して突撃してきたシュトレーゼンの役人に後を任せて、悠々と立ち去った。





 そして、その夜。

 宿屋のお部屋で俺はベッドに腰掛け、ちょろまかしておいた魔薬一錠をしげしげと眺める。


「それでそのお薬はなんなのです?」

 宿屋のベッドで毛布を身体に巻き、半身を起こすカレン。


 色っぺ〜。


 俺は錠剤を下から見つめ。


「ん〜? 昨日の魔薬とは完全に別のチートを得るお薬」

「……本物なんですか?」


 だなぁ〜。

 女神が出てくれば見たかったけど、出て来たのは薬だけ。

 魔薬とは別ルートのようだ。


 この薬だけ、なぜか他の薬のように後ろ暗いルートは通っていない。


 まるでポンっと魔法のように、突然湧いて出てきて、あの占い館にだけおろされている。


 調べてみたら本当にチートだけを授ける薬。

 使える期間は限られているけど、それだけで魔薬というほど身体がボロボロになったりはしない。


 気が大きくなったり、傲慢になったりするのは飲んだ本人の特性らしい。

 つまり過剰な力は人を狂わすって事だ。


 ただし使用できるのは1回こっきり、2度目を飲んでも効果はなし。


 効果が偽物だったなら良かったが、効果が本物の薬を魔薬と同じように犯罪で取り締まることは逆に難しい。


 こんな得難い能力を与える薬なのに、この薬だけはなぁ〜んにも後ろ暗いことがない。

 魔薬でなくて良かったと言うべきか?


 犯罪者グループの資金源になってたから、もちろん潰すのがベストなんだが。

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