外伝24:シュトレーゼンの女神と詐欺師①

 突然だけど、悪魔ってどんなのか知ってるか?


 契約に則って、人ならざる力を与えてくれる。

 それは紳士の時もあれば、見目麗しい妖しい美女のこともある。


 代償?

 有名だよな。

 そう、魂だ。


 さて、ここまで聞いて思い当たる人もいるんじゃないか?


 そう、楽してチートと呼べる力を与えてくれる女神が居るそうだ。

 だけどさ、それって……本当に女神か?




 あ、どうもゴンザレスです。

 あ、いや、アレスだった。

 うん、アレスだぞ?


 ゴンちゃんなんて呼ばないで?


「ねえ? アレスさん。

 本当に大丈夫〜?」


 シュトレーゼンのとある街の裏通り、俺は三つ編みメガネの地味っ子風カレンと一緒に歩いていた。


 変装してスラムに来た訳だが、カレンとしてはこれでも完璧な地味子に変身したつもりらしい。


 以前から疑問だったんだが、すっげぇ可愛い子が地味な格好しても、すっげぇ可愛いよな?


 実際に地味に見せたかったら、身なりそのものをもっと野暮ったく汚くして、髪をボサボサとかにして手入れを減らすとか……。


 ああ、もちろん、そう言った手入れをした後で地味にしても、もう遅いってだけで垢抜ける前なら少しは……、でも可愛い娘はやっぱり可愛いよな?


 なんで本とかでは美人になった変身後にしかチヤホヤしないんだ?


 少し前から世界は変わり、本も大量に流通して本に触れる人も増えた。お陰でカレンとも最近の流行の本のネタで会話出来るというものだ。


「様式美だからじゃないの?

 アレスさんって結構変わった事考えるよね?」


 変わってるかなぁ〜?

 ま、詐欺師だからな、思わずそんなこともあるかなと流してしまうことを、正しく認識することが詐欺のネタになるのだ。


「相変わらずアレスさんは自分が詐欺師だと思ってるんだ……」


 さ、詐欺師だよ……?

 何処かのハーレムを築く世界を統一した王様とかじゃない、はずだよ?


「未だに認めないって、凄いね……」

 カレンは俺の腕にしがみ付きながら、綺麗な深い黒の瞳で俺を見つめてくる。


 だ、だからね?

 元帝国皇女様が詐欺師の嫁になって、すでに子供が1人居るとか、詐欺みたいなもんじゃないかなぁ〜とゴンザレス思う訳で……。


「詐欺かぁ〜、そうだねぇー、詐欺に引っ掛かってホイホイされちゃったねぇ〜」


 思い出して恥ずかしそうに、笑いかけてくる。

 そこでカレンはふと思い出したというふうに尋ねる。


「ところでアレスさん。

 メリッサが確認しておいて欲しいと言われてたんだけど。

 アレスさんの王朝名はどうします?」


「王朝名?」

 なんぞや、それ。


「アレスさんのファミリーネーム。

 そういえば誰も聞いたことがないって」


 そりゃ、スラムにファミリーネームあるやつなんていないよな。

 カストロ……は公爵家だからまた違うのか。

 それなら……。


「じゃあ、マークレストで」

「マークレスト?」

 

 無論、かっこいいからと思いつきである。

 アレス・マークレスト、カッコよくない?


 国なんてね、どうでもいいのよ。

 その時代の人が精一杯生きられればね。

 何かを押し付けたり、暴力で奪ったりしなければな。


 俺はそう告げた。


 俺らしくない?

 ほっとけ! 俺はいつも良いことしか言わねぇよ。


 そうやって詐欺師は人をだますのだ。

 気をつけるように!


 それはともかく……。

 俺の王朝って……なに?


 お、俺の常識では、あり得ないことが起きているんだ……。


「……ほんとに認めないね?」

 あ、当たり前だろ!

 チンケな詐欺師に引っ掛かるS級美女なんて、あり得ないだろ!


「そうかなぁ〜?

 割とあっさり、え、なんでこんなクズに!?

 ……って感じに引っ掛かる娘って多いと思うよ?

 そういう人の方がアプローチ上手だもの」


 うう……、世知辛い、世知辛ぇよ……、そんな奴は世のモテない奴の恨みのパワーで爆発しちまえ……。


「アレスさん?

 分かって言ってるよね?

 そんな時、真っ先に爆発するの、アレスさんなんだけど」


 お、俺は常識的なチンケな詐欺師だ!

 そんな事あるわけない!!


「常識的なチンケな詐欺師って……何?」


 詐欺師は皆常識的だぞ?

 だから上手い話をそれっぽくでっち上げられるんだから。


 働かずに金儲けする方法は、他の人に働いてもらうことって良く分かってるからな。


 そもそも当たり前の話、良い儲け話がある時に人に勧めるってことは、勧めた方が儲かるからだろ?


 それが詐欺だろうとなかろうと、あくせく自分で働くということは、自分で働いた分しか儲からないものだということだ。


 儲けたかったら人に働かせる、リピートアフターミー。


 だから世間一般の常識に相手を乗せてあげれば、相手は勝手に詐欺師のために働いてくれるのだ。


 それに非常識な詐欺師なんて詐欺がバレて即捕まるし。


 あ、ほらほら、ターゲット見つけたぞ?


「オッチャン、ほら大丈夫か?」


 これ見よがしに壁に座り込む酔っ払いを見つけ、声を掛ける。


「うぃ〜っくぅ、あんちゃん、イイ〜女連れてるじゃねぇかー? 一発決める気かぁ〜?

 きへへへへ」


 酔っ払いの如く笑って見せるが、酒臭くないんだよなぁ〜。

 ベテランじゃねぇな、ハズレか?


 俺はオッチャンに詰め寄り、カレンに聞かれないようにコソコソと声を小さく。


「ばっ……おい! これから上手いことやるつもりなんだから、もうちょっと上手く誘導してくれよ!

 ほら、例の……」


 それだけ告げると、刹那の瞬間だけオッチャンはシラフを見せる……が、すぐにまた酔っ払いのフリに戻る。


「イイ〜ネ〜、どうだい、あんちゃん。

 ちょっとイイ〜物があるんだけどよ〜?」


 げひた笑いを浮かべる酔っ払い。


「イイ〜物〜?

 ほんとか〜?

 でもなぁ〜?」


 互いに下品な笑いを浮かべる。

 私気付いてませんよ〜っという顔で、不思議そうに小首を傾げるカレン。


 当然、世界ランクナンバーズのカレンが今の酔っ払いの変化を見逃す訳はないのだが。


「「キヒヒヒ……」」

 それを見て、俺と酔っ払いは互いに笑い合った。


 そうして俺たちは素敵な素敵な気持ち良くなるお薬を購入した。

 俗に言う、魔薬ってヤツ。

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