外伝23: シュトレーゼンのチート男ハーレムと詐欺師③

 チート男はまだエルフ女に執着を示していたようだ。

 危ない危ない。


 もう少し奴が賢かったら面倒なことになるところだった。

 そうなったら口で誤魔化すしか無くなっていた。

 ……いつも通りだな。


 だって俺、詐欺師だし。


 そんなこんなで暫くして、俺は次の獲物を探すべく街をふらふらしていると……。


 リトネ姐さんに『また』捕まった。

 驚くべき詐欺師検挙率である。


「おい、あんた?

 分かってる?

 ツケはまだ払い終わっちゃいないんだけどねぇ〜?

 何、しれっと逃げ出してんだい?」


 何をどうやって嗅ぎ付けたのか。

 そしてゴンザレス、こんなに簡単に見つかったことないの。

 ちょっと怖いわ、リトネ姐さん。


 否応なしに引きづられながら店へ連行。


 ひぃ〜!? やめてー!

 石を詰め込んだタルに入れて湖に沈めたりしないでー!?


 な〜んてことにはならず真っ当に身体で借金返済をしております。

 お店のモップ掛けをさせられながら、俺はリトネ姐さんの愚痴を聞かされる。


「参ったわよ〜。

 金づると見込んでいたイセカがさぁ〜。

 突然、魔物が怖いから冒険者辞めるとか言うんだもの。

 あ、そこ! 汚れてる!」


 冒険者なのに魔物が怖いとな。

 はてさて、ベテラン冒険者だったイセカに何が起きたというのだろうか。


「ほんとよねぇ〜。

 あの噂ほんとだったみたいね?

 イセカが努力も何もせず、貰い物の力で成り上がったって噂」


 開店前のテーブルで手酌で酒を飲みながら、相槌を打つクーコ。


 何、あんたら実は仲が良い?


「あんた、そこ掃除もう良いわ。

 良く働いたから飯食って行きなさい」


 クーコのテーブルに何も言わずベーコンの薄切りのつまみを置きながら、そう言って俺の分の食事も用意してくれる。


 実は世話焼き?

 流石は姐御だってことで。

 ただ飯は最高。


「へぇ、姐さんご馳走になりやす」


「あんたに姐さんと呼ばれると変な感じだからやめて。

 私には生き別れた妹しかいないわよ。

 そりゃあね?

 生きてりゃ色々あるわよ?

 それでも私らみたいなのでも、なんとか生きてかなきゃいけない訳よ。

 ところであのイセカの後ろにいつもくっ付いてた、陰気そうなローブ着た子はどうしたのか、クーコ知ってる?」


 色々あったことについて、同意する様に何度も頷いていたクーコは。


「あ〜、あの子。

 イセカにたかられているわよ?

 何でも命を助けてもらった恩人だからって。

 完全にヒモね。

 ああいう娘は引き際知らないから、ダメ男にハメられちゃうのよねぇ〜。

 イセカはイセカでヒモの癖に、偉そうにあの子をこき使ってるらしいわ」


 典型的なダメンズに引っ掛かった女となったようです。


 そこで何故かリトネ姐さんが俺を振り向く。


「ねえ、ちょっとあんた何とか出来ない?」

「へぇ? あっしですか?

 いえいえ、あっしは……」


 そもそもなぜ俺がなんとかできると思う?


 俺が否定すると、そりゃそうよねとリトネは大人しく引き下がる。

 言ってみただけのようだ、良かった良かった。


 ご馳走さんと俺は店を出る。


 その足でとある一軒家に行く。

 その家の扉をトントンとノック。


「……はい」

 例の陰気そうな女が顔を出す。

 実に幸薄そうな顔である。

 だがそれなりに顔が良い。


 なぜ良い女でも関係なくダメンズに引っ掛かるのだろうか。


 ダメンズに引っ掛かるとブラックギルドに引っ掛かる並に、人生ずたずたにされるから注意よ!


 その女に紙をバサッと見せる。

「イセカさん、借金がありましてねぇ〜」


 そりゃあ借金はあるだろう、相手は俺ではないが。


 なお、その紙には借金についてそれっぽく書いているが、偽物の証文である。


「か、必ず払いますから!」

 何度も言い慣れてしまったのだろう。


 そう言って証文を確かめもせず、扉を閉めようとする陰気女。


「おおっと! 良いんですかい?

 この家にお金が無いことは知ってますぜ?

 だから代わりに借金に追われなくなる、ちょっと良い話を持って来たんですぜ?」


 この手の話が良い話のわけがない。


「い、良い話、ですか?」

 陰気女は俺の言葉に扉を閉めようとする手を止める。


 しかし、追い詰められたものは地獄行きの切符すら掴む。

 他に方法などないのだから。


 そうして、俺は女を連れ出すことに成功した。


 んで、陰気女をとある場所に売り払った。

 良い金になった。






 数日後、何故か俺は『またまた』リトネ姐さんの店に連れ込まれた。

 またしても街を歩いていると捕まったのだ。


 どうやって見つけてるの!?

 詐欺師検挙率不動の1位よ!?


「ありがとね、あんた助けてくれたんだって?」

「な、何がで御座いましょう?」


 何を言っているかさっぱりでおじゃる。

 とってもいつものことな気がするけれど!


「なるほどね。

 チンケな男のふりして、そうやって世の女たちを堕としていってるんだね。

 あんた、悪い男だねぇ?」


 しなだれかかるように隣に座るリトネ姐さん。

 まったく何のことやら!

 詐欺師は悪人なので、悪い男と言えば悪い男ですが!


「イセカは借金取りに捕まり、鉱山に働きに行って、あの子はあんたのおかげで新しい職場を得て、幸せに暮らしているみたいよ?」


 そ、それは良かったですね?


 俺はあの黄金色に日に焼けたおっさんを売り払ったのと同じギルドに、あの娘も売り払っただけよ?


 し、幸せなら良かったわ、奴隷でも幸せになる人はいるものね?

 わたくしの価値観ではよく分からないだけで。


 俺、売り先のギルドを奴隷商か何かと思ってたけど違うの?


 え? 有名なホワイトギルドですって?

 嫌だわぁ〜、リトネ姐さん。

 世の中そんなに美味いお話はなくてよ?


 ホワイトギルドはありますって!?

 いえいえ、夢を見るのは自由でしてよ?


 何故かいつものパラレルワールドに恐怖した俺は用事があると言って、最後にはリトネ姐さんを振り払い、店から逃げ出すのであった。





 店から逃げ出す銀髪の男の背を見ながら、リトネは仕方ないなとため息を吐く。


 さてそろそろ開店の時間だ。


 リトネは立ち上がる。

 女は強いが、もろい。


 だから女は男に騙して騙され。

 それでも強く生きていくのだ。


 ふとリトネはある噂話を思い出す。


 世界最強と呼ばれた存在がいる。


 曰く、魔王すら指先一つで滅ぼす勇者

 曰く、万の敵すらも打ちのめした英雄

 曰く、女神に選ばれた聖人

 曰く、世界を統べる王の中の王

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、数え上げたらキリがなく、どれほどの偉業があるのか誰も真実を知らない。

 それが、世界最強ランクNo.0


 その世界最強ランクNo.0が人知れず、嘆く人々の涙を見かねて悪を断罪したのだと、そんな根も葉も無いが幹だけある、そんな噂話。


 もちろん、スイもあまいも経験をし、今日も酔っ払いどもを相手をするリトネにはなんの関わりもないお伽噺のような噂話。


 そんな人物がさっきの銀髪男と何故か重なって見えた。

 ただ……、それだけのこと。




 世界ランクナンバーズを刻む世界の叡智の塔。

 その塔に世界ランクNo.0の文字が刻まれることは当然、ない。

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