外伝19:シュトレーゼンのブラックギルドと詐欺師②

「さ、今日も定時からが仕事の本番!

 頑張ろうか!」


 ロリク君、10代の少年である。

 残念ながらS級美女ではないので興味はないが、彼本人は(都合の)いい子である。


 なんで大人しくタダ働きしてるんだ?


 時間=金に例えると自分から詐欺されに突っ込んで行ってるのと変わらんぞ?


 それはもはや宗教か? 宗教なのか?


 もちろん、やらないとクビにされたり脅されたりするらしい。


 普通に犯罪だよね?

 命を削って仕事する分、詐欺よりタチが悪くない?


 そう思うとシュトレーゼンはこんな感じの変なことが多い。

 権力者が堂々と詐欺をしているのに皆が大人しく従っている。


 え? 君ら何してんの?

 俺からしたらそう思うが詐欺師にはパラダイスなので黙っておく。


 かくいう俺もギルドマスターの書類を片っ端から選別していく。


「アレスさん、何してるのです?」


 上から順番に一生懸命片付けようと悪戦苦闘しているロリク君が、こちらに気付き不思議そうに首を傾げる。


「選別してんだよ。

 この大半が要らない仕事だからな」


 そう言いながら、要る、要らない、ネタになりそうな仕事の3つに分けていく。


 要る書類はイリスに渡し、ネタになりそうなものを目を通し、メモメモ。


 要らないやつはロリク君に渡し。


「適当にサイン書いといて。

 スピード重視で適当にね、愛人との旅行代立替金決算とかどうでもいいし。


 ああ、ダメダメ、ロリク君。

 内容は見ない見ない、見ても無駄だから」


 首を傾げながらもロリク君は言われるがままサインしていく。


 暗い室内をランタン一つが3人分の灯り。


 節約だそうだ。

 超効率悪い〜。


 書き直しで使った紙を再利用して、もはやなにが重要なのかわからなくなった書類の山を何年も積み重ねたり。


 だが、シュトレーゼンではこれがまかり通る。

 何度目かになるが思う。


 馬鹿なんじゃないの?


 俺からしたら不思議でいっぱいだが、このシュトレーゼンでは。


 この間エルフ女がオラオラオラと叩き潰した痴漢男爵のような無能が上の立場になれてしまう不思議な風土が出来上がっている。


 そう思いつつも。

 それで働かされたりする労働者気持ちは、実はゴンザレスよく分かる。


 なんといっても奴隷経験者だから!


 あれはヤバい。

 もうなんというか人格というか存在がとことん壊される。

 あれはダメだ!


 この土地の歴史書を紐解いてみると、元々そんな悪質なクズがのさばる地域ではなかったようだ。

 最近のことらしい。

 元々な地域もあるけど。


 つまり詐欺師と同じである。


 ちょっと良い目を見ようとした奴が上手くいってしまって、一度その存在を周りが許してしまって……悪循環!


 世間の空気っての?

 そういうものに呑まれていってしまったらしい。


 とにかく俺がだますのは良いが、騙されるのはごめん被る。


 そう思いながら1週間。


 貧乏くじを引かされ無駄残業をさせられる若きロリク君と一緒に、こうして書類を片付けていた。


 なお、初めてイリスが参加した初日の夜などは……。

「アレス様、あいつら今すぐ物理的に消したら駄目ですか?」

 そんなふうにイリスに真顔で聞かれた。


 物理的に消すって……ああ、以前、聖剣探しのときに盗賊を物理的に消滅させてたね?


 良いよと言ったら本気で即座に消してしまうから、必死に首を横に振っておいた。


 怖いよ、イリス。





 そして。


「やーめぴー」

 そう言って俺は途中の書類を放り投げ、ギルドマスターのソファーで横になる。


「えー!? アレスさん!

 まだこんなに残ってるんですよ!

 怒られますよー!?」


「イリス〜、寝るぞ〜」

「はい」

 そう言ってイリスはフッとランタンの火を吹き消す。


 3人以外いないギルド内は途端に真っ暗闇になる。


「えー!? ちょちょっとー待って下さいよー!

 消さないでくださいよー!

 まだこんなに仕事残ってるんですよー!?」


 なんで俺がワガママなオッサンどものために働かにゃならんのだ。


 奴らはやればやるほど良くやったではなく、もっとやれというだけだ。

 奴隷商人の方がもっと節度がある。


 ロリク君はランタンの火を一生懸命につけて、仕事を再開したのを横目に俺はすぐに眠りについた。





 突然だが。


 次の日、ロリク君はギルドマスターの愛人に色目を使ったとかよく分からない理由でギルドをクビになった。


 こういうギルドの人の扱いはこんなものである。


 なお、ギルドマスターの愛人はやたらとケ化粧のバい中年のババアである。

 ロリク少年、ババ専だった?


 そして、このギルドから真面目なロリク少年の居なくなったその夜……。


 その日も残業をしているはずのアルバイトの銀髪の男と、美女の受付嬢がそのギルドからそっと姿を消した。


 山積みになった書類の山。

 ギルドの商売のかなめとなる重要な情報のつまった書類と共に。

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