外伝18:シュトレーゼンのブラックギルドと詐欺師①

「アッレス様が〜置いて行く〜、

 私をおいて行くったら、置いて行く〜♩


(セリフ)S級とかその気にさせて捨てて行くんだ。


 ひっどいひっどい詐欺師ですー♪」


 イリスの歌声なんて初めて聴いたなぁー。

 それがなんでこんな歌?


 はい、どうもアレスです。

 ゴンザレスとも言います。

 チンケな詐欺師です。


 とてもとてもS級美女に好かれるような存在ではないはずです。


 なのに現在、そのS級美女にして世界最強ランクNo.1のイリス・ウラハラに左腕にしがみ付かれて、おかしな歌を歌われております。


 ……どうしてこうなった?


「イ、イリス?

 なんかキャラ、違くない?」


「アレス様への想いを歌に込めてみました。

 いつもいつも、い〜っつも!

 S級だどうだこうだと言いながら、捨てて行かれるんです。


 ひどいです、詐欺です。

 でも愛してます」


 そ、それはアレだね?

 ダメンズに引っ掛かる典型的なパターンよ?


 良い女はそんな悪い男に引っ掛かたら駄目よ、ダメダメ。


「アレス様が逃げなかったら良いだけなんですけど?」


 いやぁ〜ほら、世の中、有り得ないことが起きると逃げたくなるでしょ?

 それよ、それ。


「現実逃避してても良いので私も連れて行って下さい」


「いやぁ〜ほら、君ら美女過ぎて目立つから……って泣くな! 泣くな!」


 ゴンザレス、泣いてる娘に弱い!

 これだけは認める!


 俺はため息を吐いて言った。


「仕方ないな……。

 面白いことはないぞ?」


「私たちはアレス様が居ればそれで満足です♪」

 君らのその詐欺師に対する絶対的な信頼感、なんなの?


 いや、いい……、説明しなくていい。

 エルフ女にも散々聞かされたから。


 カストロ公爵領の奴らを相手にするのと同じで考えても無駄なのね、ゴンザレス悟ったわ。


「はい。無駄なので同行させて頂きます」


 なんでこうなったかなぁ〜。




「そこー! ゴンザレス君!

 駄目だ駄目だ!

 なんだね!

 君は受付嬢のイリス君に引っ付いて!

 離れなさい!!」


 あご髭男が俺に指を突きつけそう言い放つ。


 いやぁ〜、俺が引っ付いている訳ではなく、俺が引っ付かれているんだけど……信じない?


 そうだよねぇ〜、俺も信じない。

 何度も言うが、なんでこうなった?


 俺はシュトレーゼンのとある街の冒険者ギルドの職員として働いている。

 ……無論、詐欺だ。


 丁度、この街のギルド員の身分証を持っていた黄金色に日に焼けたおっさんが居たから、詐欺って紹介状を書かせて臨時職員、つまりアルバイトの仕事を得た。


 そのついでにおっさんには、口封じを兼ねて騙して借金をつくらせて、別のギルドに借金のかたに身売り……もとい紹介しておいた。


 そのおっさんがどうなったかは知らん。


 イリス?


 俺がギルド職員をしているのを見つけて、働かせろとギルドマスターに詰め寄ったら、なぜか受付嬢として一発採用。


 男なら紹介状があってもアルバイト扱いなのに、美女相手だと一発ギルド正職員。

 世知辛い!


 ちなみにこのあご髭オッサンはギルドマスターの従兄弟で縁故採用のギルドマネージャー。


「ふん! 所詮、貴方はアルバイト。

 立場というものを弁えなさい!」


 どんなに偉そうにしても所詮、同じ雇われ人。

 それにギルドマスターという1番上でもなければ貴族でもない。


 つまり立場をわきまえろと言うなら、何一つ気にする必要がなかったりする。

 なのに偉そう。


 不思議ねぇ〜。


 皆〜、誰かに立場云々たちばうんぬんとか言われても、詐欺みたいなものだから騙されちゃダメよ〜?


 そのまま、あご髭オッサンは自分の存在価値について如何に尊いか。

 怒号を交えながら俺に説明し始めた。


 凄いわぁー。

 よくもまあ、そんなに自分で自分をたたえられるのかしら?


 わたくし、詐欺師で御座いますけど身の程というものを知ってますわよ?

 あなた様のように自分をそこまでとうとく思えませんことよ?


 あら、誰かしら?


 今、わたくしを詐欺師じゃなくて王様だろ、とおっしゃった方。


 わ、わたくしそのようなお方ではごごごございませんことよ!?

 チンケな詐欺師でしてよ!?


 そんなこと言う子はメッ!


 ……ふぅ〜、あまりのあご髭オッサンの自分自慢の馬鹿馬鹿しさに現実逃避してしまった。


 結局のところ、こういう奴は人に褒めてもらえる存在ではない。

 なので怒号を交えて自分で自分を褒めないと自分を保てないのだ。


 一言で言うと迷惑なんだが。


「ダマークさん。こちらサイン貰って良いですか?」


 隣に座っていた同じアルバイト真面目少年ロリク君が、唾飛ばしながら喚き散らすあご髭オッサンに書類を見せる。


 助け舟を出してくれたようだ。


「あん? あー、ちっ!

 てめぇらは俺がいないと何にも出来ねぇな〜。

 後、奥にある書類やっとけよ?」


 文句を言うだけ言って、サインをするだけの簡単な仕事をするあご髭オッサン。


 そして執務室の奥の部屋に山積みになった書類の束を指差ししながら、あご髭オッサンはそう言った。


 ちなみにその書類はあご髭オッサンとオッサンの従兄弟のギルドマスターの仕事分である。


 ギルドマスターはとっくに愛人の女を連れて酒を飲みに行ってしまった。


 あご髭オッサンも、イリスちゃぁ〜んと気持ち悪い声を出してイリスを連れ出そうとした。


 しかしイリスはすっごく綺麗な笑顔の中に強烈な殺気を放った。


 横にいるだけでオソロシイ殺気だった。

 イリスもあご髭オッサンにイラついてたらしい。


 ……そして、あご髭オッサンはちびりながら中腰になって帰って行った。



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