外伝16:シュトレーゼンの痴漢と冤罪詐欺師、あとエルフ②
衛兵長オトーフは飲み屋の女性との店外デートを終え、鼻歌混じりに今しも通りを抜けようとしていた。
「衛兵長、こっち来てくれ!」
陽気な気分に水を注され、街の住人から呼び止められた時には舌打ちをしたい気分だった。
しかし、なにぶん本来なら衛兵詰所に詰めていなければならない時間に、飲み屋のお姉ちゃんと店外デートをしていたのだ。
これを無視すれば、街をパトロールしていたという言い訳も使えなくなる。
仕方なしに人が遠巻きに集まって来ている場所まで行くと……。
何やらケツを高く上げた見なりの良さそうな服を着たオッサンとチンケな詐欺師といった風情の男。
それに。
「おお!」
衛兵長オトーフはその女性を視界に収めた時、思わず感嘆の声を上げた。
先程まで衛兵長オトーフが高い金を払いケバケバしい飲み屋の商売女をC級とするならば。
その女性はA級……いや、今まで見たことがないほど美しいことを思えば、S級と言って良いだろう!
衛兵長オトーフは少ない髪を気持ちだけ手でセットし、咳払いを一つする。
オトーフなりに出来るだけ紳士的になるようにその美しきS級の女性に声を掛けた。
「これは一体、なんの騒ぎだ?
そこの者たち、一体何があったのかね?」
しかして、S級美女はツーンとすませた表情を浮かべるのみで、なんら反応を示してくれない。
まるで私悪くないもん、と訴えているかのようにも見えるので、それはそれで悪くない。
しかしながら、それでは衛兵長オトーフにしてもこの女性とお近付きにもなれない。
この時点で衛兵長オトーフからしてみれば、ピクピクとケツを高く上げている男などどうでも良かった。
S級美女とお近付きになる、それだけが独身を
今、この時の出会いのためだけに衛兵をしていたと言っても過言ではない。
本当は食い詰めて惰性で衛兵をしていたら、飲み屋の姉ちゃんに入れ込み過ぎて、衛兵を辞めるに辞められなくなった、そんな人生だが。
それに加えて日々仕事をサボり。
商人から袖の下を貰い。
街行く人や店にイチャモンを付けてタダで買い物したり。
文句を言った部下を左遷したり、厳しく無駄な訓練をさせたりするぐらいである。
オトーフが立派なクズなことはさておき。
それもまた人生。
そう割り切っていたはずの衛兵長オトーフはギラギラと燃え過ぎていた。
そう、ギラギラと!
S級美女とねんごろになりたい。
その野望はとあるチンケな詐欺師と通じるものがあるが、チンケな詐欺師と同じ真似をすれば即座に散ってしまうことだろう。
それでも
それが今だ!
もちろん、決してその時は今ではない訳だが、それでも衛兵長オトーフは進み出た。
「そこの美しいお嬢さん。
少しお話を伺っても宜しいですかな?」
流石はS級美女、ツーンとそっぽを向いたまま一筋縄ではいかない。
なんとか突破口はないかと思案し掛けたところで、S級美女の隣のチンケな男が口を開く。
話を聞きたいのはお前じゃない!!
衛兵長オトーフはそう訴えたかったが、それを言ったところで打開策はない。
それならば、このチンケな男の言葉から何かヒントを得られるかもしれない、と耳を傾けてやることにした。
これもオトーフの慈悲である。
「これはこれは衛兵の旦那。
ちょいと不幸な行き違いがあっただけでさぁ。
あっしらはこれにて失礼しやす」
「待てぃ!!!!」
聞くんじゃなかった。
S級美女に逃げられるのが最悪と言って良い事態だ。
咄嗟に声を張り上げチンケな男とS級美女を引き留める。
なんとしても何かで引き留めなくてはならない。
衛兵長オトーフはその衛兵人生の全てを賭けて頭をフル回転させた。
キュピーーーーーン彡☆
その日、衛兵長オトーフは覚醒した。
頭の中に光る星が流れた、気がした。
無論、気のせいである。
そしてケツをピクピクさせ転がる無様な男を指さす。
「あれはカクーレ男爵ではないか!
街の有力者たるこの方に一体何があったというのだ!」
そう頭の中に光る星が流れたのは気のせいだったかもしれないが、閃きがあったのは事実だったのだ。
無様に転がるこの男こそ、普段は傲慢で我が儘だが街の有力者で金と権力を持つカクーレ男爵なのだ!
衛兵長オトーフも迷惑を掛けられたことは一度や二度では済まない。
と〜ってもいい気味だが気付いた以上、放置も出来ないのが雇われ衛兵長の悲しいところ。
だが実に悪魔的なアイデアが衛兵長オトーフに与えられたのだ。
事情聴取という名目でこのS級美女を任意同行を願うのだ。
無論、任意同行とは任意に見せかけた強制である。
ついて来なければいちゃもんつけて、なんらかの罪を着せたり疑ったりする材料にするのだ!
汚い! 汚い衛兵長オトーフ!!
「ふむ……。
そこの淑女を見る限り何やら事情がある様子。
どれ、この私が少し話を聞いてやろうではないか。
なぁに、悪いようにはいたさん。
これ、そこの男! 男爵が起きるまで付いておくが良い。
ゆめゆめ、男爵を放っておくのではないぞ?」
衛兵長オトーフはそう言ってエスコートしようと、S級美女のその魅惑的な腰に手を回そうとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます