外伝15:シュトレーゼンの痴漢と冤罪詐欺師、あとエルフ①

「あべしっつ!」

 男が吹き飛ぶ。


 オラオラオラムダムダムダ。


 そんな声すら聞こえて来そうなほどの乱舞の後、エルフ女は空飛ぶ男にさらなる蹴りを3発。

 1発は男に当ててはいけない危険なオマタな場所へ。


 その壮絶な刹那の瞬間を捉えられた者は居るのだろうか。


 俺? 見ちゃったのよねぇー……。

 死んだな、色んな意味で。


 あ、どうもゴンザレ……アレスです。

 どっちでも良いです。


 チンケな詐欺師です。


 どこぞの世界ランクナンバーズに匹敵するエルフ女さんと一緒にしないでください。


「痴漢野郎、シネ」

 ケツを高く上げピクピクしながら地面に転がっている男に向け、エルフ女が指を突き付ける。


 ◯にましたのでもう許してあげて!


 事の発端は何でもない。

 人の多い市場で店を眺めている際に、エルフ女のSiriを撫でようとした不埒な輩がエルフの怒りを買った、ただそれだけ。


 ただそれだけかもしれないが痴漢は犯罪です、ダメ絶対。


 詐欺師?

 さあ? なんのことかな?


「エルフを舐めんな!」

 興奮冷めやらず鼻息荒くエルフ女は男を睨みつけるが、男はピクピクとするだけ。


 この場合、エルフであることは全く関係がないが、当然指摘する者は誰も居ない。


 俺が指摘?

 ヤダよ、蹴られるじゃん。


 通りの人が遠巻きに見ている。

 後始末をどうしようかなぁ〜と思ったが、逃げるが吉なので迷わず逃げることにする。


 痴漢は犯罪だがやり過ぎると過剰防衛ということにも。

 しかしながら法整備そのものは各国で多少の差異はあれど、今回、エルフ女の過剰防衛ということにはならない。


 放置しておくと重犯罪化したりするケースもあるためというのもあるが、ひどく単純に力関係の問題だ。


 ひょこひょこと俺について回っているエルフ女だが……実は世界統一皇の奥方であり、世界的VIPなのです!!!


 大国の妃どころか世界を統べる国の妃に痴漢しようとするのだ。

 そりゃあ、相手が悪い。


 その大国の王様が誰かについては今は言及しないでくれ。


 とは言え、痴漢という犯罪はなかなかこれで立証が難しいという大きな壁がある。

 現行犯逮捕でないとどちらが悪いと主張した者勝ちになるということもある。


 そんな訳でエルフ女が激しい怒りでもってぶちのめしたのも、ある意味当事者からすれば真っ当な怒りである。


 正確には触れる直前でエルフ女が反撃したので未遂だが。

 抵抗しなければ触れられているので、まあ……、うん、仕方ない。


 正直、エルフ女の尻を狙って命があるだけマシというものである。


 なお、俺も酒場の姉ちゃんのお尻を触ろうとしたことがあるがこれも犯罪である。

 バレたら俺も始末されてしまうことだろう。

 秘密、秘密。


 そんなわけでさっさと逃げようとした俺だが、エルフ女が興奮冷めやらず剣を抜いて切り捨てようとしているではないか。


「待て、流石に待て」


「離しなさいよ、アレス!

 こんな奴は生きてちゃいけないのよ!


 こんな奴らは幾度も同じことをする!

 禁断の果実を味わった者はその麻薬に侵されて、社会の規制だけではもう何一つも止めることはできないのよ!


 こんな、こんな奴らが居るからァァアアアアア!!!

 こんな奴らのせいでぇえええええええ!

 アレス、離しなさい!!!!!」


 お前は痴漢にどんな恨みを抱えてるんだ!?


 目撃者が居なかったら、さっさと始末してから逃げても良いが、ここは天下の往来である。

 ばっちり人に見られている。


 しかも衛兵に尋問されたら俺が詐欺師とかバレるじゃないか!

 王様? 誰ソレ?


 そこに仕事に真面目な衛兵がたまたま近くに居たのか、それとも住人に呼び出されでもしたのか。

 衛兵っぽい格好の男がやって来て俺たちに声を掛けてきた。


 ちぃ! 手遅れだったか!!


「これは一体、なんの騒ぎだ?

 そこの者たち、一体何があったのかね?」


 明らかにS級美女であるエルフ女に視線を合わせ、髭の衛兵は俺たちに……というかエルフ女に声をかけて来た。


 やぁねぇー、鼻の下伸ばして美女のエルフ女に興味津々じゃないの〜?


 ……衛兵さん、俺の隣でツーンとしているそのエルフ女が犯人です。

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