外伝12:シュトレーゼンのチートと詐欺師①

 チートってのを知ってるか?


 要するにズルって奴だ。

 楽して最強、楽して無敵、楽して俺つぇええ。


 さて、これを聞いて何人が気付いたかな?


 そう、これって詐欺のお決まりのパターンなんだ。





 あ、どうもアレスです。

 ゴンザレスと呼ばれたりするが、もうどっちでもいいや。

 チンケな詐欺師だ。


 なんで俺がそんなことを思ったかというと……。


「そこの詐欺師。その人を騙そうとしても無駄だよ?」

 まだ年若い冒険者風の男に突然そう話しかけられた。


 俺とエルフ女は同時に後ろを見る。


 通行人が遠巻きに見ている。

 ヒソヒソと冒険者風の何人かが、噂のチートがどうとか話し合っている。


 前を向く。

 男がこちらを見ている。


 エルフ女と顔を見合わせて、また再度後ろを見る。

 この年若い冒険者風の男には見えない誰かでも居るのだろうか?


 ヤダ、コワイ!


「何処を見ている!

 あんただよ、そこの詐欺師。

 俺にはスキルが見えるんだよ」


 冒険者風の男はやれやれと呆れたように俺を見る。


「チートって、あのチート?」

 俺は男を見ながら首を傾げる。


「チートって何よ?」

 エルフ女もいぶかしげな顔。


 そこで男は自信たっぷりに、だが仕方ないなぁという風に説明し出す。


「やれやれ仕方ないなぁ。

 俺はAランク冒険者のイセカ・イバンザだ。

 俺が女神から貰ったスキルであんたの正体はバレバレだよ?

 大方、その美しい人を騙そうとしてたんだろ?

 全部お見通しだ!!!」


 女神ってあの女神?

 今代女神のメリッサはチートなんて授ける能力あったんだ?


「メリッサはシュトレーゼンに連れて来てないじゃない。

 それよりあんた詐欺師バレてんじゃないの、どうすんのよ?」

 エルフ女がコソコソと俺に耳打ちする。


 あふ〜ん、耳に息が当たってくすぐったいわ。


 その様子を見てチート男は俺に指を突きつけ叫ぶ。


「その人を解き放て!

 その人はお前の奴隷じゃないぞ!」


 奴隷ではないな。


(そうそうキョウちゃんも最初あんな感じだったなぁ〜。

 人の話聞けよ、みたいな?)


 人の話を聞かないこの男は、話の内容が聞こえるとさらに興奮しそうな奴なので、コソコソとエルフ女の耳のそばでささやく。


 ついでに耳を舐めたら真っ赤な顔で殴られた。


「……ってことは、アレも勇者なわけ?

 私、あんなの指導するの嫌よ?

 キョウの方がまだずっと良い子だったわよ?」


 勇者は流石に無いと思うけどなぁ。


 あとまだ初見だから、本当はイイ奴かもそれないだろ?

 まあキョウちゃんみたいにTS薬被ってくれれば、少しは相手はするけどこの男は魂の底から男っぽいからなぁ〜。

 どうするべきか。


「おい! 聞いてるのか!

 その人を解放しないと……」


 俺は男が興奮しすぎてキレ出す前に、手をゴマ擦り腰を曲げ相手に対して下手に出る。


「へっへっへ、お兄さん。

 お目が高い。

 奴隷解放?

 ああ〜、成程、成程。

 お兄さん、貴方勘違いされてますね?」


「勘違い?」

 チート男は俺とエルフ女を見比べる。


 うん、まあ、S級美女のエルフ女とチンケな詐欺師感漂う俺。

 そりゃまあ、そう思っても仕方ないと思う。


 エルフ女は腕組みしながらチート男の視線に嫌そうな顔。

 真っ昼間の大通りでキレてチート男を切り捨てないでね?


「はい、ちょいと勘違いされております。

 わたくしめがコイツを手に入れたのは、実にじつーに合法的な手段に御座います。


 貴方様がそれを解放せよと言うのは、少なからず手順にのとって頂かないとそれは犯罪というものになりかねません」


「なんだと、どういうことだ?」

 チート男は理由が分からず説明を求める。


「へぇ、簡単なことでやんす。

 わたくしめはこれに掛かったお金を『合法的』に、支払っていただければそれで良いだけで御座います」

 そう言って、俺はエルフ女から帽子を取り上げる。


 あっとエルフ女。

 チート男が息を飲む。

「エルフ……」


 俺はニヤリと笑い、帽子をクルリと振る。

「へぇ、コイツは金貨1000枚で如何です?

 プレミアでやんすよ?」


「ちょっと、あんた……」

 エルフ女が喰って掛かろうとするのを手で制す。


 チート男は俺たちを見ながら、何かを吟味し口を開く。

「良いだろう。

 金貨1000枚と交換だ」

「ちょっと!」


「契約成立ですね。

 いやぁ〜、流石お目が高い!

 これでコイツは旦那のもんですね」


 俺は上機嫌に帽子を掲げて、反対の手でエルフ女の肩を抱く振り。


 しかしそこでチート男は待ったを掛ける。


「だが今は金貨1000枚の持ち合わせがない。

 少し待ってくれ」


「へぇ?

 しかしながらいつまでもという訳にも行きませんねえ〜?

 1週間、それで如何でしょう?」

 チート男は分かったと頷く。


「それで良いだろう。

 ただし、貴様がその人を連れて逃げるかもしれない。

 だから契約を結んでおこうと思うが、どうだ?」


 そう言うとチート男は俺の返事を待たずに、何やら両手を広げてモニャモニャ唱える。

 すると男の前に紙が浮いて現れる。


 なんだこりゃ?


「契約書だ」

「確認しても?」

 中身をよく読む。


 ふむふむ、契約は契約書の交換によって行われると。

 契約内容は先程のやりとりで俺が示した契約内容とする、と書いてある。

 契約書を交換しただけで、俺はチート男の金貨1000枚を手に出来るという訳か。


「あっしとしてもこの契約が上書きで潰されても困ります。

 ですので、ここに『同様の契約は上書き出来ない』と文言を追加してもよろしいでやんすか?」

 ふむ、とチート男は分かったように頷く。


「分かった、これでいいか?」

 チート男が指を動かすと契約書に一文足される。

 ふむふむと頷く。


 契約書にお互いの名前を書く。

 アレスの名前でも通じるらしく、契約書が光る。

 互いの契約書を交換する。


「これで契約成立だ。

 1週間後履行される。

 これは距離は一切関係がないから、お互いがどこに居ても発動する。

 これで彼女は俺のものだ」


 あ、最後に本音出たな。

 やっぱりエルフ女がS級美女だから自分のモノにしたかっただけだよなぁ、そうだよなぁ。


「へへへ……、毎度あり。

 兄さんなら大丈夫と思いやすが、きち〜んと金貨1000枚稼いで下さいね?」


 そう言って契約成立の握手を交わそうと手を出すが、チート男はその手を取らずエルフ女を見て。


「貴女を1週間後、必ず救い出します。

 待ってて下さい」

 そう言って俺たちの前からチート男は立ち去った。

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