外伝11:シュトレーゼンの演劇と詐欺師、あとエルフ⑤
「別に大したことはしてないぞ?
転生男が演劇のスターダムをのし上がる……かもしれないってだけ」
その説明だけでは不満だったらしいエルフ女は俺の前に回り膨れっ面。
仕方なく説明する。
要するに転生男が話に乗った時点で俺の目的は達成、あとは変なやっかみや恨みを買わないように根回しした。
それだけのこと。
大半は根回し。
単純に金だけ持っていくには、エストリアのある大陸と違いシュトレーゼンという島国は狭すぎて、すぐに裏で話が伝わってしまう可能性があった。
やっかみは怖いからねぇ〜。
暗殺を防ぐ1番の方法はそもそも標的にならないことだ。
「裏役の兄さんには、今回の仕掛けが上手くいったから補償金の3割を『協力金』として貰ったんだ。
街の有力者は祭りが成功すれば、同じく祭り企画の報酬として金貨30枚。
つまり報酬は全部で金貨60枚。
その内、金貨10枚は今回の仕掛けのために使った」
んで、残ったのがこの金貨50枚ってこった
裏役の兄さんも街の有力者も俺がタダでこんなことをしたとしても信用出来なかっただろう。
ほどほどの金を要求するからこそ、自らの利になることをしてくれるのだと『安心』する。
まあ、それが事実なのだが。
さらに転生男……本当に転生者かどうかなんて心からどうでも良いが、あの男が逃げないように根回し。
そのためにハーレムの女たちの親に働きかけ。
ハーレム女たちのように、あそこまで綺麗どころだと幼い頃より良い物を食べ、美容に気をつけていられる環境になければ美しさは維持出来ない。
以前、ナユタがS級美女になれる素材を持ちながら、貧しい里暮らしの時はB級美女でしかなかったのはそういう理由だ。
栄養と日々の美肌ケアは重要なのだ。
そういう訳でハーレム女たちの親はそれなりの有力者である。
ちなみに冒険者なんてフリーターと同じだ。
転生男が今後ハーレムの女たちを手放さないためには、冒険者以外での立身出世が必要になる。
そこで転生男も今回の演劇勝負に並々ならぬ決意で挑むこととなる。
有力者たちが支援してくれるような有名な役者なら、冒険者よりもずっと地位は高いからなぁ。
そんな有力者の娘たちがいくら最近話題にありつつあるとは言え、地位があるわけでもないフリーター冒険者の女に成り下がっているのは良しとはしていないだろうと考え、今回の祭りでその才能を確かめてはどうかと提案した。
転生男が成功すれば街で話題の劇団のトップとなり、しかも、その劇団は有力者の支援を受けられることが確定している。
支援されるのは祭りが上手くいったらではあるが、卵が先かニワトリが先かの違いである。
俺は転生男に劇団を押し付ける方が金も手に入り、面倒も減るので転生男の勝利(?)は決まっていたりする。
つまり、結果は同じ。
なお、ここで注意すべきは裏役から貰った金は『協力金』である。
保証金を返してもらった訳ではない。
保証金は『劇団』に対して、転生男が預けた金である。
なので勝負の前に転生男が預けた保証金の金貨100枚を返してほしければ、転生男が劇団の『トップ』として裏役から自分で返却を求めるものである。
後は知らん。
転生男が保証金を『金貨100枚』と要求すると確実に揉めるが、それもまた知ったことではない。
今回のことは様々な人の利が絡み合うこととなった。
誰もが自らの利益のために動く。
元劇団創始者の存在など今後、誰も気にしないことであろう。
「ねえ、あんた本当に息を吐くように詐欺って行くわね……」
チンケな詐欺師なんでな、物事の裏でちょこ〜っとだけ儲けられて、本が読めればそれで良いのよ。
「あんたチンケな詐欺師じゃないじゃん」
あー、聞こえない聞こえない!
何処ぞの国の王様とか怖い話は聞こえない!
大体、俺が国に居なくても、問題なく回るんだからそれで良いじゃん!
やっぱり怖いのよ!
何処ぞで詐欺したら世界最強になったり、王様になったりなんてしないんだから!
「今更〜」
だまらっしゃい! エルフ女さん!
こうして奇妙な2人がシュトレーゼンのベルゼンの街から立ち去って暫くのこと。
この時のことがきっかけで劇団と新劇団トップの俳優、さらには天才脚本家バクレースの脚本が一躍脚光を浴び、シュトレーゼンの大衆演劇文化の大きな飛躍に貢献することとなる。
やがて、なにがどうしてそうなったのか、人々は噂することになる。
それを裏で仕掛けた人物がいる、と。
それは……。
曰く、魔王すら指先一つで滅ぼす勇者
曰く、万の敵すらも打ちのめした英雄
曰く、女神に選ばれた聖人
曰く、世界を統べる王の中の王
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
その伝説は数多く、数え上げたらキリがなく、どれほどの偉業があるのか誰も真実を知らない。
世界最強ランクNo.0である、と。
当然、世界の叡智の塔は今もその名を刻むことは、ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます