外伝7:シュトレーゼンの演劇と詐欺師、あとエルフ①

「ダメダメ〜、そんなのでは、舞台にあげられないね!」

「そんな! 月謝も支払ってるのに!」


 頼りなさそうな兄ちゃんが俺に食い下がる。

 だが広めのフロアの端に椅子とテーブルだけを置いた部屋で、俺は偉そうに椅子に座りダメ出しをする。


「うちはシュトレーゼンに限らず、旧エストリア王都でも演劇の舞台に上がれる演劇集団だよ?

 そんなレベルではとてもとても」

 両手を広げ肩を盛大にすくめて首を横に振る。


 それから俺は伊達メガネをかけてそれを意味ありげにキラーンと光らせながら、そのカモ、いやいや生徒にそう指摘した。


「そうよねぇ〜。

 シュトレーゼンはともかく、タチが悪いことに本当にあんたならエストリア王都では演劇の手配ぐらいいくらでも出来るのよねぇ……」


 隣では帽子で耳を隠して、ただ(?)のS級美女に扮したエルフ女が呆れながらそう言う。


 我が劇団の見た目看板女優である!

 見た目だけなので演技なんか出来ねぇだろうけど。


「その通り!!!

 我々は旧エストリア王都に住む10万を前に、大演説をしたこともあるほどなのです!」


「うわぁ、タチ悪すぎる!?

 それも本当よねぇ」

 エルフ女さん、良い合いの手ね!


 うん、俺からすると演技してたようなもんだしね。

 なんでか知らないけど王様として、皆の前で演説させられた。


 俺とエルフ女の絶妙な掛け合いに、夢見る頼りない兄ちゃんは興奮して俺に食い下がってくる。


「お、俺! 頑張ります!

 ですから、どうしたら!?」


 しかし『夢見る頼りない兄ちゃん』って字面からして終わってる臭さが漂うな。

 詐欺には注意しな?


 絶賛、詐欺中だけど。


「宜しい……。

 では選ばれたメンバーだけの特別コース。

『究極最強コース』を申し込みなさい!

 このコースは1人のお間抜けな少女を世界を代表する勇者に仕立て上げた伝説のコース。

 今なら金貨20枚で受けさせましょう」


「え!? ここでそのコースを!?

 いや、確かにそれで一端の勇者にしたけど。

 なんで微妙に事実が入ってるのよ?」


 エルフ女さんだまらっしゃい!

 今、大事なところなんだから。


 そしてキッチリしっかり現在進行形で詐欺の片棒を、お前も担いでるんだってことに気付いてねぇだろ?


 頼りなさそうな兄ちゃんは思わずたじろぐ。

「金貨……、20枚……」


 そこで俺は何度も頷く。

 分かっていますよ、とでも言うように。


 さあ、トドメだ。


「そうです。確かに貴方がたじろぐほどの厳しい修行です。


 しかし!!!!

 貴方には見込みがある。


 今なら破格の金貨5枚で『最強勇者』コースを選ぶ事が出来ます!


 ……人間にはね、2種類の人が居る。

 チャンスに飛び込み成功する人間か、尻込みして敗者となる人間か。

 貴方はどちらを選びますか?」


 良い子の皆。

 こういい言い回しされたときは冷静になるんだよ?

 大体、詐欺だから。


 でも騙されるキミが好き(ハート)

 by詐欺師


「……お、俺は、成功、したい。

 だ、「エクセレント!!」、えっ?」


 恐らくは『だ』の言葉の後に『だけど』と、否定の言葉が続いたはずである。

 だが、その夢見る頼りない兄ちゃんの言葉を遮り、俺は立ち上がり拍手。


 言わせねぇよ!


「そうです。

 迷いながらも正しい道を行く。

 それが貴方の素晴らしいところです!

 今日、貴方は壁を越えました。

 想像してみて下さい。

 シュトレーゼンに鳴り響く貴方への賞賛の声、それはもう、すぐそこへ。

 貴方ならやれる!

 貴方には才能があるんだ!

 さあ、栄光を掴みましょう!」


 俺は金貨を掴むけどね。


 夢見る頼りない兄ちゃんは俺の言葉に目を見開き、自身の両手を見る。

「見えますね?

 貴方の両手が栄光を掴むその姿が。」


 夢に夢見る頼りない兄ちゃんは強く頷く。


 見えてはいけないものが見えるようです。

 そういう時は帰って休みましょう。

 なんてことは当然、言わない!


 夢にハマった頼りない兄ちゃんと俺は強く握手する。

「最強勇者コース、ここから始めましょう」

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