外伝6:シュトレーゼンの見世物小屋と詐欺師③

 ビラを受け取る人はエルフで美女であるエルフ女を、凝視しながら興味深げにビラを受け取り立ち止まる。


 チャンスと見た俺は、立ち止まった人に声を掛け言葉巧みに銅貨30枚を受け取り、中に案内する。


「お客さん。中に入ったら大きく深く深呼吸を3回して下さいね?

 聖獣モヘモへヘモグロビンが降臨してくれますので!」


 そう言って空き家の扉を開け、中に案内して扉を閉める。


 しばらくすると、おお〜という声がするので、扉を開け中の人を外に出す。


「どうでやんしたか?」

「いや〜、凄かったよ。

なにかわからないけれど凄いものを見れた。

 アレが聖獣へもへもヘモグロビンなんですね!」


 そうして、満足そうに帰る人を興味深げに眺める人をまた案内していく。


 満足気に帰って行く人に物珍しさが加わったせいか、はたまたエルフ女の美貌に興味をそそられたせいか。


 どちらにせよ大盛況で、そこから何十組と案内して夕方になったので、そのまま空き家の中の品を片付けてオサラバした。


「何がどうなったの?

聖獣へモヘモヘモグロビンって何?

 あそこって、ただの空き家でしょ?」


 銅貨を袋にジャラジャラさせてホクホクしていた俺に、エルフ女は呆れながら尋ねる。


「え? これだよ」

 テーブルに小瓶を置く。


「え? 何これ」

 エルフ女が聞く。


「吸い込むと幻覚見る薬。

 密室の空き家に充満させておいた。

 薬物を嗅がせたことがバレる前に早朝に街を出るぞ」

 俺が答える。


 エルフ女は何故か天井を見上げ、何かを考える。


 ……。


「詐欺かぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

それも質が悪い方の!!!」


「何を今更、詐欺に決まってる。

それに安全性は確認してある。


依存性もないから麻薬とは全く違う。

きっちり後遺症なく幻覚だけを見せられるんだぞ、すごいだろ?」


「威張るなァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 なんだかいつも通りのエルフ女の反応でホッとしたのは事実だ。

 昨日のエルフ女も可愛かったが、超絶可愛かったが、可愛すぎて落ち着かなくなるのでこの感じが丁度良い。


 ないがしろにされてる感が良いなんて、わたくし、実はマゾだったのかしら?

 いやいやいや。


「あんた、詐欺師辞めたんじゃなかったの!?

なんでまた息を吐くように詐欺してんのよ?しかもそれ、しれっとあたしに手伝わせたわよね!

 あたしの初めての仕事は詐欺だったぁぁあああああ!!!!」


 何を言う、詐欺師を辞めるには罪を償うしかないだろうが。

 俺は罪を償う気はねぇぞ!


「第一あの時、今更過ぎてツッコミ入れられなかったけど、なんであんた路銀稼いでいるのよ!


 あんたお金持ち!


それも世界でトップクラスの超お金持ちよ!?

 それだけでなく、なんで詐欺で稼いでるのよ!

 まともに働けー!

 普通に王様の仕事しろや!?」


 普通に王様の仕事ってなんだ?

 それに国の金って、別に俺の金じゃねぇし。


「はっはっは、相変わらず面白いことを言うエルフ女だなぁ。

 詐欺師は王様にはなれない、これ常識だぞ?」


「いつも通り、現実逃避するなぁぁあああああああああああああああああ!!


 常識外だろうがなんだろうが、あんた美女十数人をハーレムに持ってる世界の覇者だから!」


「はっはっは、今時、詐欺でもそんなとんでも設定しないぞ?

 せいぜい小国の公爵までだ」


 おや?

おかしいな、足がガクガク震えてるぞ?


 まるでなにがなんでも現実を認めたくない人みたいじゃないか、はっはっは。


「あんた、まさか!

 この国の公爵にでもなって内部から国乗っ取ろうとする気じゃないでしょうね!?」


 な、なんてことを言うんだ!


 そんな恐ろしいことが出来る訳がない。

 せいぜいそれを利用して小銭を稼ぐ事しかできない筈だ。


「やめてよね?

 ねえ、ほんとにやめて?

 あんたがその気になれば出来ちゃうんだから。

 それで国をいくつ落としたと思ってんの?」


 な、何を言う、このエルフは。


 せいぜいエルフ女を1人落としただけだぞ?

 S級美女だからそれだけで俺の人生お腹いっぱいだけど。


 それがちょっと十何人と、国が1つ、2つ、3つ……あれ?

エストリアとゲシュタルトって俺が落としたことになるの?

 なりますか、そうですか。


 そこまで考えて、俺はエルフ女さんに思わず尋ねてしまう。


「……どうして、こうなったんですかね?」

「知るかぁぁああああああああああ!!!」





 この日、シュトレーゼンのベルゼンの街の片隅で、奇妙な2人が摩訶不思議な見世物を見せていたという。


 それ見た客の中に、のちにとある王の妃の1人となり、奇跡の演出家と呼ばれたバクレースがいた。


 彼女は小さなその密室の中で、無限の可能性を見たという。


 それまで演劇や絵画などの展覧会といったものは、あくまで大きな劇場でしか行われておらず、それは数々の利権により特権化しており、新たな芸術家の卵が生まれることを阻んでいた。


 だがバクレースはベルゼンの街での経験により、狭くなんでもない空き部屋1つあれば芸術を人々に触れさせることが可能として広めた。


 その芸術演出はやがて、このシュトレーゼンの国から羽ばたき世界に広がり、芸術の世界は一躍庶民文化へと行き渡って行った。


 その影に伝説の人物が居たことを誰よりも当人が知らない。


 やがてバクレースはある雑誌にこう話したという。

 私に芸術を世に広める新たな可能性を見せてくれたお方は、銀の髪をしていてさらに絶世の美女のエルフを連れていた。


 そのようなお方は世界に1人しか居ない。


 そう、その名は世界最強No.0。


 当然、世界の叡智の塔は今もその名を刻むことは、ない。

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