外伝4:シュトレーゼンの見世物小屋と詐欺師①

 世界最強と呼ばれた存在がいる。


 曰く、魔王すら指先一つで滅ぼす勇者

 曰く、万の敵すらも打ちのめした英雄

 曰く、女神に選ばれた聖人

 曰く、世界を統べる王の中の王

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、数え上げたらキリがなく、どれほどの偉業があるのか誰も真実を知らない。

 それが世界最強ランクNo.0




 どうも、アレスです。

 ゴンザレスとも言います。


 しがない詐欺師です。

 え? 皇帝? 王様?

 いえいえ、誰のことですか?


 子供?

 あ、はい。

 まだ若いですが子沢山です。


 子育て?

 いえいえ、立派に育ってますよ?


 親がなくとも子は育つ……いえいえ、分かってますよ?

 親の愛情は大事ですから。


 ただ、ね、やっぱりほら、子供にはお父さん詐欺師なんだよって言えないじゃないですか。


 それは何というか人として恥ずかしいというか……。


 え? じゃあ、詐欺師なんて辞めたら?

 いやいや、実にごもっとも!


 ……でも、それって逮捕されてしまえってことですよね?


 わたくしちょ〜っと森を燃やしたり、お国をね?

 ちょちょいと、その〜……滅ぼしたり?

 簒奪さんだつしたり?


 ちょっと捕まると終身刑で閉じ込められちゃうんですよ。


 何処にって?

 うん、お城。

 玉座ってところに。


「そりゃ、あんたが王様だからでしょ?」

 エルフ女はその細腕の何処からそんな力が出るのやら、俺の首根っこを掴み持ち上げる。


「なぁ、エルフ女〜。

 俺の首根っこ掴んでぶら下げるのやめて?

 俺、首折れて死んじゃうよ?

 危ないよ?」


「あんた死んだら後追ってあげるから安心しなさい」


「嫌だ! 俺だけでも生きる!

 死ぬときは1人で死んで!」


 何がなんでも俺は生きるぞ!


「なんでよ!

 あんたが死なないなら私も死なないから大人しくしなさい」

「へーい」


 大人しくしてるぞ?

 してるというかさせられてるぞ?


 山から逃げた後、いつも通り逃げおおせたと思うだろ?


 エルフ女にあっさり捕まったよ。


 途中までイリスも一緒だったらしいが、手分けした結果、俺はエルフ女の方に確保されたというわけだ。


 探すの上手になったね!


 イリスに見つかっていたら、夜通しお仕置きか……いや、泣かれたかも。


「あんたさぁ……。あたしらの事嫌いなの?」


 なぬ!?


「あり得んぞ?

 お前らS級美女だぞ?

 嫌うなどあり得ん!」


 心の底から断言。


「だったら何で逃げるのよ?」

 エルフ女は憮然ぶぜんとする。

 心のなしか耳が垂れている気がする。


 可愛らしく拗ねてる様子がなんともムズムズする。

 だからこそより一層、俺の現状にクラクラする。


「いやぁ〜、だってさぁ〜。

 こんなS級美女に囲まれて……というかS級美女ばかりを嫁にするなんて。

 有り得なさすぎて怖いじゃん?」


「仕方ないじゃない、あんたそれだけのことして世界の覇者になっちゃったんだから。

 むしろ世界の覇者にしては少ないぐらいじゃない?」


 それに対して、エルフ女はキョトンとして言いのけた。


 いやいや、S級美女1人でも過剰よ?

 それが14人もいるのよ?

 おかしくない?

 どこぞのハーレム物でもそんなのないよ?


 むしろ、そのハーレム物って幻想よ?

 普通は嫁同士血湧き肉躍る権力争いが勃発しているのが普通だ、それが権力というものの魔力だ!


 なんでお前ら嫁同士で仲良いんだよ、ありえねぇよ!!!!


 俺の心はいつでもチンケな詐欺師だよ?

 詐欺師がハーレムを作るのは結婚詐欺しかありえん!


 つまり現状は詐欺である!!!

 俺もお前らも騙されているに違いない!


 何処ぞのS級美女のエルフ女はまた繰り返し言う。

「仕方ないじゃない。

 あんたそれだけのことをしてあたしら全員を堕としちゃったんだから。

 それに仲良くしないとあんた帰って来そうにないもの。

 なによりあんたのやらかしは全員で協力しないと対応できないもの」


 やらかし言うな!


 それで良いのかS級美女よ、大志を抱け!!


「だから、そもそもなんで堕とされてんだよ!

 もっと自分をしっかり持てよー!?


 あれだぞ!

 お前ら言っておくが、クズ男が自分のために、イイ男になるとかないからな?

 クズ男は何処まで行ってもクズだぞ?


 分かってるか!?


 こんな詐欺師に引っ掛かるなんて、頑張ってイイ男になろうとしているまともな男に悪いと思わねぇのか!?


 ダメンズ好きとか寝言言ってんなよ!!


 幸せになりたきゃ、そもそもクズ男なんて選ぶんじゃねぇよ!!!

 世のイイ男に謝れぇぇええええええええええええええええええ!!!!!!」


「それ、もうあんた何に対して怒ってんのよ?

 自分でクズとか言っちゃうし……」

 そりゃあ、お前詐欺師がイイ男の可能性なんてゼロだろ?ゼロ。



「それに言っとくけど、あんた自分で言うほどクズ男じゃないし」


 俺は驚愕に目を見開く。


 ついにエルフ脳が茹で上がって妄想を抱くまでに……。


 それともダメンズや不倫男に引っ掛かってしまう女はこういう幻想に囚われてしまうのか。


 ああ……、実に切ない。


 いいや、俺の類い稀なる詐欺師としての腕がエルフ女を妄想の世界に閉じ込めてしまったのか。


 なんと罪深い……。

 男の娘に刺されてしまいそうだ……。


 元男の娘を1人、嫁にしたからもう大丈夫かな?


「だけど、アレだぞ!?

 繰り返すけど、チンケな詐欺師に惚れるとかおかしくない?」


根本こんぽんのところ、そこを認めないのね?

 チンケな詐欺師が魔王倒したり、世界最強になったり、世界を支配したり出来ないから」


 そうなんだよね〜、不思議〜。

 俺が詐欺にでも引っ掛かったかな?


「あんたが世界を詐欺に引っ掛けただけでしょ?」


 俺は絶対認めねぇぞぉぉおおおお!!!

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