外伝3:シュトレーゼンの盗賊と詐欺師③
この男は一体何者だというのだろう!
敵か味方か?
味方にしては今まで一度も見たことがない……いや、この小国シュトレーゼン王国にまで聞こえてくる『ある噂』があった。
世界最強と呼ばれる存在がいる。
曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。
曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。
曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者
曰く、最強にして無敗、ランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
だが、その正体は一切不明。
男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。
それら全てを合わせて誰もその姿を見たことがないという。
シュミットの妄想から出た直感なのに、それはバッチリと摩訶不思議に真実を捉えていた。
シュミットがおかしな妄想に入った辺りで、ゴンズ一味はアジトに到着し宴が始まった。
シュミットはその銀髪の男を信じて静かにその時を待った。
盗賊の一味であるその男を信じる時点でどうかしているけれど。
何か起こるやもと待ち構えていたのに、それでも起きた状況はシュミットの想像を遥かに超えていた。
酒に酔って上機嫌だった盗賊たちが突然、上機嫌な顔のまま宙を舞ったのである。
その様は、あふ〜んと、どこか恍惚な表情にすら見える。
何が起きたのか分からずシュミットが顔を上げると、そこに先程まではいなかった2人の美女が居た。
「アレス様ー! 何処ですかー!」
亜麻色髪の美女が声を張り上げ誰かを探す。
黒髪のどこか高貴な雰囲気を持つ美女がタハハと笑いながら困り顔で。
「アレスさん、居ないみたいですね〜?」
「テメェらナニモンだ!」
ゴンズが自慢の斧を構えると盗賊たちも一斉に武器を取り構える。
周りから盗賊たちの叫ぶ声が聞こえる。
騎士団が突入して来たのだ。
ゴンズは事態を把握しながら憎々しげに美女2人を睨み、大きくその斧を振りかぶった。
シュミットには何故か動きを止めたゴンズの横を、黒髪の美女が緩やかな歩行ですれ違っただけのように見えた。
実際には刹那の出来事だったのだろう。
それなのにゴンズと斧は静かに上下二つに分かれた。
それと同時に周りに居たゴンズの部下たちが音もなく倒れ、亜麻色の美女がショートソードを鞘に収めているだけ。
圧倒的という言葉すら生温い圧倒的な力量。
そこに緑髪の……またしても美女が慌てたように猛烈な勢いで走って現れる。
耳が長い。
伝説のエルフが、まさかこんなところに?
シュミットにはなにがなんだかわからない。
「イリス!
カレン!
アイツ、逃げやがった!!!!」
美女2人は仕方ない、とでも言うようにため息を吐く。
「アレス様〜……」
「アレスさんらしいねぇー」
そこでエルフの美女がシュミットを見る。
「あんた……」
シュミットは思わず叫ぶ。
「貴女方はあの銀髪のお方のお仲間なのですか!」
それはシュミットの妄想である。
シュミットは騎士団で筋肉どもに囲まれつつも、ちょっと夢見がちな恋に恋する乙女であった。
……なのに、なぜか真実をバッチリ貫いていた。
「あんの、ホイホイやろうがぁぁああああああああ!!!!!!!
またホイホイしやがったぁぁあああああああああ!!!!!!!」
緑髪の美女エルフが怪物のような形相で叫ぶ。
今回ばかりはまごう事なき誤解なのだが、それを誤解と信じる者はこの場に……この場でなくとも本人以外誰一人として居なかった。
きっとあの男の自業自得である。
「追うわよ! イリス!
カレンはシュトレーゼン王国との外交よろしく!」
言うや否や緑髪エルフと亜麻色髪美女は砂煙を上げ走って行く。
「アーレースーーーー!!
覚悟しやがれー!!!」
トドメでも刺しに行くのだろうか?
そんな勢いである。
残された黒髪美女は先程より深くため息を吐く。
「仕方ありませんね……。
貴女はシュトレーゼンの騎士ですね?
さ、お手を」
いつの間にかシュミットを拘束していた縄は切られていた。
手を差し出しながらシュミットは尋ねる。
あのお方は、と。
そうすると黒髪の美女カレンは微笑み告げる。
その名は……。
世界最強と呼ばれた存在がいる。
曰く、魔王すら指先一つで滅ぼす勇者
曰く、万の敵すらも打ちのめした英雄
曰く、女神に選ばれた聖人
曰く、世界を統べる王の中の王
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
その伝説は数多く、数え上げたらキリがい。
どれほどの偉業があるのか誰も真実を知らない。
それが世界最強ランクNo.0。
世界にただ一つ残された世界の叡智の塔。
そこには今も世界最強No.0の名が刻まれることは、ない。
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