外伝2:シュトレーゼンの盗賊と詐欺師②
アジトに帰りついてまだ夕方だが、早速、宴が開かれた。
今回の襲撃はとある貴族ののやんごとないお方からの依頼だそうで。
普段の商人相手とは違い騎士らしき奴ら相手ということで皆緊張していたが、終わってみれば大成果。
各々が自慢の武器で騎士らしき奴らをのした力自慢を誇張200%で酒を飲みながら披露。
ある奴は6人から斬りかかられて叩き伏せたと自慢する。
このくっころ姉ちゃん合わせて騎士は5人だから。
6人目、誰と戦ったんだよ。
ちなみに作戦立案から実行指揮まで何故か俺がやらされた。
盗賊稼業に巻き込まれて死んじまうなんて真っ平ごめんだと思って、騎士の移動速度やら罠の位置やら何もかも予測し尽くして提案したのが良くなかったらしい。
親分は行けー、やれーの掛け声だけ。
なんでだよ!!
親分にしてみれば、掛け声だけあげられるなら誰の指揮だろうとどうでも良かったらしい。
その親分も隣に顔の良い愛人(男)を侍らして上機嫌で酒を飲んでいる。
顔の良い奴は軒並み親分の愛人らしい、怖や怖や。
俺?
常にケツの穴が痒くて病気なんだと伝えて、腕に湿疹ができまくってるのを見せたら難を逃れた。
親分に狙われて気持ち悪く過ぎて、湿疹が出てただけだが。
物は言いようだ。
俺は夜に酒飲んでそのまま寝たいので、先行して見張りをすると告げてその宴から抜け出す。
俺のあまりのイケメンぶりに酔った親分に、病気持ちでもかまわネェ食っちまうぜぇ〜、と言われるのを避けるためだ。
ほら、酒の勢いって怖いから。
やがて、日が暮れて来た……。
しばらく俺は木に寝っ転がり静かにしていると、盗賊たちが宴を催していた辺りで人の叫び声や叫び声。
うん、
よ〜く耳を澄ませてみると。
あら?
シュトレーゼンの騎士団のようね?
盗賊たちのアジトを囲むように松明が見えるわ。
わたくしの居場所はバレていないご様子ね?
親分……さよなら……。
わたくし、生きるわ……。
山を降りたら、これを売って豪遊しよう、うん。
涙を
「アレス様はどこですかー!」
「あら〜、流石、アレスさん。
山を囲んでるのに見つからないんですね」
なんの気配もなく現れた亜麻色髪の女性と黒髪の女性。
それも目を見開くような美女2人の登場に、縛られた状態で転がっていたくっころ騎士ことシュミット・ローレンは、突然、起きたその状況が全く理解出来なかった。
そもそも今回の任務、最初っから全く何が起きたのか理解が出来なかった。
シュトレーゼン王国を悩ます大盗賊。
トラフ山を根城にするゴンズ一味に対して、シュトレーゼン王国車輪の騎士団は大胆な囮作戦を実行することにした。
この作戦が急遽決まった背景には、西の一際大きな大陸からその大陸全てを制した皇帝がやって来ることになったからだ。
シュトレーゼン王国は世界から見れば、領土はともかく立場的には完全な辺境であった。
大陸の者からすれば吹けば飛ぶどころではない小さな存在だった。
その国に何故か、世界の覇者が!?
国の上から下に大騒ぎ。
しかし、シュトレーゼン王国は今も大盗賊に悩まされており。
万が一、億が一、その覇者に何かがあったら大変だと、騎士団総出で盗賊退治を行おうしたというのが今回の経緯だ。
ゴンズ一味の厄介なところは、広大なトラフ山の何処に潜んで居るかも分からなければ、その数も強さも尋常ではない。
女ながら騎士団副長として、車輪の騎士団でも1、2を争う剣の腕を持つシュミットは、信頼する一騎当千の精鋭4名と共に大胆な作戦に打って出た。
ゴンズ一味と内通していた貴族を騎士団で徹底的に脅し、ゴンズ一味を偽の依頼にて誘い出すことにしたのだ。
最初、囮であるシュミットたちの前に姿を見せたのはゴンズ一味20名ほど、これなら5人だけでも十分制圧出来る。
それだけの腕も自信もあった。
見事、制圧して捕虜を取り、ゴンズ一味のアジトを突き止めようという作戦だ。
5人一丸となって突撃をしたところまでは覚えている。
……気付くとシュミットは倒れて縛られていた。
直前の出来事をなんとか思い出そうとする。
膝の高さまである草むらだった。
ある者は穴に落ち、ある者は足を張ってあったロープに引っ掛けられ。
シュミットは……後頭部に何かが当たった感覚がしたら縛られていた。
石か何かを当てられ脳震盪を起こしてしまったようだ。
名うての騎士団5名全員が罠に引っ掛かり、冗談のようになす術もなくあっさり捕まってしまったのだ。
なんとか隙を見て抜け出して騎士団に応援を頼まねば、そう思いもがくが見事な手際で捕縛されてしまう。
抵抗してたよね……?
そう自分でも思いながら、銀髪の男にいつのまにか縛られていた。
途中、シュミットは危うく慰みものにされかけた。
だが、チンケな詐欺師のような雰囲気を持った銀髪の男が、貴重なくっころだとかなんとか言って事なきを得た。
くっころってなんだろう?
シュミットは疑問に思ったが、そんなことよりも、そこで信じられないことが起こった。
なんとあれほどトラフ山で居所を隠していたゴンズ一味が、その銀髪の男が歌い出すと共にノリノリで一緒に歌い出したのだ。
な、何が起こっているというのだ!?
シュミットは戦慄した。
確かに山の奥地、常ならば少しぐらい歌いだしたからといって、そう簡単には見つかるまい。
だが今、この山は盗賊を討ち取らんと騎士団がそのプライドを賭けて、山を囲んで行っている最中である。
そうでなくても、あの慎重で用心深かったゴンズ一味と同じとは思えなかった。
シュミットはハッと気付く。
この男だ。
この銀髪の男が盗賊たち1人1人に陽気に話しかけ、楽観的な空気を演出している。
一際偉そうで筋骨隆々の親分と呼ばれる男……おそらくこれが大盗賊ゴンズ。
そのゴンズにも馬鹿にされながらも気に入られている様子。
そう、この男はとんでもなく人の懐に入るのが上手いのだ。
それに気付き驚愕の表情をするシュミットに、その男は合図を送るようにウィンクして見せた。
その視線はずきゅーんとシュミットの胸を貫く。
まるで気に入った女にアプローチするような感じでウィンクしてきたが、ベテランの騎士であるシュミットには分かった。
全てはこの男の手のひらの上であったのだ、と。
そう気付いてしまえば、シュミットは我知らず震えた。
シュミットは3歳の頃、叔父に優しく頭を撫でられて惚れてから以来、とにかくシュミットは惚れっぽかった。
例にも漏れず今回もそのウィンクと妄想で、盗賊のチンケな詐欺師っぽい男がとんでもなく凄い男と妄想して惚れてしまったのだ!
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