外伝1:シュトレーゼンの盗賊と詐欺師①

 あ、ども、アレスです。

 どうもお久しぶりな気がします。

 気のせいですね!


 またの名をゴンザレス……いえいえ、そんな格好悪い名前ではありませんよ?


 しがない詐欺師をやっております。

 そんな俺が現在、何をしているかといえば……。


「おい! ジャック!

 アレどうした! 早く持ってこい!」

「へい! おやびん!」


「おやびんじゃねぇ! 親分だ!

 テメェ何回言ったらわかんだよ、ったく、しょうがねぇなぁ!

 早くアレ持って来い!」


 シュトレーゼン王国の端っこ辺りで盗賊なんかしております。


 なんでこうなった?


 ちょっと色々あって逃げた山で盗賊集団に遭遇して、生き延びるために媚びてゴマスリしてたらいつのまにか仲間にされてた。


 アレとか言われてもわかんねぇよ、物の名前言え名前を。

 まぁ、多分、ロープなんだろうけどよ。


 冗談だと思う人も多いかもしれないが、こういう粗野溢れる現場では冗談抜きでこういう言い方しかできない上役は多い。


 びっくりだが真実はときに物語も上回る!

 ……下回る?

 それはまあ、いいや。


 俺がこの親分をおやびんと言い換えているのも当然、ワザとだ。


 こういう偉そうにする奴らは自分より愚図そうな奴を見ると、どうも嬉しくなるらしい。

 しっかりした奴よりこういう言い間違いをする奴の方が好かれるってカラクリだ。


「へい、おやびん!

 カンチョウ持って来やした!」


「ばっかやろう!

 なんでカンチョウなんて持って来るんだ!

 しかもこれオレ用じゃねぇか!

 なんで持って来てんだ!?」


「へい、おやびんが移動中に必要になるかと思いやして!!」


 前に獲物探してる移動中に、なんでカンチョウ持って来てねぇんだと怒鳴り散らしたじゃねぇか。


「馬鹿野郎!

 どう考えても今じゃねぇだろ!

 ロープだロープ!

 ロープ持ってくんだよ!」


「へ〜い」


 こういう奴は好きなように怒鳴り散らしたいだけなので、適度にガス抜きが必要なのである。


 今回、襲撃が上手く行き過ぎて、盗賊団の中に怪我人は居るが死んだ奴は居ない。

 見なりの良い騎士っぽい奴らをロープでふん縛っていく。


「くっ! 殺せ!」

 お! 可愛い騎士の姉ちゃん!


 うんうん、プライド高いんだか低いんだか分かんない騎士だよねぇ〜。

 盗賊ごときに負けて縛られてるんだから。


 この姉ちゃんは念入りに交差するような形で全身縛っておこう。

 どんなって?

 カメの形の結び方である。


 しっかり結んでおかないと逃げられちゃうからね!

 魔力の高い人は強さイコール美しさだからね!


 まあ……どこぞの世界ランクナンバーズとかなら人外過ぎて、全身グルグル巻きにしても気合いだけで抜け出してしまうわけだが。


 この姉ちゃんが抜け出さないところを見ると、素材の良さだけで強くはないらしい。

 騎士なのに。


「おやび〜ん、こっちは終わりやしたぜ〜?」

「おお! お前、こういう時は仕事早いなぁ〜、ジャック。

 お! こりゃぁ、べっぴんじゃねぇか!

 高く売れるぞ!」


「くっ! 殺せ!」


 ねえ? キミ、実はそれ以外言えないの?


「こ、こんな辱めを与えて……。

 私をローレン伯爵家の者と知っての狼藉ろうぜきか!」


 いやいや、盗賊がそんなこと知る訳ないし。


 お貴族様の騎士様がなんでこんな弱いのよ?

 まあ、数の差はあるわけだが。


 盗賊は50人ほどで姉ちゃん含め騎士は5人程度。


 とある人外どもは1人で余裕で討伐するが、普通は数の差はどうにもならんかな?

 人外どもはこの100倍居ても突破するぞ?


「お貴族様か!

 こりゃあいい!

 さらに高く売れるぞ!

 野郎ども! 今日は宴だ!」


 おお〜と俺含め野太い声の盗賊集団が拳を上げ、大喜び。


 残念ながら女は1人も居ない。

 盗賊だしね。


 馬車は打ち捨てられ馬と装飾品を盗賊どもがそれぞれ手で持ち、騎士どもを担ぎながら全員で凱旋。


 俺は率先して盗賊の1人と一緒んkくっころ姉ちゃんを運ぶ。


 思わず適当な歌なんて歌っちゃうぞ?


 いっつも俺が歌うもんだから、ご機嫌な周りの盗賊たちも一緒に歌い出す。


「俺たちゃ盗賊〜、イカしてる〜、泣く子も黙るゴンズ一味〜♫


 仲間は200人以上〜、トラフ山を牛耳る泣く子も黙る大盗賊〜!


 (親分のセリフ)おっと山賊と一緒にすんなよ〜?

 俺たちゃ山だけじゃないぞ、街も襲うぜ?


 トラフ山とふもとのマダガスの街は俺らの領土〜、親分クロッチの魔斧は天下無双!

 前に立つんじゃねぇぞ〜ひとなぎだ〜♫」


 全員で大合唱しながら、アジトまで到着。


 途中、この可愛いくっころ姉ちゃんを部下になぐさみに与えるのはどうかと親分に提案された。


 だから俺が言ってやった。


 明らかウブで世間知らずで中途半端に気が強そうな初物っぽい姉ちゃんは、そのまま売ればかなりの高値が付く。


 ましてや伝説の『くっころ騎士』だ。

 好色な金持ちなら誰もが手に入れたいと思う憧れの存在。


 盗賊に汚されて貴重なく『っころ』騎士がへこたれて、『くっころ』言わなくなってしまえばその価値は一気に急低下してしまう。


 売った金で商売している姐さんのところに遊びに行った方が良いと、そう提案したのだ。


 騎士っぽい奴らの襲撃だったので、多少の装飾品はあれど財宝ザクザク売り上げたっぷりとはいかなかった。


 なので、ここで稼ぎを得たい親分は、それもさもありなんと俺の提案を受け入れた。


 俺が盗賊アジトで転がってた品を高値で売って、目利きとしての信用を得た成果だな!


 もちろん!

 ただのゴミを詐欺で高値で売っただけで、俺に目利きなんて出来ねぇけどな!!

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