最終話 世界最強、その名はランクNo.0彡☆

 世界最強と呼ばれた存在がいる。


 曰く、魔王すら指先一つで滅ぼす勇者

 曰く、万の敵すらも打ちのめした英雄

 曰く、女神に選ばれた聖人

 曰く、世界を統べる王の中の王

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、数え上げたらキリがなく、どれほどの偉業があるのか誰も真実を知らない。

 それが世界最強ランクNo.0彡☆





 最初は本当にくだらない理由だった。

 世界がどうの、ではない。


 停滞した世界はスラムの人間に一切の希望は与えない。

 社会システムが固定され、概念が固定化され閉じた世界であること。


 もしも、無事に歴史が進むことになれば、きっと俺なら暗黒時代と名付けるこの1000年。


 スラム上がりのなんでもない存在の俺が、ちょっとそんな世界に。

 元凶の『女神』に嫌がらせをしたい、そう思った。


 それだけのこと。


 No.0は世界の破壊者だった。

 最強であり勇者。

 そして世界を滅ぼしかけた邪神、それが世界最強ランクNo.0。

 それはその時代を駆け抜け魔王を倒した希望の星であり、伝説上の隕石落としのように絶望の星でもある。


 だから皮肉を込めて、チンケな詐欺師の俺がその名をかたった。


 ただ……それだけのことだ。




 ども、統一皇アレスです。

 俺がこの名に慣れることはないだろうな。


 女神であるメリッサに身体で分からされて、嫁全員が本気で分からせに来た。

 ナユタも無事、出産を終えたので柔らかく微笑みながら分からせに来ていた。

 なお、子供はナデシコと名付けた。

 母親のようにナデシコな娘に育ってくれ。


 何度でも言うが、なぁんでS級美女どもが俺にご執心なのか結局のところさっぱり分からないが、彼女らが本気なことだけは分からされた。


 出産を終え体調も戻って来たエルフィーナに、ソファーで並んで座りそのことを愚痴る。


「あんた、クズなのは確かだけどねぇ〜?

 ま、良かったんじゃない?」


 良かったか良くないかと言えば……良かったに決まってるよ!!!

 だってS級美女よ!

 S級美女の嫁たちよ!?


 ゴンザレス、幸せが怖い……。


 だって、理解出来ないもの。

 常識は死んでるから今更だけど。


 エルフィーナとの子の名前はキョウと名付けた。

 それを聞いて、エルフィーナは目を細め柔らかく微笑み、良い名前ね、と。


 きっと元気で可愛くて明るい娘に育ち、良い男と縁があるに違いない。

 ……俺みたいな詐欺師なんかではなく。


 エルフィーナは俺が肩に回した腕に、もたれるようにしながらふと呟く。

「ねえ、アレス」

「ん?」


「あんた、世界最強よね?」

「違うよ」


 何度でも言うが、断固として違う。

 世界最強?

 はん! 人はそんな幻想に踊らされて、まあ、騙しやすいこと。


「……そうね。

 でも」


 いつも通りそう答える俺に、エルフィーナはふふっと笑いながら言葉を続ける。

 やっぱコイツもS級美女だよなぁ。


「でも?」

「いつでも世界最強になれるわよね?」


 はっはっは、面白いことを言うなぁ。


 小賢しい知恵を使いどうにかこうにかしただけで、ただの一度も世界最強だったことなんかないぞ?









 ……その言葉に俺は。









「なななな、なんばいいよっとね!?

 エルフ女しゃん!?」


「まさに詐欺よねぇ……。

 口で説明も受けていて、私なんてあんたが世界の叡智の塔を操作するところを見ているのに。


 世界の叡智の塔を理解し切っている訳でもないグローリー宰相が私たちよりも強くなれるのに。

 その設定自体を弄れるあんたが出来ないわけ無いものね。


 何よ、あんたその気になれば『1人で』魔王さえ止めることが可能だったんじゃないの。


 しかも!!!


 タチが悪いことに世界全てを騙しながら、あんた『一つも嘘をついてない』ってことよ!


 そうね! 確かに世界最強No.0は居ないわ!

 一度もあんたは世界最強No.0だったりはしてないわね!


 あんたがわざと『なってない』だけで!

 いつでも世界最強No.0になれるだけで!!

 何でよ!」


 ……おおよそ詐欺というものは。


 冷静になって考えてみれば詐欺だと気付けるのに、何故か人は自らの幻想を求めるものである。


 この場合、世界最強の幻想を見ながらそれを『幻想』だと思い込んでいたことだ。


 俺が世界の叡智の塔を完璧に操作出来ることを気付いた人もいるかも知れない。


 なのに俺が世界最強に『いつでもなれる』と気づいた人はどれだけいるだろう?


 そんなものさ!!!


 だって、世界の叡智の塔を操作出来るんだからな!

 邪神騒動の時のグローリーよりもリスクなしで強くなれるよ!


 しないけどな!!


「だだだ、誰がそんな危ないことをするか!!

 大体、世界最強とかダサいし、色々利用されるし面倒そうじゃん?

 人を騙して楽してた方が性に合ってるし」


「このクズがぁぁああああああああ!!!

 謝れー!!

 世界最強を求める全ての人に今すぐ謝れぇぇええええええええ!!!!」


「冗談じゃない!

 誰が謝るか!!

 詐欺師が謝るのは、逮捕されてお情けで刑期を減らしてもらう時だけだ!!

 だから詐欺に引っ掛かる方が悪いんだ!」


「詐欺するヤツが1番悪いに決まってるわよ!!

 この、詐欺師ぃぃいいいいい!!!!」



 エルフィーナの絶叫で何だ何だと皆が集まってくる。


 イリス、ツバメちゃん、チェイミー、ミランダ、シュナ、セレン、ナユタ、ナリアちゃん、ルカちゃん、ソーニャちゃん、カレン、密偵ちゃんことミレーヌ、ローラも、最後にメリッサと小僧もひょこっと顔を出す。


 俺の嫁総勢16名。

 揃いも揃って、美女揃い。


 皇女も居れば亡国の姫に部族の姫に村娘も、多種多様。


 男の夢のハーレムだが、あり得なさ過ぎて集まられるとゴンザレス怖くて震えちゃう!


「エルフィーナ、ご主人様が『また』何かしました?」


 またって何、またって。


「こいつが世界最強って話」

 エルフィーナの話を全員が聞くと……。

 全員して、あー、と納得したように唱和する。


「そういえば、そうですね。

 ご主人様があまりに無茶苦茶なので、失念してました。

 ほんとのほんとに世界最強No.0なんですねぇ……」

 ご主人様と俺を呼ぶのは元レイド皇国皇女のメリッサ。


「アレス様はやはり偉大です」

 アレス様と呼ぶのはウラハラ国元王女イリス。


「アレスさんやっぱ凄い人だよね」

「ははは、良いのかなぁ?

 ただの村娘の私まで嫁で」

「ゴンちゃんはそういうの気にしないよ?

 自分をチンケな詐欺師とか名乗るぐらいだし」


 気さくな感じに話すツバメちゃん、チェイミー、ミランダ。


「アレス様……素敵」

「ほんとです……」

「ゴンザレス様、お慕い申し上げます」


 ゲシュタルト元第3王女シュナ、エストリア王国元王女セレン、ナデシコ娘ナユタは俺を慕いすぎじゃね?


「お兄様は凄いですね」

「まあ、アレス様ですから」

「やっぱり、貴方世界最強No.0なんじゃない!」


 ナリアちゃん、ルカちゃん、ソーニャちゃん。

 ソーニャちゃんは今更ながら……イヤ、チガウヨ?

 世界最強No.0ナンテイナイヨ?


「ははは、アレスさんらし〜、それを隠したまま全員ホイホイしちゃったしねぇ〜」

「お館様……嫁の1人としても変わらぬ忠誠を誓います」

「迎えに来たのが王どころか世界の覇者で伝説の世界最強だなんて……詐欺よ」


 帝国元皇女カレン、密偵ちゃんことミレーヌ、ローラ。

 ローラもどこぞの元王族だって?


「兄ちゃん、詐欺師なの?」


 小僧……じゃない、レナよ。

 詐欺師だよ?

 ゴンザレス、ついに色々バレました。


「ほんと、何でこうなったんだろ……」

「詐欺なんてするもんじゃないわよ、自分に返ってくるから」

 エルフィーナは相変わらずのジト目で。


 S級美女のジト目だからゴンザレス、ちょっとゾクゾクしちゃう。

「うう……」





 統一皇国が誕生し、世界の歩みは一気に加速した。

 世界にかの皇王が求めた本が溢れ人々の文化は一気に花開いた。


 各地でアレス統一皇王の名の下に本が推奨されて、人々は本を求め、そして作られた。


 特に伝説の世界最強No.0の話は、そこだけで本屋にコーナーが出来るほどになり、人々はこぞって世界最強No.0の物語を求めた。


 その中でカなんとかというグループの投稿雑誌に、とある世界最強No.0の物語が届けられた。


 それは当時の事情や出来事、さらにはまるで世界最強No.0当人しか知り得ないようなことまで……実に克明に描かれていた。


 ただ一つ、問題だったのは世界最強No.0の正体がただのチンケな詐欺師であるというのだ。


 それに怒った世界の人々は神をも騙る不届な詐欺として、作者は全国で指名手配されることになったが……。


 読者を騙した不届きなその作者が見つかることはなかった。















 なお、指名手配ポスターには最後に一文、注意書きがつけられていた。


 詐欺には十分注意しましょう( ゚д゚)


 世界最強、その名はランクNo.0彡☆ 完

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