第49話女神陥落③

「まあ、なんだ。

 結局のところ目立って良いことはないからな」


 世界最強などと呼ばれるようになった時点で人の思惑に巻き込まれる。

 そうなったらもう自由ではいられない。


 どれほど個人として強かろうと俺が最も恐れたように、暗殺でも行おうと思えば行える。


 人である限り1人では生きられない。


 しがらみから逃れたければ、1人で密林で生きれば良いのだ。


「ご主人様は世界最強がお嫌いなんですか?」


「嫌いだね。

 そんな力がある存在がいるなら、スラムに居た頃なんか数秒ごとに救ってもらいたいと思ったもんだ。


 世界最強を求めるなんて神に祈るのと変わらんな。

 同じ理由で神も嫌いだ。


 ……もっとも世界最強は神とは違い、所詮はただの人に過ぎないというのは、女神と世界最強No.0の話からも歴史が証明してる訳だが」


「やはりお認めにはなりませんか?

 私にとってはずっとご主人様は世界最強ですが」


 冗談じゃないね!


 俺に腕っ節の強さなんてない。

 今でも拘束を解いたら、その気ならメリッサは俺を一瞬で殺せるわけだからな。


「天地がひっくり返ってもそんなマネしませんが……。

 でしたら、私を拘束してどうされたかったのですか?


 本気でお望みなら如何様にでも。

 私の死を望むというなら、そうおっしゃって頂ければ……」


 いや、無いから。


 なんで俺の言うことにそんなに全幅の信頼置いてるの?

 騙されるよ?

 ……まあ、なんだな。


「『女神』が変な考えを起こさないように、身体でしつけようかと……」


 俺の言葉にメリッサはキョトンとした顔で目をぱちぱちとする。


 あら? 可愛い。

 そういう表情も珍しいわね?


「女神を身体で堕とそうとするあたり、ご主人様らしいのですけど……。


 私、ホイホイ済みですよ?

 恐らく、全員の中で最初に」


 ホイホイって最初に言い出したのメリッサだったわね……。


 いやまあ、そのつもりだったけど……ホイホイされてんの?


「え!? 今更!?

 酷くないですか!?

 堕ちてなければご主人様呼びなんてしませんよ!?

 私をなんだと思ってたのですか!」


 え?

 ……男を手玉に取れるS級美女。


「処女で男を手玉に取れる女なんているもんですか!


 酷い!!!!


 最初から私を騙す気だったんだ!!

 本気にさせといて、自分は男を手玉に取る女神だとか思ってポイ捨てする気だったんだ!!

 うわ〜ん!!! この詐欺師!!」


 ここまで感情的になるメリッサもまた珍しい。

 いつも出来る女オーラを出してるのに。


「な!? 人聞きの悪い!

 だいたいS級美女で突然、自分だけに惚れて尽くしてくれなんてことがこの世にある訳ないだろ!?

 超イケメンのハムウェイとかならともかく!」


「ありますぅ〜。

 むしろ、ご主人様の嫁全員、そんなのばかりですよ〜だ!


 ツッコミ役のエルフィーナでさえ、ご主人様のためなら聖剣の自爆攻撃しようとしたぐらい、そんな女ばっかりですぅ〜」


「う、嘘だ……」

「嘘じゃないです!

 大体、散々、私たちが絶望していた時に、誰も出来ないようなマネして救っておいて!惚れない訳ないじゃないですか!


 それでしっかりあんな優しい目で口説いて惚れさせておいて!!

 どこに惚れられていることを疑う要素があるんですか!」


「え……? S級美女なところ」


「S級美女に偏見抱き過ぎです!!

 今すぐこの拘束外して下さい!

 罰として、2人目の子供を要求します!!」


「え!? それ罰なの?

 ご褒美だけど!?」


「分かってるなら、大人しく身体で払えぇぇぇええええええ!!!!!!!!」


 メリッサの身体から魔力という名の闘気が溢れ出す。

 俺に身体で払わせようと!


 お、おかしい!?

 メリッサが何故、それを言う!

 俺が言うセリフだぞ!?


 その時、メリッサからほとばしる魔力の本流が杖に逆流するように流れ、ピキピキとあり得ない音が杖から響き……杖が砕けた!


「ば、ばかな!?

 世界ランクナンバーズを拘束し切る杖が砕けただと!?」


 拘束を抜け出したメリッサが俺をソファーに両腕の間で挟むように追い込む。


 こ、これはソファードン!?


「ふっふっふ、ご主人様お覚悟を。

 徹底的に私の愛が伝わるように身体で分かってもらいますから……」


 言い方はどうあれ、垂らされた茶色のサラサラの髪に全体的に小柄で可愛らしく。

 クリっとした黒い目が宝石のような目が愛おしそうに見つめて来て、メリッサは実に妖艶なのに可愛くそれでいて美しい。


「や、優しくして?」


 俺が怯えながらそう呟くと、メリッサは俺の耳元に口を寄せる。


「残念ですが私はご主人様のものです。

 以後、その事実を今後一切、勘違いなさらないように身体で分かって貰いますね?

 ご・主・人・様?」


 あぁぁぁあああああああああああああああああーーーーーーーー!!!!!!!!


 こうして、メリッサの2人目の妊娠が確定した。

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