第48話女神陥落②

「初代の『女神』がこの停滞した世界を作り、女神教によりそれが崩れぬ様に監視させた。

 気付いてることにバレたら殺されると思ってなぁ……」


 逃げ回る日々は大変だった。

 バレてるのかバレてないのか、そもそも追われているのか、いないのか。


 わかることは迂闊に目立てば叩かれるということ。

 カストロ公爵なんて、きっと山のように暗殺者送られてたんじゃないかなぁ〜。


 1度、暗殺者の姉ちゃんと一緒にカストロ公爵の部屋を大捜索したことがあるけど、見つからなかったんだよなぁ〜。


 暗殺者の姉ちゃんは最後は泣いてた。

 腕に自信があったのに姿形もないとは思わなかったらしいし。

 ほら、ああいう仕事って任務に失敗するとそこで終わりだから。


 可哀想だったし可愛かったから、カストロ公爵家の仕事紹介しておいた。

 俺がカストロ公爵だと聞いて、もっと泣き崩れてた。


 チンケな詐欺師風の男がカストロ公爵だなんて思うわけないって。

 そりゃそうだ。


 今?

 何故か知らないけれど、俺に絶対に忠誠を誓ってるよ。


 そんなのばっか……。


「警戒されているというわりに、よく夜伽よとぎに呼ばれましたが?


 ご主人様の子供も出来ましたが?

 え? 最初から私がご主人様を害すると思ってたんですか!?


 ですから、事あるごとに私からお逃げになっていたのですか!!


 酷くないですか!?

 嫌われているのかと思って、寂しかったですよ!!」


 まさか!? S級美女を嫌うわけがない!!


「だってメリッサ可愛いし。

 流石に子供が出来たと聞いた時は、あれ?これ殺されないんじゃねと思えたけどな」


 メリッサは呆れた様に、はぁ〜、と大きくため息を吐く。


「そこまで信じてなかったんですか……。

 今もまだ完全には信じてくれてないみたいですし


 子供まで作らせておいて、それはないんじゃないですかぁ〜?」


 そう言って拘束され動かない身体のまま、メリッサはジト目で俺に訴えかける。


 昔からの性分なのよ。

 それになにより……。

「初代女神は世界最強No.0の愛人だったんだよ。

 少なくともNo.0が女神を夜伽に呼んで、油断して殺される程度にはな」


 愛人になってでも殺そうとするんだから、憎悪が深かったのか、2人にしか分からない何かがあったのか、それともお互いに壊れ切っていたのか。


 そのいずれであっても、皮肉なのはその結果、世界が救われたことだ。

 力ある者の暴走は本当にロクでもないということだ。


 だから俺はチンケな詐欺師で十分なんだがな。


「『女神』といっても、記憶を引き継いでいる訳でもないですし、1000年の間で今では血も薄くなり、人よりも勘が鋭いぐらいですよ?


 神託と言ってもそこまで精度が高い訳でもなく、祖国すら失った皇女ですよ?

 最初から正直に言ってくれれば、良かったのに……」


 メリッサにしては珍しく不貞腐れた様な口調。

 それならそれで、ぶっちゃけされ過ぎて怖くて逃げたと思う。


「ところでご主人様。どうして私は未だに拘束までされてるのでしょう?

 女神の何を警戒されてらしたんですか?」


「メリッサは心当たりはないと?」


「ご主人様とお呼びするようになって、隠し事をした覚えはございませんが?」


 ……そういえばそうだね。


 レイド皇国皇女であることも第3諜報部隊のことも隠さずに話していた。


 あれ? その時から本気で俺の物になる気だったの!?


「ですから、カレン姫様と帝国を救って頂いたときからお慕いしておりますと……。

 いえ、まあ、ご主人様らしいですが。」


 とにかく、女神教はさまざまな技術革新を起こそうとした国を潰していただろ?


 レイド皇国も、イリスのウラハラ国も、スラハリたちのシースルー国も、ルカちゃんのユーロ王国も、国を変えようと足掻いて、その動きを良しとしなかった女神教にあらゆる手を使い滅ぼされた。


 世界を『管理』しているつもりだったのだ。

 堕ちた人々に、一切の希望を生ませない様に、そうして不和の目を生ませないように管理していたつもりだったのだ。


 スラムで生まれた俺はその世界の有り様が何よりも許せなかった。


 当然だ。


 お前は生まれながらにして、我々、管理側の奴隷であると言われているのだから。


 ふざけんなよ、と。


 だから世界の破壊者である世界最強No.0の名をかたった。


「それを主導していたのが『女神』だとご主人様は思っていたのですね?


 ですから、エール共和国の時も魔王討伐後のときも。

 果てはエストリア国内乱時にカストロ公爵領から逃げたのも……。

 私が『今代』の女神だから?」


 まあな。

 メリッサにそういう裏はなかったわけだがな。


 レイド皇国が健在な間は女神自身が積極的に管理側に回ったこともあったようだ。


 権力と宗教が混ざると何処がで歪んでしまう。


 女神教の暴走は表に出ることはなく、深く静かにあちこちでテロを引き起こそうとしたから、出来る限りは潰したけどな。


「以前、帝国で反乱を企てた女神教のマルーオ伯爵を潰したのも、やはり偶然では無かったのですね。


 コルラン元王も女神教の幹部でしたね。


 もしや第3諜報部に捕らえられ、邪神認定された旧ブックマークをソーニャと壊滅させた時も?」


 あれはソーニャちゃんの美しさに捕まっただけだ。

 内部で適当なこと言ってたら幹部候補になったのも偶然だ。

 狙ってではない!


「そうやってコルランも含む旧来の女神教を『偶然を装い』破壊して……。

 最後は教祖の座もあっさりお譲りになられた、と。

 ご主人様、他にも色々と同じようなマネしてそうですね?」


 今更だと思うが?


 それと勘違いするなよ?

 エストリア王とゲシュタルトの王も俺が排除したわけではないし、何かを仕掛けた訳ではない。


 帝国の皇帝陛下が俺に帝位を譲ったのも……まあ、俺がやらかしたからかもしれないが。


 どっちにしても既に世界は女神教の支配は限界だったってだけだ。


 それと教祖を譲ったのは、元詐欺師が教祖なんざ皮肉が効き過ぎだと思ったからだ。

 そもそも、人の心の安寧という宗教の本来の願いが俺とソリが合わなさ過ぎる。


「そうでしょうか?

 まず宗教の本来の願いに想いをせる時点で、これ以上無いほどの適任と思えますが」


 人は権力で歪む。

 俺は所詮チンケな存在だよ。


 宗教家や王様なんざ罰ゲームにしか感じねぇ。

 お前らが居るから王だけは引き受けるけどよ。


 は!? これはもしやS級美女に壺の代わりに、国を売りつけられたのでは!?


 どうしよう!!!

 ケツ毛代では、絶対足りない!!


 いやいや、メリッサ、無言でジト目しないで?

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