第47話女神陥落①

「なぁ〜んで、こんなことになったんだろぅ〜♪」


 俺は悲しみの歌を口ずさみながら、帝国でカレンとその子供であるレイナとツバメちゃんを拾い、帝国皇帝陛下からも帝位を引き継いだ。


 皇帝陛下は悔しげでもなくスッキリした顔。


 カレン曰く、「ここまで完璧に血を見ることなく、世界制覇されたちゃったからね、流石に諦めたみたい」と苦笑い。


 女神教正統派の幹部のコルラン王が消えたことで、事実上、俺が女神教の頂点になってしまった。


 だから速攻でノート男爵に教祖を押し付けておいた。


 するとノート男爵は男泣きしながら、女神の教えを世に広めるお手伝いをしていきますと言ってた。


 何気にコイツって超良い奴よね?

 隣では奥さんのライラが笑顔でそっと寄り添っている。


 聖書という名の本を頑張って広めるのよ?


 ブックマーク派の文字聖歌を書いたもので要するに文字教本なんだけどね。


 統一皇国は正式にエストリア元王都を首都として、何年か後に帝都とダレム大森林跡地をくっ付けて皇都を作る予定。


 一大プロジェクトである。


 あ、申し遅れました。

 わたくし初代カストロ統一皇国皇王、アレス一世と申します。


 世界統一皇国ですってぇ、おーほほほ!!


 ずっと言ってるけど、ほんと、なんでこんなことになったんだろ……。


 6人が余裕で乗れる豪華な馬車でエストリアへ揺られ揺られて。

 カレンが俺の隣でニコニコしながら言う。


「なるようになったという気がするよ?

 アレスさん。

 ソーニャは正しく『帝国の秘宝』なのよ。


 より市井に近い位置にいたことも理由でしょうけど、ファンクラブ(もはや公認)を持ち、国民の絶大なる信頼を持ち、大貴族である公爵の娘。


 帝国内の人気は悔しいことながら、皇女の私よりも上だったし。


 また、世界ランクナンバーズで帝国への忠誠心や貢献は随一でしたし」


 俺がどうかは別にして、元皇太子殿下の最大の失敗は、ソーニャちゃんの価値が自分の存在よりもずっと上であることから目を逸らしていたことか。


 プライドの塊っぽかったもんな。


 お腹がすっかりへっこんで母になり、子のレイナを抱いて慈愛の笑みを浮かべるカレン。


 それはそれで魅力的なのでゴンザレス、ウズウズしちゃう。


「イリスさん大丈夫ですか〜?」

 対面でツバメちゃんがその隣に座るイリスを気遣う。


「ええ、まだつわりとかは来てませんので。

 それにもうじき皇都なので、もう大丈夫と思います」


 イリスはニコニコとしながらそう返事をする。


 はい、イリスも懐妊しました。

 衝撃的なことが起きた後、子供が出来る風潮にあるのです。


「ただ単にアレス様が見境が無くなるせいだと思いますよ?」

 イリスがそんなことを言う。

 前にエルフ女にも同じこと言われたなぁ〜。


「ついこの間まで王様の嫁になったと思って慌ててたら、ちょっとの間で世界を支配する統一皇国の嫁の1人かぁ……。

 私の常識死んだわ」


「ローラさん。

 アレス様に付き合うと常識なんて考えたらダメですよ?

 私の常識はとっくに死んでます」


 ローラ、ルカちゃん、酷いわ。


 やがてエストリア元王都、現皇都が見えてくる。


「さ、アレスさん。

 今度はもう逃げないで下さいね?」


 カレンがにっこりと笑うのに合わせて、我が子レイナが俺の手をポンとそのちっさな手でニコニコしながら触って来た。


 ……ゴンザレス捕まっちゃった。






「お帰りなさいませ。ご主人様」

「ただいま、メリッサ」


 皇都に戻った時にはメリッサのお腹はへっこみ、無事に男の子が産まれていた。

 俺はその子に『アレス』の名を渡す。

 よって、その子はアレス2世となる。


 それを部屋で2人になりメリッサに告げる。

 それは即ち王位継承はメリッサの子になるということ。

 予定だけどね。


「……よろしいのですか?」

「まあね、カッコいい名だからな。

 男の子にはそういう名前がいい」


 ソファーにメリッサを座らせる。

 出産後にあまり無理させるのはよろしくない。


「メリッサ。身体の具合はもういいのか?」

「ええ、出産の傷も塞がりもう大丈夫です」


 メリッサがリラックスしたところで、俺は背中に仕込んでおいた杖を取り出し、メリッサの『真名』を告げる。


「そうか、それは上々だ。『メメ・レイド』」


 ソファーに座った状態で身体を拘束されるメリッサ。


 その杖はかつて邪教の教祖が使った世界ランクナンバーズの動きすら止める杖。

 以前、帝国に預けていたものを持ってきたのだ。


「ご主人様、これはどういう……と言う必要はなさそうですね」

「そうだな。『女神』メメ・レイド」


 俺は優しくメリッサの横に腕を伸ばし座り、メリッサの頭を腕枕をするようにその腕にもたれさせる。


 穏やかな表情でされるがままのメリッサ。


「いつからお気づきに? 最初から?」

「いいや、女神の『隠し名』が星見の里の古文書に残っていたからそのときだな」


『隠し名』とは隠してずっと引き継がれてきた真名。

 メリッサはメリッサ・レイドでもあり、今代女神メメ・レイドでもあるということ。

 名前が2つあるわけだが、女神としての名の方に杖は反応した。


 ただ、疑いだけは最初から。

 世界最強No.0の名に引っ掛かった女は警戒対象……だから、俺の嫁のほとんどに警戒してた。


 イリスも世界最強No.0に引っ掛かったが、アイツは俺が助けなければ死んでいた。

 その女神の真実を追っている内に、イリスを助けることになった訳だが。

 いずれにせよ女神候補から外れる。


 同様に帝国から切り捨てられかけたカレンも女神候補から外れる。


 そうやって取捨選択をして残った女神候補がメリッサだった。


 女神は各大国の王が女神教と一緒になり秘匿していた存在。

 時にその神秘的な力を使い、権威を示したり、時に『神託』により国の危機を予言したり。


 女神の子孫はその神秘な力を発揮した。


 星見の里の長ミランダもその血筋の影響で女神の力の片鱗を見せていた。

 ナリアちゃんの勘の良さも。

 それらの代表ともいうべき今代の女神がメリッサだ。


 女神の存在は今の閉ざされた世界の在り方に利用されてきた。


 世界を停滞させるために、女神の祖国レイド皇国さえも犠牲にして見せた。

 女神そのものよりも世界の停滞こそ優先すべきとして。


 そして世界最強No.0と女神、それは切っても切れない関係だった。


「確信は邪神騒動の皇帝陛下が言った神託のとき。

 神託を授けられるということは、帝国に女神が居る動かぬ証拠だからな」


 身体を拘束されながらもメリッサは慌てる様子はない。

 むしろ少しうっとりとした表情で俺を見つめている。


 茶色の髪がだいぶ伸びて顔に掛かっていたから、そっと横に流してあげる。

 綺麗な顔なので俺の方が内心落ち着かない。


 だって、S級美女だもの!!

 大人の色香も加わって、素敵なのよ!?

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