第45話コルラン崩し⑦

「明日、戴冠式を行いますので王宮に参りましょう」


 研究所のソファーでゴロゴロしてたら、ルカちゃんが何やら報告に来てたので捕獲してイチャイチャしようとした。


 するといつのまにか来ていたイリスに冷たいジト目でそう言われてしまった。


 怖いわ。

 イリスさん、貴女世界最強なのよ?

 その殺気は人を殺せるわ?


「全部終わったら私もアレス様からご褒美頂きますからね!!」


 あら? ご褒美を貰う側からあげる側になったのね?

 ゴンザレス、慣れないわ。

「慣れて下さいね」


 これが王になるということなのね……。

 嬉しいのに有り得えなさすぎて怖いわ。


 イリスは最初からこんなに懐いてた気はしなくもないが。


「ところで戴冠式ってどういうことだ?」


 イリスもルカちゃんも可愛らしく小首を傾げる。

 そう言えばメリッサもよく小首を傾げていたわね?

 皆で練習してるのかしら?

 可愛いわよねぇ? わたくしも練習しようかしら?

 えい! 


 クキッと首から音がしたわ。


 どうやらわたくしの物語もここまでのようね……。


 長き詐欺の日々であった。


 完












「何やってるんですか」

 イリスが寝たふりをする俺の首を優しくマッサージ。


 え? 最終回ごっこ。

 ちょっと現実逃避。


「それより戴冠式ってどういうこと?

 誰かが現王を廃して新王に立つのか?」


 ……だとしたら計画の再編だなぁ。


 狙いでは、俺が偽の『王位継承権』をでっち上げて現王を廃してしまうか。


 それが無理なら革命……。


 こちらは血を見ることになるから可能な限り避けたいが、いずれにせよ、悪名高い王を廃すことで国をさらう予定だった。


 それが誰かに先を越されてしまったということだ。

 新王が話が分かるやつなら1番良いが……。


 そんな俺の様子を見てイリスとルカちゃんが互いに目を合わし。


 あ〜、と何かを納得したかのように声を上げる。


「アレス様らしいー。

 イリス様、いつも通りのアレス様ですねぇ……」


 ルカちゃんの言葉にイリスはため息を一つ。


 イリスはメリッサと似てきたわね?

 姉妹?


「アレス様……。

 王になられるのはアレス様以外の誰が居られるのですか……。

 そのために色々お仕掛けになられたのは、アレス様ご本人ではないですか」


「へ?」


「バグ博士から連絡を受けて、最後の仕上げをしに来たのではなかったのですか?

 もう充分過ぎるほど仕掛けて、とっくの前に発動してしまっておりますよ?」


 「あ、あれ……?

 コルラン崩れちゃった……?」


「崩れ切ってアレス様の王継承の儀で、明日コルランは正式にエストリア国と一つとなります」


 あっれ〜?

 王宮潜入するために衛兵の制服まで用意してたのに、不要になっちゃった。


 皆も現王退任のために偽の継承権用意してたんじゃなかったっけ?


 ルカちゃんも肩を落として言う。


「今となっては不要ですよ?

 ところで衛兵の制服なんていつ用意したんですか?

 ソファーからろくに動いてなかったですよね?


 ……いえ、いいです。

 アレス様は最初っからそういう方でした……。


 突然、帝国にまで認められたカストロ公爵の身でありながら、何故か帝国の奴隷になって現れて私も助けられたんでした……。


 神出鬼没過ぎです……」


 性分なのよ〜。

 だって目立つと狙われて怖いじゃん?


 コルラン王も策士だったかもしれないけど、こうも目立っちゃうとね〜。

 権力者でも追い落とされるってもんさ。


 権力者だからこそか?

 世の中怖いことばかり。


 今も詐欺を仕掛ける間もなくコルランが崩れて恐怖してるけど。


「アレス様はもうチンケな詐欺師を自称することも出来ないほど、圧倒的なお力をお持ちなのですよ?


 世界最強No.0であることを否定出来る人が誰もいないほどに」


 俺の動揺をよそにイリスはため息混じりに言う。


「それだけは断固として否定させて頂く!

 俺は武力はからっきしだ!!」


「我ら世界ランクナンバーズの主だった全員を掌握しょうあくしておられますが?」


 イリスの即座の返答に俺は目をそらす。


 最後の砦ハムウェイも今回のことで完全に俺の協力者だもんねぇ〜……。


 なんでこうなったんだ……?


「自ら積極的に動かれていたと思いますが……。


 ……もしや。

 もしやですが、アレス様。


 貴方様がお仕掛けになられました『もう一つ』の仕掛けの効果にお気付きではない、とか?」


 な、なぁに?

 イリスちゃん、もう一つの仕掛けって何かしら?

 ゴンザレス怖いわ……?


 イリスがクラっとよろめき、それをルカちゃんが素早く支える。


 頭痛を抑えるように額に指を当て、イリスは深〜く深ーーーく、ため息を吐く。


「……いえ、ここまで来たらもう状況は動きようがないのでご心配はいりません。

 まずは明日の戴冠式に備えて今から王宮に行きましょう」


「これがアレス様なのですね……」

 ルカちゃんも動揺したように呟く。


「ルカ。貴女もアレス様の嫁の1人として協力してもらいますよ?

 見ての通り私たち全員でもアレス様をこのようにカバーし切れておりません。

 カバーを遥かに超えた結果を叩き出していくのですから……」


「ひぃえー。が、頑張ります……」


  俺の嫁たちで何をカバーしているのかしら?

 よく分かんないけどルカちゃんもよろしくね?


 ゴンザレス、色々わからなくて怖いわ……。


 その時、俺は何か予感があった。

 チンケな詐欺師に戻れずに王様にされた時に感じたのと同じような……。


 え!? まだなにかあるの!?

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