第43話コルラン崩し⑤
「それでどうするつもりなんですか?
私、暴力的なことは嫌ですよ?」
「そんなことしねぇよ。
ま、パーミットちゃんにやってもらいたいのは、『当たり前の権利』ってやつを主張してもらいたいだけだ」
俺は肩をすくめる。
パーミットちゃんに暴力的なことを頼むなんて終わってるだろ?
そんなことしたらハムウェイに殺されるわ。
「当たり前の、権利?」
その言葉が聞きなれないのか、不思議そうに首を傾げる。
義務ってのはよく聞いたことがあっても、自分たちの当然の権利なんてのもあまり聞きなれないことだろう。
それもまた女神教が個人の権利や思想について、人々に『考えさせないように』していた
そしていまや女神教の歪んだ思想のすべてはこの大国コルランにあると言ってよい。
先進的な議会や研究を取り入れたかと思えば、それは気まぐれに取り上げられ。
そのたびに進み過ぎたものはやはり受け入れるべきではないと、反面教師とするかの如く女神教の教義を振りかざす。
先進的な議会で女性が台頭してくると、それに反発する既得権持ちの男議員たちと共にもてあそぶように潰す。
世界の叡智の塔によるハムウェイの暴走も、進み過ぎた研究がもたらした副産物であると。
パーミットちゃんの薬で解決したんだけどね、一般の人はそんなことは知らないからね。
真相はハムウェイの責任を問わない代わりに秘匿された。
そのあたりの人の心の操作が現コルラン王は実に上手い。
そして女神教の大幹部……事実上のトップとして、女神教の理念をこれ以上なく上手に利用した。
レイド皇国もウラハラ国も女神教の教えに背いたとして当時のエストリア王を動かした。
ご丁寧に『女神教の』秘技である勇者召喚の方法までこっそりとリークして。
裏で糸を引いておいて、自らは動いていないように見せるのだから大した詐欺師っぷりだ。
つくづく王という存在は詐欺師みたいなものだと俺は確信を持つ。
帝国皇帝も世界の叡智の塔を使い、世界中の人を
残る大国のエストリア王も自称詐欺師である。
これについては自称でしかないとか。
なんで自己主張しているのに、詐欺師と認めてくれる人がいないの?
現エストリア王、つまり俺って詐欺師なんだけど?
それはともかくとして……。
「おうよ! ルカちゃん、ローラ、後は頼んだぞ」
「ハイです!」
「はいはい」
2人が俺に返事をすると、パーミットちゃんはため息混じりにローラを見る。
「ローラさんもアレスさんの仲間だったんですね」
知り合い?
「こっちの娼館の状況は酷いもんよ?
早急に薬が必要だったからね。
バグ博士を通じてパーミットさんに用立てて貰ったの。
ルカたちは裏でお膳立て頑張ってくれたから、娼館や街の婦人たちはなんとか味方になってくれそうよ?」
それは上々。
いつの時代も女を抑えれば、男は勝手にそのケツを追いかける習性があるからね。
「旦那、こっちも大分、準備できましたぜ?
自分たちの『権利』って奴を街の中にも広めてきやした」
お、ウェンブリー久しぶりだね。
さて、これから行う『当たり前』の権利ってやつこそ世界初の試みになるから、街の中に一気に広めて盤面をひっくり返すように『当たり前』をひっくり返す。
女神教の停滞した世界から動き出す世界へ。
「こっちの裏街の奴らも大体、話を通した。
従わない奴は、まあ……問題ない」
あら? カラハムさん何をしたのかしら?
ゴンザレス、怖いから聞かない!
「街で喧嘩に明け暮れた日々を思い出すぜ?」
あら、セボン?
貴方も来てたの?
「私も来てますよ、お館様。
昔のツテを全開で使い、義憤のある人たちへの働きかけは済みましたよ?」
セリーヌも来てたんだ。
貴女の故郷だものね、勝手知ったるってやつね。
セボンの隣に並んで夫婦みたいに……あ、ご夫婦になられて?
それはおめでとうございます。
「お館様。こちらも難民たちのツテを使い、コルラン全土での王家への不信感を広めることにすでに完了しております」
次から次へと人が訪問してくる。
元カストロ公爵領の奴等が全員居るとか言わないでね?
スラハリだけ留守番?
そうなんだ。
何もしなくてもコルラン崩れてない?
え? 指示通り?
うん、お願いしたけど、君ら優秀すぎない?
コルランもなんでこんな穴だらけ……。
今まで一切野心を見せなかった元カストロ公爵領が信用を積み重ねてたから?
魔獣の素材とか、最大の交易相手だものね。
お館様はコルラン内部に入り込む手立てを揃えていたから?
あれ? そういうことも俺の手柄になるの?
全員で頷かないで。
絶対違うから。
「随分な騒ぎだな」
お? バグ博士お久しぶり。
ああ、ハムウェイも一緒?
「ふむ……。
すでにコルランは崩れている、そう言っても過言ではない。
流石と言おうかアレス君、いや、アレス王」
「今まで通りアレスで」
王様と呼ばないで?
ゴンザレス慣れないの。
あとコルランに王自らが潜入しているのがバレたらとってもヤバイし。
バグ博士は相変わらず落ち着いた雰囲気。
この人、ほんと研究にしか興味ないよね。
いいや、研究のためなら国すら潰す、まさに『狂気のバグ博士』だ。
「ハムウェイは大丈夫か?」
国崩しにまだ迷っているとかやめてくれよ?
ハムウェイは目を見開き、焦りながら声を上げる。
「まさか!?
君が人を心配するなんて!!!!???
まだコルラン王家はそれほどの秘密兵器を隠していると言うのか!!」
なんでやねん。
「ククク……。
流石だな、アレス君。
王家にはまだまだ秘密がある、そういうことか。
研究者の血が騒ぐ。
任せたまえ、それがどんなモノでも必ず解明して見せよう」
「そうなんですね、アレス様。
ですがお任せ下さい。
腐っても世界ランクNo.1です。
必ずやその秘密兵器防ぎ切って見せましょう」
「アレス様。我ら臣下一同、命も惜しみません。ご安心を」
「お館様の御心のままに」
「……そんなものがまだあったなんて。
流石旦那だ。
とんでもない情報網だ」
「裏にも流れてない情報か……流石だ」
「腕が鳴るぜ」
「協力者たちにも警戒する様にお伝えします」
「だだだ、大丈夫ですよね!?
ハムウェイさんに何かあったら、私……!」
「パーミット……」
最後にローラが額に汗すら見せて。
「貴方が人を心配するなんて……大災害の前触れと言われてもおかしくないわね」
なんでだぁぁあああああ!!!!!
こいつが裏切ったり体調崩しでもしたら、この作戦もどうなるか分かんないんだ!
心配して当然だろうがぁぁあああ!!
あれか! 日頃か!!
日頃の行いかぁぁああああ!!!!
……うっわ、すっげぇ納得。
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