第40話コルラン崩し②

「おい、ジジイ、ババア居るか!」

 イリスを伴い、部屋の扉をバタンと開けると中には、俺の血筋上の父親と母親が居た。


「あん? ゴンじゃねぇか。

 帰って来てたのか」


 父の方は豪奢な服を着崩してソファーに寝そべり、母の方は優雅に茶を飲んでいる。

 親父の方は俺の親父っぽい感じがよく分かる。


「ソファーに寝転ばれるお姿、アレス様にそっくりですね?」

 イリスがコソッと呟く。


 うるせいやい。

 イリスは俺の反応にうふふと嬉しそうに笑う。


「でも義母上様は、何というか王族のような気品がありますね?」


 そうなんだよ……。


 薄汚れたぼろぼろの格好か、場末の酒場のオーナー的なタバコをふかした感じの格好のイメージしかなかったが、今はどう見ても貴族然とした年増の美女だ。


「……化けたな」

 そんな表現が似合う。


「昔取った杵柄きねづかというものよ」

 この女は元女優かなにか、なのか?


 スラムでは真っ当なことでは生きられない。


 そのためには姿形も変幻自在である必要があった。

 俺の詐欺師としてコロコロと立場を変化させていたのは、そうした両親の影響が大きい。

 詐欺以外で王になるなんざ、カケラも思わなかったが。


 ……チンケな詐欺師臭も両親の影響のはずだ。


 あと、イリス。

 ババアのことは義母上と呼ばなくていい、そんな大層なもんじゃないから。


「アレス様をこの世に生み出されたという功績だけで、世界中の方々から称賛されて然るべきですので」

 イリスは絶対の信頼の眼差しで俺を見つめる。


 あらそう、相変わらずね?


「おい、ゴンザレス。

 前から思ってたが……。

 何でイリスちゃんはこんなにお前に絶対の信頼を置いてるんだ?


 ヤベェクスリ、ヤッチマッタのか?


 おいおい、いくら俺らがスラムに堕ちてもそれだけは手を出しちゃあなんねぇぞ?」


「ねえ、ゴンザレス聞いてる?

 いくらなんでも、こんな純粋そうな娘に手を出すなんて……。

 私、悪魔を産んでしまったのかしら?」


 酷い言われ方だな。

 まあ、俺も人から聞けばそう思うけど。


 説明したところで理解してもらえるとは思えん。

 何より俺が1番理解出来ん。


 なんで詐欺に引っ掛けたらこんなにベタ惚れされるんだ?

 ゴンザレス、分からなくて怖いの。


 現在の俺の立場という不可思議な詐欺ワールドのことは、頭の中の広大な記憶の川に棒で突きながら流して2人に改めて呼びかける。


「おい、仕事だ」


 俺の詐欺師の土壌は間違いなくこの2人だ。

 そんな2人にはこれから手伝ってもらう必要がある。

「あん? 何をする気だ?」


「コルランを崩す」


 ババアが目を見開きガチャンとティーカップを落とす。

「おい! そのティーカップ高級品じゃないか!?

 どうすんだ! そんな高級品!

 弁償出来ねぇぞ!!」


 するつもりもないけどよ!

 そんな俺にイリスがそっと声を掛ける。


「アレス様がお値段を気にする必要はないかと……」


 あ、そっか。

 慣れないね、王様。


 ジジイも身体を起こし口を開けて驚きの表情。

「ハハハ……マジか、お前?」


 少し嬉しそうだ。

 このクソ親父もコルランのスラムで酷い目に遭ってきたのだ。

 思うところもあるだろうな。


「おうよ、すぐにコルランに移動だ」


 そんな訳でコルランに向けて出発。

 王様としての正式訪問では勿論ない。


 おたくの国崩しますよ?

 そんなことをほざきながら正面切って言うと、全面戦争の宣戦布告である。


 今までは1人でコソッと出掛けて、突然、相手の懐に入り込むアサシンスタイルだったが。


 今回はちょっと色々な人に協力をお願いしてるから、エストリア国内では馬車で移動。


 目立つのよねぇ……。


 やっぱりいつも通り、どこかで逃げてこっそりコルランに潜入すべきか。


 他の人もそうだが、ジジイとババアもツテとか使ってなんとかコルランに来るだろ?


 そんなことを考えたりもするが、出発の前日からガッチリとイリスに腕をホールドされて一切離してくれない。


 に、逃げられない……!


 出発の日、王宮でメリッサ、エルフ女、ナユタ、セレン、シュナ、ミランダ、ナリア、チェイミー、ソーニャちゃんが見送り。


 ローラとルカちゃんは一足先にコルラン入りしてくれている。


 イリスは俺に同行。


 お出掛けの名目は、元カストロ公爵領周辺の王による視察。

 世界最高戦力にして、脅威の美女集団に見送られる俺はちょっと足がガクガク。


「ちょっと、なんで怯えてんのよ?」

 エルフ女が俺をジト目で見てくる。


「だ、だって……この美女集団。

 お前も含め俺の嫁だってよ?

 ちょ、ちょっとあり得なさ過ぎて……怖くない?」


 S級美女怖い、S級美女怖い。


「あんたが次から次へとホイホイするからでしょ!?」


 めでたくナリアちゃんもソーニャちゃんも正式に俺の嫁の仲間入り。

 小僧……レナも国の都合もあり俺への嫁入り確定だとか。


 エストリアに帰ってきてからすぐに密偵ちゃんにも手を出しちゃったわけだけど、ゴンザレス知らないわ。(声震え)


 し、仕方ないやないか!


 そこに美女が居たら命懸けで声を掛けるのが男ってもんだろ!?

 クズ男に引っ掛かる方が悪いんや!


「ご主人様。

 そのクズ男が、自分のために世界を救うほどの偉業をサラッとこなしたら、堕ちても仕方ないと思うのですが……。

 いえ、今更ですね」


 メ、メリッサ!

 あ、後で覚えてろ!

 ベッドでお仕置きだからな!!!


「分かりました。その前にお腹の子の名前を早めにお願いしますね」


 あ、はい。

 エルフ女とナユタを含む3人ほぼ同時で出産なので、もう少し時間頂戴。


「父が元カストロ公爵領に入っておりますので、そこから密偵を動かしていただければ」


 ナユタが大きなお腹で静かに俺に一礼をする。

 身重なんだから無理しちゃダメよ?


「ご無事のお帰りをお待ちしております」

 潤んだ目で見つめてくる。


「なんでだろ?

 ナデシコ風のナユタに涙目で見送られると死亡フラグを予感してしまうのは」


「言うにことかいて旦那を見送る嫁に向かって言うのがそれかい!

 良いからとっとと行って、早く無事に帰って来い! このロクデナシ!」


 キャイン!

 エルフ女!俺のプリチーな尻を蹴るんじゃない!


 エルフ女は俺の訴えを無視してイリスに語りかける。


「イリス。こいつの世話頼むわよ?

 ホイホイするのは仕方ないけど、生命だけは必ず守ってあげて?

 意地でも死なないと思うけど」


 当たり前だ!

 俺はなにがなんでも生きるぞ!


 イリスは皆を見回し微笑む。

「分かっています。

 この生命に代えましても」


 全員がイリスを見て頷く。

 皆の心が一つに。

 俺、蚊帳かやの外。


「いや、あんたの話だから、このクズ男」

 エルフ女のジト目!

 酷いわ! エルフ女さん!!

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