第37話魔王と世界最強No.0のネタバラシ②

 そもそも、魔王とは。

 1000年以上前に『召喚された勇者』のことだ。


 1000年前、世界はその栄華を極めた。

 沢山の兵器、沢山の技術、沢山の本、多種多様な文化。

 世界の叡智の塔も聖剣もそのシステムも異界からの『勇者召喚』もその栄華を極めた1000年前に作られた。


 星見の里、グリノアの地はその研究の最先端の巨大な街だった。

 今では信じられないが、グリノアから星見の里までテレポートではなく一気に移動する手段があったようだ。

 もっとも今ではその片鱗すら存在しないが。


 そんな時代、いつの世も変わらず権力者がその欲を満たすために、勇者召喚が行われた。


 だが強大な力を持った勇者は、世界にとってあまりに異物であった。

 始まりがどうだったかは遺されてはいないが、勇者は多かれ少なかれ性格破綻者であった。


 ましてや違う世界から来た存在である彼らは、この世界の『常識』通りにはいかない。


 勇者はこの世界の『常識』の中で生きようとしてくれず。

 召喚主を殺したり、復讐を企てたり、生態系を欲望のままに破壊し、文化を破壊し、それを当然とした。

 巨大な力を思うがままに使い、周りの人間もその狂気に毒された。


 やがて当然のように『勇者』は暴走し、1000年前も、今も、その遥か昔も変わらず人は愚かだった。


 この世界の人々は自ら招いておきながら、当然の如く意にそぐわぬ勇者の存在を排除しようとした。


 その中で1人の勇者が魔王となった。


 その魔王は『スキル』という不可思議な力……今ではそれは邪神エネルギーと呼ばれているが、それを使いダンジョンマスターという存在になった。


 余談だが世界の叡智の塔も、その異界から流れてきた邪神エネルギーを利用して起動する。


 魔王城はその『スキル』により生み出された巨大なダンジョンのことだ。

 魔王はその魔王城から自らの配下となる直属の4体の側近グレーターデーモンを呼び出し、それから幾万もの魔獣を生み出した。


 3体は各地で暴れ回り、1体は常に魔王のそばに控えていたそうだ。


 それに加えて魔王城が作られた際に媒体となった『コア』と呼ばれる宝石があった。


 それは魔王のダンジョンマスターの力の素でもあったが、同時に封印でもあった。

 魔王がそれを自らの身体に取り込めば、魔王はダンジョンたる魔王城から好きに出て行くことが出来た。


 反対にコアが無事な限り、魔王の身体が滅びても復活することが出来た。

 魔王はその『コア』をまだ身体に取り込んでいなかった。


 ゆえに復活した。

 だがコアを取り込んでいないために魔王は魔王城から、正確には奴の『玄室』から出て来られなかったのだ。


 記録がないので憶測にしか過ぎないが。

 1000年前に討伐された際に保険の意味も兼ねて魔王がどこかに隠していたのだろう。


 ああ、『コア』っていうのは手の平サイズの宝石でな?


 魔王とコアは互いに引き合い、コアは運命の力……というかスキルの力で魔王の元にどうやってか運ばれる。


 それがあれば魔獣にも襲われなくなるんだ。

 魔王城内でしか使えないけど。


 いずれにせよ1000年前、そうして魔王の手により世界は滅びかけた。

 魔王となった勇者からすれば自衛に過ぎん。

 世界がそれを許容出来るかは別にしてな。


 聖剣というのは、その後、『復活した』魔王を討伐するために作られた兵器で、その時にはまだ存在していなかった。

 聖剣が魔王討伐用で、魔剣が魔王を完全に消滅させるためのものだ。


 そこにミランダから質問が飛ぶ。


「当時、どうして魔王を討伐した後に魔剣を使わなかったの?

 魔剣は討伐後に使うものだから、後から使っても良かったんじゃないの?

 そしたら、最初から復活なんてしないのに」


 もっともな疑問だ。

 簡単に言えば使えなかったから、だな。


 魔王は確かに討伐されたが、『どこで』討伐されたのかは誰も分からなかったからだ。


 それに魔王と『コア』を同時に破壊しないと魔剣は無駄になるからな。


「あの星の流れた夜、ゴンちゃんが魔剣を使ったんだって分かったよ。

 世界の色んな場所から見えていたんじゃないかな。


 理由こそ分からないけれど、世界最強No.0が自分たちを救ってくれたって、皆分かったんじゃないかなぁ〜」


「世界最強No.0なんていないぞ?」


「……自分がそうだと絶対に認めないね」


 ミランダはため息混じりの色っぽい息を吐く。


「でもゴンちゃんがそう言うから、本当に世界最強No.0は『居ない』んだね。


 それでも、『剣聖の担い手』であるエルフィーナさんだけじゃなく、世界の誰も知らない内にゴンちゃんは世界を救っていたんだよね」


 エルフ女は聖剣を使用するための自爆装置にされていたからな。

 エルフ女が自爆後のことを教えられていなくても仕方ないだろう。


 本当なら、連綿れんめんと伝承や書物などで後世に遺しているはずだった。

 それが途絶えた。


 女神のせいでな。


「女神の、せい……!?」

 ああ、女神の存在は知ってても、それは知らなかったんだな。

 古文書、自分の里にあったんだからちゃんと読め。


「ううう……勉強嫌い」

 ミランダはそっと目を逸らす。


 何!? 本は素晴らしいモノだぞ!

 ベッドで教え込んでやる!!


 ……まあ、そういうことで話を続けよう。


 さてその前に。

 では当時誰が魔王を討伐したかになるが。


 魔王に対して人々は足掻き生存を賭けた戦いが始まった。

 その中でもやはり行われたのが勇者召喚。


 魔王を生み出した禁忌であれど、巨大な力を持った魔王という毒に毒をぶつけるしかなかった。


 それに呼び出された最後の勇者が世界最強No.0だ。


「え!?

 世界最強No.0って1000年前の勇者だったってこと!?」


 ミランダが驚きにその目を丸くする。


「そういうこった」

 俺は肩を竦めて見せる。

「だからこそ、世界最強No.0は『もう』いない。

 1000年前、殺されたからな」

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