第36話魔王と世界最強No.0のネタバラシ①

 俺が盛大なる誤解を受け、それを晴らすべくソーニャちゃんとシュナにベッドで奮闘した夜。


 俺はなんとなく目が覚めて、屋敷の庭園に出た。


 そこには椅子に座り、明るい月夜に照らされながら夜空を見上げる妖艶残念娘ことミランダが居た。


 ミランダは俺に気付くと気軽な感じに片手を上げる。


「お前も来てたのか」

「まあね、ゴンちゃんも出て来ると星が導いたからね。

 ゴンちゃんが認めてくれてるか分かんないけど、これでもゴンちゃんの嫁の1人のつもりだからね。

 近くに来たら逢いにも来るよ」


 なし崩し的に関係を持った気もしなくはないが、割と俺の嫁全員がそんな感じだ。

 あれ? 本当に全員、そんな感じ?


 とにかく、ミランダも俺の嫁ということで。


「オーケー。改めてよろしくー」

 軽いな、おい。


 ま、元詐欺師の嫁だから細かいところを気にしても仕方ないか。


 俺はミランダの隣にどかりと座り、同じように月を見上げる。

「よく月を見上げ思うんだが、アレって売れねぇかなって」


「ゴンちゃん、王様なのに変わんないね」

「王様になったが自分の金って無いぞ?」


 だから詐欺師の時より貧乏だ。


「王様は普通、お付きの人がお金を払うからね?」


 お付きの人……密偵ちゃんかな?

 でも、その密偵ちゃんも海に逃げた俺を着の身着のままで追いかけて来たから、金持ってないかも?


「ゴンちゃん。この屋敷の人でも誰でも言ったらお金貰えるからね?

 この国、ゴンちゃんの国だからね?」


「なん、だと……!?

 王様すげぇな……」

「それ、感心するところ違う……」


 は〜っとミランダは大きくため息を吐く。


「ほんとゴンちゃんは相変わらずだなぁ。

 ねえ? ゴンちゃん」

「んー?」


「聞きたかったんだけど、あの日、星見の里に来たの偶然じゃないよね?」


 チンケな詐欺師の返事は決まってる。


 ななななな……なんばいいよっとね!?


 ……ってね。


 まあ今更だ。

 今は何故か詐欺師ではなく王様だからね。

 誤魔化す理由も必要もない。


「まあな。星見の里の書物が読みたかったからな」


「だよね?

 ……助けに来てくれたんだよね?」


 星見の里の王女は、絶世の美女って聞いたからなぁ〜。


 S級美女とお近づきになるなら、国の一つや二つ、ついでに世界も救わなければならない。

 S級美女って恐ろしい……。


 ミランダはニヒヒと笑う。

 妖艶なフリをするよりも、彼女にはそんな天真爛漫な方がよく似合っている。


「古文書で知りたいことは知れた?

 魔王のこととか、1000年前のこと」


 俺は深くため息を吐く。


「まあな。

 元々、この『失われた1000年』のことを記された書物を探してたからな」


 俺の言葉にミランダはクスクスと笑う。


「ほ〜んと、ゴンちゃんらしい。


 ……どうせ、誰にも気付かせてないんでしょ?


 本当の意味で魔王を討伐したのがゴンちゃんで、邪神騒動の時、最初っからゴンちゃんがそれを目的に動いてたってこと」


「誤解だ」


 ミランダの爆弾発言に嘘だとバレてしまうと分かっていながら、条件反射で誤魔化そうとしてしまう。


「メリッサさんにもナユタちゃんにも、魔王討伐の役目を持った『剣聖の担い手』エルフィーナさんにも。

気付かれずに動いて。


 それに魔王討伐すぐの時にゴンちゃん、ゲフタルに残ったんだって?

 魔王を倒した後、魔王が復活する可能性に気付いてたんだよね?」


 ミランダはキラキラした目で俺を見つめている。

 可愛い顔ですこと。


「……後でお仕置きな」

 隠してたのにバラしやがって。


 まあ、2人っきりなのでバラしたとは違うか。

 どうせ、こいつには嘘を付いたところでバレてしまうからな。


「いいよー。

……っていうか、こちらからお願いかなぁ〜?

 私もゴンちゃんのお嫁さんの1人だからね!」


 やっぱり俺はため息を吐く。


「……そうだよ。

 元々、世界最強No.0、魔王、勇者、更に言うなら女神。

これらは全て1000年前に繋がっている」


 それを辿っていくと、全てが数珠繋ぎのように繋がっていく。


 世界各地に散らばった書物が、面白いようにパズルのピースのようにハマっていくのだ。


 壮大な物語の中に居るようだった。


 実際、そうなのだ。

 人生ほど壮大な物語はない。


 チンケなスラム出の詐欺師ですら、その物語の中に組み込まれて描かれる。


 俺はその『物語』に夢中になった。


 どうせいつか、チンケな詐欺師が何処かの街の裏道で野垂れ死ぬだけの人生。


 走れるだけ……追いかけられるだけ、『物語』に触れられるだけ、突き進んでみようか。


 最初の始まりはどこにでもあるそんなちっぽけな願いからだ。


 それが今では沢山のS級美女を嫁にした大国の王ときた。

 ほ〜んとなんでこうなった?


「ゴンちゃん。

 私は……『女神』じゃないよ?」


 ここに来てミランダからのカミングアウト。


 それに対して俺の返事は簡潔。

「知ってるよ」


「流石だね。

 女神のこと、気付いてたんだ」

「当たり前だろ?

 全ては1000年前から『繋がっている』からな」


 俺は独白のように話を続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る