第35話ゴンザレス王と支援②

 今日までグリノアの街一丸となって準備をした。


 このグリノア火急の時に遅ればせながらグリノア全土から人が集まり、支援者出迎え準備を行った。


 俺はそれを総指揮者、通称『マスター』と呼ばれながら指揮し……ついに間に合わせることが出来た。


 屋敷の前には出迎えの前に、今回の準備に協力した沢山の人だかり。


 特に主力となったのは最前列でクワを担ぎ、誰よりも式場の設営に力を注いだサーブロウ。


 なんでずっとクワ持ってたの?

 クワなんて使うところなかったよね?

 ねぇ、ないと言ってよ!


 そしてお玉を指揮棒のように振るい男どものケツを蹴り上げ、女たちにアネさんと称された女傑マージョン。


 お玉は幾度も火を吹いた。

 どこから火が出て来たのかわからないぐらい物理的に火を吹いた……。


 俺は何も見ていない、見ていないったら見ていない!!


 俺はその2人に目を向けると、2人とも強く頷く。

 俺は皆に高らかに宣言する。


「よくぞ、ここまでやり遂げた!

 俺はお前たちの頑張りを見ていたぞ!」

「「「マスター! マスター!」」」

 屋敷の前は割んばかりの大歓声。


 俺は勢いのままに女神教の歌を歌う。


 するとどうでしょう!!!

 わたくしの布教が効いたのね!

 皆が一斉に文字を宙に書きながら歌い出したではありませんか!


 あいすべきー女神様〜

 いとしきー女神様〜

 うつしきー女神様〜

 みを浮かべた女神様〜

 おーおー、偉大なる我が女神様〜


 ついに大合唱。


「あ、貴方って、相変わらず恐ろしい人ね……」

「兄ちゃんスゲェ〜」


 ……いや、別に狙ってたわけじゃないのよ?

 思うに皆、娯楽に飢えてたのよ。


 そこに歌って踊れる(?)丁度良いのが流行ったから、皆がテンションのままに乗ってしまったからで。


 俺は皆が文字を覚え、本であふれる未来を描き満足げに頷いていると……。


「ここで何をしておられます……」


 あら? 密偵ちゃん。


 なんで、そんなにげんなりした顔しているのかしら?

 ゴンザレス頑張ったの。

 これでお出迎えは万全よ?


 あら? お着替え?

 ああ、出迎えにも正装が必要だものね?


 皆様、後はよろしくね。

 わたくし、こちらでお着替えでしてよ?


 連れられていくゴンザレスとソーニャちゃん。

 そして……。


 豪華な服を着て支援隊と共に来ていたシュナとシュバインとソーニャちゃんを伴って。


 サーブロウたちグリノアの皆の前に俺、登場……。


「オ、オレ、ミテタヨ?」

 ……暫しの沈黙。


 のち、グリノア一同大歓声。


「王!! 偉大な王!!」

「我らの王!!」

「マスターアレス!」

「アレス王!! 万歳!!!」


 ハハハ(゚∀゚)

 どうしてこうなった?


「陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」

「……何、シュバイン?

 新しい嫌がらせ?

 それともごくごく当たり前に詐欺?」


「……陛下。詐欺は当たり前のことではございません」

 とっても頭が痛むのか、こめかみをモミモミしながら、シュバインはそう答えた。


「いやいや、この状況の方があり得ないよ!?」

「臣が陛下にかしずくのは当然のことかと?」


 いや、そりゃそうだが。

 なんで俺!?


 あ、俺がこの国の王だったわ。


 ハハハ(゚∀゚)


 あれ?

 どうしてこうなった?(2回目)


「しかし、見事な祝典ですな。

 グリノアはまだこれだけの余力が残っているのなら、支援を慌てる必要はなかったですな」


 シュバインがポツリと俺にそう告げる。


「……あ、あれ?

 こういうのって出迎えの祝典がいるんじゃないの?」


「程度というものが……いい、分かった。

 アレス王……もういいか、ゴンザレス。

『また』やったんだな。

 支援が必要なところに、盛大な祝典を期待するわけがないだろうに……」


 ハハハ(゚∀゚)

 どうしてこうなった?(3回目)


 出迎えの祝典が終わり大規模な晩餐会に移行する。


 グリノアで贅沢の限りとはいかないので、安い食材を使い工夫を凝らした食材や飾り付けがしてある。

 支援隊からも大好評だ。

 俺たち皆、グリノア一丸となって頑張ったよ!


 だけど、そのもてなされる筆頭が何故か俺だと言う不思議。


 俺を中心にシュバインとシュナが並び、それに着飾った小僧がグリノアの代表として一緒に。

 次々と人が挨拶にやってくるが、覚えてられん。


 給仕にやって来たサーブロウに笑顔で労うと、男泣きをして小さくガッツポーズを返してくれた。


「ゴンザレス様はゲシュタルト連邦全体で慕われておりますね!」

 元ゲシュタルトの第3王女にして何故か俺の嫁の1人、シュナは嬉しそうにニコニコ。


 うん、手を出した時点で王にされるとは思ってたけど……。


 ゲシュタルトだけの王じゃなくてゲフタル、グリノアも合わせた全土の王になってしまったのね、不思議ね。


「兄ちゃ……陛下すげ、凄いですね」

 小僧が頑張って俺を陛下呼びする。


 普通に兄ちゃんで良いと言っておいた。

 俺の心はいつも通り現状について行けてないから……。


「シュバインもよく俺を王に認めたね……?」

 げんなりしながら問うと、シュバインは一瞬目を見開き、ふーと大きくため息をついた。


「……分かってなかったのか。

 ゴンザレスらしいというべきか。

 お前は俺たちゲフタルの民全員の恩人だというのに」


 はい〜?


「なんでだよ?」


「本気で言ってるのか?

 ……いや、いい。お前はそう言うやつだ。


 あの当時、俺たちゲフタルと今のグリノア、状況にどう違いがある?

 リーダーを失い魔獣に襲われ海に出ることも封じられ、完全に追い詰められていたのだ。

 ゲシュタルトも含めな。


 その現状を変えたのは、魔王討伐軍やドリームチームではない。

 お前だぞ?


 ましてやドリームチームのリーダーとして魔王を倒し、ゲシュタルト連邦全てを救ったのはアレス王のお前だ。


 さらには野心を剥き出しにした将軍を叩きのめし、力ですらもゲシュタルト全土を制したのだ。


 この国でアレス王を認めぬ者などおらんよ。


 強いて言うならグリノアが気持ちの上で服従していなかったが、今回のことは事実上のトドメだな。


 お前の王の立場は今後揺らぐことはあるまい」


 ……王様って凄いのね?

 やらかしただけで、皆の心を掴んじゃうのね?


「お兄様……」

 小僧……(見た目は美少女)が兄ちゃん呼びからお兄様呼びに変わって、両手を組んで憧れの人を見る目で見てくる。


 そ、そんな目で見るなー!!

 俺はいくら美少女でもガキには興味ないんだ!!


 ついにはソーニャちゃんにジト目で、シュナには苦笑いで見られる。


「貴方……またホイホイしたわね?」

「しましたね」


 誤解だぁぁああああああああああ!!!

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