第34話ゴンザレス王と支援①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、生まれも公爵様だとか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、大国の王となったとか数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も真実を知らない。

 それが、世界最強ランクNo.0


 それについて、とある元詐欺師はかたる。

 俺、違うからね、と。



 どうも、アレスです。

 ゴンザレスでも良いのよ?


 元チンケな詐欺師。

 今、大国の王様です。


 あの日以来、サラはそのまま寝込んでしまった。


 そうであるなら執務はそのままとどこおってしまう訳で、白髭執事が代理でバタバタしている。


 俺が勝手に執事だと思ってただけで、執務も代行出来るらしく、実質はグリノアのNo.2。

 亡くなったサラの夫の叔父らしい。


 有能だねぇ。

 有能なんだが、流石に手が足りない。


 ちょっとでも手を抜けばグリノアが破綻してしまうため、白髭執事も忙しさがマァックス!!!


 しかもこのまま働き続けても近い内に破綻するので、急ぎ支援の要請をすることになった。


 そんなわけで早急に、密偵ちゃんがグリノアの使者と一緒にゲフタルとゲシュタルトに救援要請に旅立った。


 なお、俺はそんな状況でも良さげなソファーを見つけて本を広げ、今日もごろ寝。


 そこにソーニャちゃんもやって来て、ソファーに一緒に座る。

「……暇なんだけど」


 あん? 本読みなさいよ、本を。


 そうは言っても、大体の本を俺も読んでしまったので暇と言えば暇だ。


 だから小僧と遊んでたんだが、その小僧も今では簡素ではあるが、身なりの良いドレスを身にまとい執務の手伝いをしているらしい。


 ちんちくりんのガキンチョと思ってたが、着飾れば可愛らしい令嬢に見える……って言うか小僧、女だったんだな。


 それを正直に言うと、小僧とソーニャちゃんに殴られた。

 小僧はともかく、ソーニャちゃんパンチは洒落しゃれにならん。


 そうしていると、小僧……見た目には美少女お嬢ちゃんという感じで、年はもうじき15歳らしいがこれ栄養が足りてないのだろう。


 年齢よりもちんちくりんだ。

 だから俺が小僧と間違うのは仕方がない。

 仕方がないのだ!!!


 そのお嬢ちゃんレナが涙目でやって来た。


「どうしよう〜、兄ちゃん」

「どうした〜?」


 話を聞くと、ゲシュタルトとゲフタルから支援の人がやって来ると連絡が入ったらしい。

 良かったじゃん。


「良くないよ〜……。

 何百人と来るらしくて、出迎えの式典の準備をしないといけないんだけど。


 パトリックは手がいっぱいだし、お母様もまだ起き上がれなくて……。

 采配出来る人が居ないんだ……。

 ぼ……私がなんとかしないと……」


 俺は頭をボリボリと掻く。


 ソーニャちゃんの目が、なんとかしなさいよ、と言ってる気がする。


「なんとか出来ないの?」

 気がするではなく上目遣いでソーニャちゃんに言われた。


 想像してたより遥かに、遥かァァアアアアアに可愛く言われたのでゴンザレス立ち上がるの。

 だってソーニャちゃんS級美女だもの。


 そこー!!!!!

 またかよ、とか言うなよ!?


「仕方ねぇな、小僧。

 褒美ははずんで貰うぞ?」


 ソーニャちゃんにベッドでのご褒美を貰う気満々で、なんとかしてやると言ってあげたのに。


 小僧は何故かさらに涙目になって、自身の両手を祈るようにギュッとして、頑張ります、と。


 あれ? 何か違う意味に取ってない?


「……貴方、こんな子供にまで『ご褒美』貰う気なの?」

 ソーニャちゃんがジト目。


 ち、違うぞ!?

 ゴンザレス、その趣味はない!

 いや、小僧はもうじき15歳ではあるんだが!


 とにかく、ご褒美ならソーニャちゃんかサラの方に貰うぞ!?

 本当だからな!


「はいはい、じゃあ早速行くわよ」

 ソーニャちゃんは俺の耳を引っ張る。


 いてて!

 やめてやめて、ゴンザレスの耳は取り外し可能じゃないのよー!?


 そうして、とりあえずパーティの準備の段取りを確認。


 何も出来ていない、どころか食材も明らかに足りず、さらには各部署を指揮する人は居ても、どこもかしこも手が足りない現状が判明。


 グリノア全体が前の魔王事件や戦争のせいで人が全く足りてない。


 そうなれば現状の人だけでどうにかすること自体が無理だ。


「街で応援を要請しよう」

 そう言ってレナに頼み、街の人間を集めて貰う。


 ダメで元々。

 グリノアはこの国難を乗り越えるべきなのだ。

 後の問題は俺は知らん。


 レナの要請で街の住人が戸惑いつつ広場に集まったところで、俺は演説を開始する。


 今のグリノアの現状と破綻の危機を迎えていること。


 さらにそんな中、1人グリノアを支えていたサラが倒れ、残された者たちの奮闘。


 だが、その粘りも今、最大の危機を迎えていることを熱く!

 物語のように!


 そうそこに居る貴方!

 そう! クワを担いだ貴方!

 この国を救うのは貴方だ!


 そこのマダム!

 そう! エプロンと洗濯カゴを持ったマダム!

 そう貴女だ!


 見なさい、今、このレナは母が倒れた中、グリノアを……貴女方を支えようとこの小さな身体で踏ん張っている!


 貴方に義憤はあるか!

 貴女に人への愛はあるか!


 立ち上がるのは今だ!

 グリノアを救うのは今だ!

 グリノアを救うのは、誰だ!

 そう! 今、このグリノアで生きる貴方たちだ!


 さあ! 立ち上がれ!

 立ち上がり、このグリノアを変えようではないか!!


 会場は溢れんばかりの熱気と歓声の渦、今、グリノアが一つになる。


 ……無論、会場にはサクラを用意し、合いの手や賛同をタイミングよく行って貰い、街の有力者には話を通してある。


 援助の際には袖の下も約束してある。

 持ちつ持たれつというやつである。


「……貴方、こういうことは本当に悪魔的に上手いわね」

 ソーニャちゃんが何故かガックリ肩を落としている。


 口と袖の下で転がしただけよ〜?

 つまり、いつもと一緒。


 こうしてグリノアの街が一丸となり、支援の一団を出迎えることとなる。


 なお支援者はこの国の王である。

 ……あれ?

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