第33話ゴンザレス王とグリノア⑤

 俺は遊び友達となった小僧に泣きそうな顔で頼まれたので、仕方なぁ〜く調査した結果……。


「これ、グリノアだけでどうにかするの無理だぞ?」


 小僧と遊びつつそう結論づけ、グリノアの状況を小僧の母親サラに伝えた。


 それに対し、執務室に雑多に書類を積み重ねている小僧の母親サラ・グリノアはペンを手放さずに、その綺麗な顔に苦渋を滲ませる。


 そんな顔でもお美しひ。


 グリノアの状況は悪化の一途を辿っていた。

 魔王出現時、グリノアはゲシュタルトに協力しなかった。


 まず、そこが違っていた。


 協力したくても出来なかったのだ。

 魔獣被害はグリノアを含むゲシュタルト連邦全体に、深刻な被害を引き起こしていたのだから。


 魔王討伐後、グリノアには更なる苦難が訪れる。

 サラ・グリノアの夫が世界最強No.0との戦いの中で戦死したのだ。


 あ、サラの旦那を亡き者にしたのはわたくしではなくてよ?

 悲しい事故でカバに踏み潰された『本物』の世界最強No.0のことよ?


 ……本物よ?

 断じてわたくしが本物の世界最強No.0じゃないからね?


 トドメとばかりに巨大なカバ魔獣が世界の叡智の塔を破壊するついでに、グリノアの主力軍も壊滅させた。


 カバ魔獣を操る男?


 やぁねぇ、そんなのいる訳ないじゃない。

 カバ魔獣に襲われた哀れなイケメンを勘違いしたんじゃなくて?

 うん、間違った情報に踊らされてはダメよ?

 メッ!


 ……で、でもグリノアにトドメを刺したカバがわたくしの後をついて回ったのもあって。


 ちょっと……ほんのちょこ〜っとだけ責任を感じなくもないから、ここにグリノアの様子をこっそり見に来たとか……。


 元々、グリノアに限らずゲシュタルト連邦に大きな産業はない。


 海賊稼業が主流であり、現在行われている他国との海運業については、グリノアは混乱している間にゲシュタルトとゲフタルに大きく出遅れた。


 農業なども技術全般、グリノア単体では知識も経験も蓄積されているとは言い難い。


 本についてもこの短期間で屋敷にあるものは、あらかた読み尽くしたと言えるほどに豊富とは言い難い。


 俺は話しながら、お手上げとばかりに執務室のソファーにぐで〜んと伸びる。


 隣に座ったソーニャちゃんの肩に手を伸ばそうとしたら、ぺんっと手をしばかれた。


 痛いわぁ……。


「だからって、どうすれば良いのよ?

 何処からも援助なんて来ないわよ……。

 貴方が王の権限でなんとかしてくれるって言うの?」


 疲れ切った顔でサラは言う。

 当然、理解はしていたのだろう。

 どうして良いのか分からないだけで。


 初日に振る舞った豪華な食事は舐められないように強がっていたらしい。

 その後、あんまりにも俺が無警戒で俺がゴロゴロしていることや、元からそんな余裕もないことから強がるのも諦めたとか。


「さあなぁ〜……。

 俺は所詮、お飾りの王様だからなぁ」


 金持ちでも詐欺に掛けられればいいんだが、周辺にこれといった金持ちが居ない。


 近場の金持ちって、シュバインとかシュナとかだから、ちょっと詐欺するには抵抗がある。


 今では俺も建前だろうと王様。

 チンケな詐欺師ではないから好き放題というわけにはいかない……多分。

 ……好き放題してる気もしなくはないが。


 とにかく偉くなるとしがらみが増えるのよ、やぁねぇ〜。


 ところがソーニャちゃんと密偵ちゃんは、俺の言葉に同時に首を傾げる。


 何?


「いえ、お館さま……」

「貴方さぁ……」

 2人ともが同時にそう言って黙る。


 濁すような言い方で、ゴンザレスとっても怖いんだけど?


 ソーニャちゃんと密偵ちゃんは目で互いに会話して、諦めたように密偵ちゃんがため息一つ。


 観念したように密偵ちゃんが口を開く。


「……今すぐ、如何様いかようにでも援助を指示出来ますが?」


「「……はい?」」

 俺とサラは同時に目を点にする。


「……いえ。

 ですのでお館様が望むなら、即座に食糧や経済支援……お望みならグリノアを完全に接収して、サラ・グリノアをお館様の妻に迎え入れることも可能ですが……?」


「「えっ?」」

 俺とサラはまたしても同時に声を上げる。


 今度はソーニャちゃんもため息を吐きながら口を開く。


「私もタイロン公爵家からの支援も可能よ?

 貴方、帝国でもカレン様と私の旦那なのよ?

 皇位継承権すら持ってるのよ?」


「あれ? そうなの?」

 帝国の皇位継承権って凄いよね?

 あの国、超大国よ?


 同じ超大国のエストリアの王様が俺だということは横に置いておいて。


「何で、そこで疑問系なのよ……。

 皇太子殿下への皇位継承を急いでたのは何だと思ってるのよ。

 貴方がその気なら帝国も継承出来るからよ。

 まさか!? 分かってなかったの!?」


 ……分かってなかった。


「へー、そうなんだぁ〜。

 ……誤解とか詐欺じゃないんだね?」


「頭の中、詐欺だらけか!

 貴方が正真正銘、この国の王で、絶対権力者!

 最初っから貴方の一言だけでグリノアの問題全て解決! 分かった?」


 ぜ、絶対、権力者がとある元詐欺師だとか恐ろしいことを言うのはやめておけ……、ジャンルがホラーになるぜ?(声震え)


「何かお館様に考えがお有りだと思っておりましたが……」

 何も考えてなかったのですね……、と。


 密偵ちゃん、居たたまれない目で俺を見ないで?

 ゴンザレス、チンケな詐欺師気分が抜けてなかったみたい、てへっ。


 ゴンッと盛大な音がしてサラが執務机に突っ伏した。


「キャー! お母様ー!!」

 小僧が女の子みたいな声を上げる。


 緊張が一気に解けて力尽きたようだ。

 ハハ……働きすぎね? きっと……。


 ソーニャちゃんはジト目で一言。

「……貴方のせいよ」


 何で!?


 その日、グリノアは神話の神のように突然、海から現れた王の手により救われた。

 その傍らには金髪の女神と黒髪の天使が控えていたという。


 王はグリノアをつぶさに見て周り、現状を把握してその地の努力にいたく感動し、援助を行ったと言う。


 決して、王が自分にそんな権限があると思っていなかったとかそんなことはない。


 やがて、このグリノアの大地に育まれた純真な姫とその母親が王の嫁に加わることになり、ちょっと王様好色過ぎではないかと限りなく真実に近く、間違いが何もない噂が流れることになるが……。


 それはまだ少し先の話。


 こうして、世界最強No.0の伝説がまた一つ。

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