第32話ゴンザレス王とグリノア④

 ここで情報の整理。

 俺は屋敷の色んな場所で黒パン片手に本を読み続けた。


 最初こそ警戒されていたが、あまりに堂々としているので今では屋敷の人も慣れてしまい、もう俺は立派な屋敷のオブジェだ。


 どうよ? イケメンなオブジェ、高級品だぞ?


 口だけハムハムさせながらジッと動かず、ひたすら俺が本を読み続けるものだから、どこから入って来た10歳前後の子供が興味本位で俺の脇をくすぐってくる。


 やめろ、小僧!!

 悪戯いたずらするな!

 どっから入った。


 妙齢お姉様の子供?

 あらぁ、偉い人なのね?


 残念、俺の方が実はもっと偉い!

 お尻ぺんぺんしてあげよう!!

 逃げるなーーーー!


 そうやって、屋敷中を鬼ごっこしたりすると、ソーニャちゃんに捕まり廊下で2人で叱られた。


「良いか、小僧!

 このソーニャちゃんはとっても可愛いが、世界ランクNo.8の超怖い化け物なのだ。

 人は見かけによらない、いいや、美人は強い、覚えておけ!!」

「兄ちゃん、その化け物より凄い人じゃないの?

 パトリックがそう言ってたよ?」


「おい、小僧。

 とんでもない風評被害だ。

 詫びを入れるため小僧のお母様を俺のベッドに寄越すように」


 そう言ったら、ソーニャちゃんにゲンコツ落とされた。

「子供に何てこと言うのよ!」

「ぐぉぉおおおおおお!?」


 痛い、とっても痛い。


 痛くて転がりながらそのまま廊下一周旅行してしまうぐらい痛かった。


 スラムでは普通の会話だよ〜?

 俺もう王様だけど。


「兄ちゃん、王様なんだよね?

 何しに来たの?

 さてはグリノアを潰しに来たな!!」


 純真な風を装い探りを入れてくる小僧。


 母親似なのだろう。

 整った顔である。

 黒髪もサラサラ。


 将来はさぞやにっくきイケメンになることだろう。

 もっとも、これがそのまま成長したら美人系のイケメンになるだろう。

 俺はその気はないが倒錯系、つまり男も惑わすほどの美人に。

 まあ、今はまだ可愛らしい


「純真なフリして目的を聞こうとしてるけど、取りつくろった感じがバレバレだぞ?

 それでは立派な詐欺師にはなれないぞ?」


 俺は小僧の今後のために正しい詐欺師の在り方を説明してあげる。


「子供に詐欺師を勧めないでよ」

「何を言うソーニャちゃん!

 俺はこの詐欺心得10の掟をまとめ、大ベストセラーを生み出す予定なのだ!!」

「やめなさい」


 でもさあ〜。

 グリノア、このままいけば潰れそうじゃない?


 国家元首が黒パンとチーズのみの日々って、致命的よ?

 初日、贅沢な食事だったのはよっぽど無理したのね。


 潰れたらどうするのかしら?

 一応、仮にもわたくしの国らしいですから、負債を国で負担かしら?


 借金のカタに妙齢お姉様のサラと小僧が奴隷落ちしたとしても賄えないから、行き場を失った負債は国全てを覆い大不況への道まっしぐらね。


 ……ごくごく単純にマズイね。


「だ、騙されないぞ!

 きっととても悪いことを企んでここに来たはずだ!」


 確かに詐欺はとっても悪いことよ?

 でもそれを目の前で言うなんて、危険よ!

 お母様の教育が足りてないわね?


 後でお母様を私のお部屋にお連れなさい。

 ベッドで教育してあげるから。


 それはともかく。


「……くくく、バレては仕方ない。

 グリノアに我が教えを広めに来たのだ!!」


 そう言って女神教の歌を歌う。


 あいすべきー女神様〜

 いとしきー女神様〜

 うつしきー女神様〜

 みを浮かべた女神様〜

 おーおー、偉大なる我が女神様〜


 さあ、小僧も一緒に!

 ソーニャちゃんも!!


 3人で踊る。

 ソーニャちゃんはとっても恥ずかしそうだ。

 羞恥心は敵よ!


 こんな毎日を過ごしつつ、小僧と一緒にグリノアの小さな教会にも何度も通って、あいうえお女神の歌を布教しておいた。


 クックック、これにてグリノアも我がブックマーク派が支配した!


「ねえ? 兄ちゃん、王様なんだよね?

 何で布教してるの?

 え? 教祖?

 あれ? じゃあ、ゲシュタルト連邦王国は教祖が王様なの?

 え? 兄ちゃん、結局何者?」


 紆余曲折、小僧にはどうやら懐かれたようだ。

 パパと呼びなさい。


 ソーニャちゃんは小僧の言葉に何度も頷いている。


「そうよねぇ、訳わかんないよね。

 分かる? これ、世界最強のNo.0よ。

 その名前だけで全てを理解してね?

 深く理解しようとしたらダメよ。

 詐欺に遭うから」


 これ扱いとは失敬な!

 ベッドで誤解を解かせて頂こう!


 ちなみに現在、俺たちは腰を痛めた爺さん神父の代わりに教会で住民の悩み相談中。


「畑の〜、成長が悪いだぁ〜、なんぞ良い方法はねぇべかぁー?」

 うん、教会で聞くことではないよね?

 でもまあ、田舎では教会がそういった相談役をすることはよくある。

 つまりグリノアがそれだけ田舎だということでもある。

 あとグリノアの代表が頼られていないとも言える。


「女神様は仰っております。

 人は1人であるべからず。

 1人で物事を考えるべきではありません。

 全ての物事には女神がお与えになられた試練があります。

 その試練が何であるのか?

 それを話し合い、それを『本にまとめて』そうして初めて解決策を得られます。


 ……とは言え、女神様は貴方たちを見捨てません。

 しばらくはこの白い粉を土とよく混ぜてばら撒きなさい。


 わたくしも共に女神様のご意志を確認しますので、それを蒔いた後の土と農作物を定期的にお持ちするように。

 それを記録して本にしてわたくしにお見せなさい」


 ここが決定的に今までのグリノアにおける女神教の教えと明らかに違うところである。


『物事を記録し、本としてまとめ後の世に引き継ぐこと』


 それは今までの女神教では禁忌に属していたことでもある。

 それを解釈次第として俺は広め直している。


 農業記とか書くのよ! お前たち!!

 それをわたくしが読むの!

 皆の者、本を捧げよ!


「なんだろう……。

 言ってることは真っ当なはずなのに、白い粉とか言ってると怪しい薬を売っているように聞こえる……。


 そんなことして本当に大丈夫なの?


 あと、法衣服持ってきてたのね。

 それっぽく見えるから、またタチが悪いわ……」


 ソーニャちゃんだまらっしゃい!!

 今、農民たちを騙くらかして俺たちの食事を提供させるようにしているのだから!!


「兄ちゃんたち、ほんとなんなの?」

「え!? 私も同類!?」


 うん、ソーニャちゃんも同類よ?

 だって俺の奥さんの1人だし。


「離婚しましょう」

 断る!


「アレス様は世界で最も偉大な方、それだけ分かれば十分でございます」

 ……密偵ちゃん居たのね?

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