第31話ゴンザレス王とグリノア③

 妙齢お姉様に連れられて来られた場所は、なかなかに豪華なグリノア様式の邸宅……。


 どれぐらいかといえば、ゲシュタルト王宮並み?

 まあ、つまりそういうことで……。


 おかしいな?

 どうしていきなりグリノアの代表とかに遭遇するのかな?

 こう……人には称号により特殊な能力が発動するとかあるのかなぁ〜?

 王になったら権力者に遭遇する確率が50%アップとか……。


 はっはっは、詐欺師の頃から元王女とか遭遇してたな。

 なら気のせいだな、よくあることなんだ。

 よくあること……、よくある……ねぇよ!!!!!


 とにかく案内されるままに風呂に入り、スッキリしたところで食堂に案内される。

 お風呂は花びらが舞ってましたのよ?

 あら? 豪勢ね?

 わたくしの美しさが引き立ちますわ?


 でもそこの壁少し崩れているわよ?

 お金がないのね?

 無理して豪華に見せなくても良いのに……ほろり。


 ふふふ、良くってよ?

 わたくしめの美しさは、そんなことでは陰らなくてよ?


 そんなふうに自らの懐の大きさと美しさを感じながら風呂から出る。


 ……だが、俺はその後に思い知ることになる。


 美しい者に美しいモノを合わせると、より美しいのだと!!

 お風呂上がりのソーニャちゃんを見た時は思わず、膝まづいてしまった。


 美しい!!

 美しすぎるわ!!

 流石は帝国の秘宝!!

 その名に偽りなし!


 呪いのクルクル縦ロールはソーニャちゃんの美しさを陰らせる呪いだったのだ!

 解き放たれたその美しさは、誰もが嫉妬するに違いない!


 ……ということをツラツラ語ったら、風呂上がりで艶っぽく赤い顔になったソーニャちゃんに蹴られた。

 正直に褒めたのに!!


 食堂に入ると豪華な食事が並ぶ。

 あら、豪勢ね?

 詐欺師と自負する俺としては、貰えるものは頂くけれど、あまり無理しなくて良いのよ?


 妙齢お姉様がニコニコしながら、正面に座っているわ。

 その背後の壁の塗装が少し剥がれていることとか、わたくし気付いていませんことよ?


「ようこそ、アレス陛下。

 それとも世界最強No.0と呼んだ方が良いかしら?」


 やっぱりバレバレだったわねぇ〜。

 そりゃそうか。


「ただのアレスかゴンザレスと呼んでくれ」

 妙齢お姉様はキョトンとした顔をする。


「否定はしないのね?

 それにしても、パトリックの言ったことを疑う訳じゃないけれど、そんなオーラは無いわね?

 うだつの上がらない詐欺師と言った方が近そうよ?」


 パトリックというのは一緒に居た出来そうな執事のことだ。

 彼女は失礼な物言いだが、馬鹿にしている訳ではなさそう。

 裏表なく正直に口にしている感じ。


「チンケな詐欺師と言ってくれ。

 所詮はまがい物だからな。

 王と言っても勘違いと所詮は他人の思惑とのコラボレーションだからな」

 俺は両手を広げて肩をすくめて見せる。


 うん、ソーニャちゃん。

 俺を睨みながらため息つかない。


 密偵ちゃん、口元モニュモニュさせてどうしたの?

 何か言いたい?


 我慢よ! お口ちゃぁぁああっくよ!

 余計なことは言わないで!!

 ここでわたくしたち養って貰うのよ!


 そして本を読みながら、左うちわの日々を過ごすのよ!

 毎日、こんな豪勢な食事じゃなくても良いの!

 養ってもらうだけで十分よ!

 お飾り王、万歳!!


「……なんでだろ?

 貴方が何を考えてるか分かる気がする……」


 ソーニャちゃん!?

 わたくしの何が分かるというのかしら!

 ベッドで分からせてあげますわよ!


 そんな俺の心の声が聞こえたかのように妙齢お姉様は少したじろぐ。


「お館様。

 心の声が漏れております」


 あらやだ、わたくしったら。

 詐欺は心の声が漏れたら詐欺が成立しないでございましてよ?


 もう王様だから良いのかしら?

 あらやだ、ここに至ってもわたくし、自分を王だと認めたくないわ。


 そう思ってグリノアにまで逃げて来たのに、バレてる時点でダメだよなぁ〜。


「えっと……。

 とりあえずアレス陛下?

 この屋敷に逗留とうりゅうして頂くということで、良いかしら?」


 一応、ここも俺の領土ということになるので追い出されることはない。


 あら? 妙齢お姉様、何を不安げな顔をされているのかしら?

 俺が何を考えてるか分からずに不安ってことかな?


 妙齢お姉様は俺の心を読み取ろうとジーッと目を見るが、俺がただ単純にタダ飯にありつこうと思っていることまで読み取れるわけがない。


 諦めてため息を一つ。

「私はサラ。

 サラ・グリノア。

 とりあえずグリノアの代表よ。

 あまり大したおもてなしは出来ないけれど、好きなだけ逗留してくれて良いわ」


 そう言って、その日は食事をして解散となった。

 それから数日……。


 日毎に俺の様子を伺うように、食事の量が減っていき、最後には黒パンとチーズのみが通常となった。


 こ、これは兵糧攻め!?

 俺を質素な食事で追い出そうという魂胆か!!

 俺は妙齢お姉様とベッドインするまではこのグリノアから出て行ったりしないぞ!!!


 そんなふうに最初は兵糧攻めかと思ったが、それがグリノアでの普通らしく、サラ・グリノアは表情一つ変えずに食堂で黒パンを噛みながら書類仕事に勤しんでいる。


「……ねぇ? 貴方、財政とか得意でしょ?

 なんとかしたら?」

 挙句の果てには、グリノアの現状を見かねたソーニャちゃんにそうささやかれてしまった。


 多分、この中でこの食事が1番辛いのソーニャちゃんなんだろうなぁ〜。

 当然、ゴンザレス平気。

 本とか読みながら黒パン齧れてれば超幸せ。


 でも美女のソーニャちゃんに耳元で囁かれたので、ゴンザレスやります。

 色々と。

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